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インバウンドで一番困っているのは日本のビジネスパーソン? ホテル不足を解消する“ビジネス民泊”

ITmedia ビジネスオンライン 8月8日(月)6時10分配信

 インバウンドが盛り上がり、訪日客が急増している。このまま流れに乗って……と思いたいところだが、困った問題が浮き上がってきた。それは“宿泊施設不足”。

【ビジネス民泊の部屋を見てみる】

 2015年の宿泊施設稼働率は60.5%と上昇を続け、東京都や大阪府といった大都市では80%以上にものぼる。繁忙期には予約が困難になり、また料金も上昇傾向にある。

 「インバウンドで最も影響があるのは日本のビジネスパーソン」

 そう語るのは、民泊サイトなど運営する、とまれる代表取締役の三口聡之介さん。今、日本のビジネスパーソンに何が起こっているのか。その問題に、どういった対応策が考えられるのか。三口さんに詳しく聞いた。

●ホテルがいっぱい、高くて取れない!

 ビジネスパーソンがインバウンドから受ける最も大きな影響――それはズバリ、出張先にあるホテルの予約を取れないことだ。「ホテルの予約が取れない!」「ホテルの料金が高くなっている!」という経験をした人も多いのでは。

 「出張によく行く人は痛感していることだと思うが、ビジネスの中心地である東京・大阪でホテルが取りにくくなっている」(三口さん)

 繁忙期なら部屋自体が埋まってしまっていたり、部屋はあっても「9平米で3万円」であったり……。東京・大阪での出張に、これまでよりも多いコストが掛かるようになってきている。

 「訪日観光客が1000万人を超えた2013年ごろから『予約を取りにくい』という声が聞こえるようになっていた。2000万人、いずれは4000万人を目指す中で、宿泊施設はもっともっと足りなくなるだろう」

 宿泊施設不足を解消するために、行政は規制緩和やラブホテルの一般ホテル化などを押し進めようとしているが、まだまだ追い付いてはいない。そこで“特効薬”として三口さんが提案したのが“民泊の利用”だ。

 「ホテルの予約が取れないとなったときに、代替手段として民泊が利用されるようになってほしい」

 そんな思いもあって、三口さんが15年12月に立ち上げたのが民泊仲介プラットフォームサービス「STAY JAPAN」。そこで積極的にアピールしたのが、民泊をビジネスでの出張や長期滞在用の宿として利用する「ビジネス民泊」だ。

●ビジネス民泊、どこがメリット?

 ビジネスパーソンの中には、支社に出向いたり商談に出掛けたりと、中長期の出張に行かなくてはならない人も少なくない(筆者の知人には、年に200日出張が入っているという人もいる)。ビジネス民泊は、そういった会社員に向けての取り組みだ。

 宿泊料は安いビジネスホテルと比べると多少割高になるものもある。ただし、ワンルーム~1Kのマンションを利用しているので、一定の広さ(最低でも25平米以上)が担保されているのがポイントだ。

 ほとんどの物件で洗濯機、浴室乾燥機、電子レンジ、冷蔵庫といった家電がそろっているので、洗濯や料理ができるのも評判がいい。長期のホテル滞在だと、洗濯に不便を感じたり、外食続きで財布や健康に影響が……というケースも少なくない。もちろんWi-Fiが完備している部屋も多いので、部屋での仕事に支障はない。

 ホテル暮らしで地味に面倒なのがカギの扱い。外出するときはいちいちフロントに預けなければいけないが、ビジネス民泊の場合、期間中カギを自分で管理するので、どんなタイミングでも気兼ねなく外出ができる。

 さらに言えば、部屋に人を呼んでも大丈夫。親しくなった相手と宅飲みを……ということもできるかも(ただし、泊めてしまうと部屋によっては旅館業法違反になることもあるので、“宅飲みからの寝落ち”にはくれぐれもご注意)。

 ビジネス民泊では、“ちょっといいマンションに単身赴任”しているような感覚で過ごせるのだ。「STAY JAPAN」の公認民泊なら事前に「ここで民泊をやっている」と近隣住民へしっかり周知しているので、近隣とのトラブルも少ない。

 まだ構想中だが、今後はよりビジネスに特化した部屋も作ることを企画しているのだとか。

 「よく『資料が印刷できなくて困る』という声を聞く。コピー機やプリンタを備えるようにすれば、その需要に応えられる。プロジェクターなどを付けて、オフィスやSOHO利用方面にも伸ばしていきたい」

●「求めている層に届いた」ビジネス民泊

 「STAY JAPAN」でビジネス民泊を押し出し始めてから約半年。最初は「求めている層は多いはずだが、本当にいるのだろうか」と疑っていたが、滑り出しは「思ったより利用があった」のだという。

 現在、プラットフォーム上で登録されている部屋が250弱。農家民宿・体験民宿が200件ほどで、ビジネス使用をアピールしたものは約30部屋だ。その中には、とまれるが自社で運用する物件も3部屋ある。

 「本来、とまれるはプラットフォーマ―。自社で部屋を運用する必要はない。だが、いわば“民泊のお手本”を示すために、自分たちで部屋を借り上げている。現在は3部屋だが、いずれは100部屋に増やしていきたい」

 ビジネス民泊30部屋の6月末までの使用状況は567泊。そのうち法人でまとめて借りる利用は163泊だ。1週間、1カ月単位で借りられている部屋も多く、部屋によっては1カ月先、2カ月先まで予約が入っているものもある。

 「現在は利用者の85%以上が国内。海外からの利用は、旅行者というよりも、海外に住んでいる日本人家族の帰省利用といったケースが多い。観光客以外で宿を求めている層にしっかり届いた」

 まだビジネスとしては投資状態にあるが、将来的には登録を3000部屋ほどに伸ばしていければと三口さんは考えている。

●合法にこだわるSTAY JAPAN

 ……と、聞くと、「自分もいっちょビジネス民泊をやってみようか」と思う人もいるかもしれない。しかし要注意。きちんと勉強しないで民泊ビジネスに参入すると、「法律違反」になる可能性がある。

 本来、宿泊業を営む場合、旅館業法の営業許可を取得しなくてはならない。しかし現状は多くの民泊が違法状態にある。旅館業法の簡易宿所の許可を取るか、国家戦略特区民泊の認定を取らなければ、クリーンな営業にはならないのだ。

 STAY JAPANのビジネス民泊は、主に特区民泊の認定を取った物件だ。現在特区民泊の実施可能エリアは東京都大田区や大阪府の一部地域のみなので、ビジネス民泊の物件もその地域に限られる。今後10月より大阪市での特区民泊の開始が予定されている。

 また、許可の条件に「6泊7日以上」というものがあるので、2~3日の出張では利用できない。

 正直なところ、民泊ビジネスを“合法”で行うには、さまざまな制約がある。そんな中で、STAY JAPANは“合法”を前面に押し出しているサービスだ。プラットフォーム上で部屋を登録・公開するには、旅館業法や自治体からの許可証を提出する必要がある。合法にこだわったのはなぜか――と尋ねたところ、「普通に考えて、当たり前といえば当たり前」という答えがあっさりと返ってきた。

 「民泊を事業として運営するには、特区など一部の地域を除いて旅館業法の範囲内になる。現行法では許可を得ていないものは完全ブラックだ。『捕まらないからいいや』というわけにはいかない」

 三口さんは「本来民泊は良いもの。ただし、ルールを整備していく必要がある」と考えている。「ブラックな部分に手を出しながら『規制緩和してくれ』と言っても説得力がない。現在のルールを守った上で提言していくことが重要」と語る。

 民泊の多くはまだ違法物件が多く、登録できる物件を合法に絞ると、なかなか登録数が伸びず、プラットフォーム運営のノウハウが蓄積されにくいのは事実だ。三口さんが懸念しているのが、法整備が現状の違法状態を追認する形で行われること。「やったもん勝ちになってしまうと……」と目を伏せる。

 しかしその一方で、今この段階で合法にこだわることで生まれた効果もある。

 「コンプライアンスを重視している企業と一緒に組むことができたのは大きい。企業側も民泊に魅力を感じているが、調べていくと違法物件を扱っているケースが多く『これでは一緒に仕事はできない……』となることも多かった。当社は完全合法をしっかりと表明しているので安心していただいている」

 とまれるは今年4月、クールジャパン機構、京王電鉄などから総額約14億円の資金を調達している。部屋の利用もビジネス民泊では大手企業からの予約が多く、安定した部屋の稼働にもつながっている。

●ホテル・旅館との協力関係

 民泊関係者や利用者だけではなく、既存の旅館業関係者も民泊に注目している。「旅館業法の許可をもらうために、こちらは手間もコストもかけている。違法状態でやられてしまっては不公平だ」という思いを抱いている関係者も少なくない。

 合法を貫くことで、そうした旅館業関係者との関係が悪化せず、協力できる――というメリットもあった。

 とまれるは、東京都蒲田の一部民泊で、フロント業務を近隣旅館・ホテルに委託している。民泊では部屋の鍵の受け渡しを事業者が行う必要があるが(鍵の受け渡しを代行する企業もある)、初対面の相手から受け取ることに心理的抵抗を感じる利用者もいる。そこで、ホテルのフロントに担当してもらい、安心感が生まれるという効果を狙う。

 さらに三口さんはホテル・旅館業者に、民泊運営の提案をしているのだという。

 「現在、ホテルの部屋は埋まっているので、さらに売り上げを上げたいと考えても、これ以上伸ばしようがない。新しいホテルを増やすにはちょっとリスクが大きく、また許可が下りないこともある」

 そこで、近くのマンションを数室借りて“別館”として運用する。中長期滞在客を別館で対応するようにすることで、今よりも多くの短期客を“本館”で対応できるようになる。

 長いスパンで見ると、利用客が減ってしまった場合に大きな設備投資はリスクになる。民泊的な運営であれば、別館の借り上げをやめればいいので、新ホテルを造るよりも弾力的に運用できる。

 「掃除やベッドメークといったノウハウが、ホテル・旅館運営者に蓄積されているので、ホスピタリティの高いサービスを提供できるはず。以前はにべもなく断られていたが、最近は『どこかがやってみたら、やってみたい』といった反応に変わってきている」

●「訪日客6000万人突破」達成に必要なもの

 三口さんは、民泊のルール作りに積極的に参加し、行政からも意見を聞かれる立場にある。そういった背景もあって、さまざまな相談が寄せられるのだという。「個人で民泊を運営したい」「地方自治体で余っている部屋を活用したい」「フェスをやるがホテルが足りない」「旅行者にホテルをアサインできない」……悩みや問題を聞きつつ、協力や提携ができる部分があれば力を貸している。

 「民泊はネガティブに捉えられがち。しかし閉塞的になるのではなく、新しい活用法や提案をしていき、ポジティブに盛り上げていきたい」

 海外では、民泊が“1つの旅行スタイル”として確立されてきているという。ネガティブなイメージから民泊が盛り上がらなければ、「日本は民泊がないのか、じゃあ他の国に旅行に行こう」という選択をされてしまうことだってあり得る。

 「今の状況はLCCが台頭し始めたころと似ている」と三口さんは言う。格安LCCが出てくれば、他の航空会社が打撃を受けるのではと思われていたが、結果として「これまで飛行機で旅行をしていなかった層」を取り入れ、国内の旅行者人数が増えた。安さを求める層がLCCに、サービスや安心を求める層は既存の航空会社に――と、現状は利用の“乗り分け”がなされている。

 三口さんは宿泊施設も同じだと考えている。割安感や地域での生活体験や人との交流などを求める層では民泊に、ホスピタリティでは既存のホテルにと“泊まり分け”する。国外の旅行者も、国内のビジネスパーソンも同じだ。

 「民泊に反対するのではなくて、取り入れていく――そんな意識を業界全体で持っていかなければ、2030年の目標である訪日観光客6000万人は達成できない」

最終更新:8月8日(月)6時10分

ITmedia ビジネスオンライン

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