ここから本文です

マツダとボルボがレストアプログラムを提供する意義

ITmedia ビジネスオンライン 8月8日(月)6時51分配信

 8月5日~7日、幕張メッセで新しい自動車のイベント「オートモビル カウンシル」が開催された。主催者の説明によれば「国産メーカー、海外メーカー、そしてヘリテージカー専売店が手を組み『あの名車』と出会う、一大イベント」とのこと。パリで開催される「レトロモビル」に範を取ったものだと言う。

【ボルボのスポーツモデルであったP1800。ベースになったアマゾンは世界発のシートベルト装着車】

 レトロモビルは、原則的に旧車指向のイベントで、恐らく世界の自動車ショーの中で最も珍車の出現度が高いイベントだろう。国際格のモーターショーのような、メーカー主導の商業的ビジネスショーというよりは、オーナーズクラブや非メーカー系ショップが盛り上げるフェスティバルだ。物の売買も行われていて、ある意味ではモーターショーより営業的な側面もあるが、好事家によるフリーマーケットのような雰囲気で、確かに文化の香りがする。

 さて、オートモビル カウンシルが日本にも自動車文化を……という文脈で考えられたのはよく分かる。ただ、古いクルマ=自動車文化と言われると、それはどうも短絡的に思える。

 筆者はかつて自動車趣味系の雑誌の編集部にいたし、自分でもウェーバーキャブ付きの古いクルマを長年所有していたので、個人としてはそういうクルマは好きだ。ただ、誤解を恐れずに言えば、旧車趣味の世界はどこか金満的で、持っているクルマで序列がついてしまうような底の浅さがいつも気になる。別に古いクルマを持っていることは偉くない。むしろ環境面を考えると、昭和51年(1976年)の排ガス規制以前のクルマ1台で、最新のクルマ100台分レベルの環境破壊を行ってしまうという現実も自動車趣味人は知るべきだと思う。

 さはありながら、褒められたことをしているわけではないことを知りつつ、それでも好きな人たちのやむにやまれぬ非合理的な情熱で盛り上がってしまう何かこそが文化なのであって、現世利益的なステータスを追うならただの金満自慢である。

 ちょっと脱線するが、古いクルマの追加課税は概念的には賛成だ。自分が趣味を楽ませてもらうためだ。誇りを持って払うべきだと思う。ただし1976年、1978年、2000年と大きな規制値の変更があった年次に合わせる課税ステップであるべきだろう。それが一律に初年度登録から13年で割り増しというのは、建前に対して課税法がおかしいと思う。「新車が買えない貧乏人に課税するな」は納得がいくが、「自動車文化の振興に貢献しているのだから課税するな」はなしだろう。文化は金がかかる。払ってこそ文化である。

●2017年から初代ロードスターのレストアを

 さて、話を戻す。文化がテーマなのは分かった。だが、何がどう文化なのか、そのあたりの今後の発展方向がまだ定かでないイベントだったが、オートモビル カウンシルのプレスカンファレンスで、今後「自動車文化」を本当に豊かにしていくかもしれない話を2つ聞いた。どちらもレストア(修復)の話だ。

 マツダは初代ロードスターのレストア用部品の供給を2017年から始めるとアナウンスし、ボルボはレストアプログラムを既にスタートしたと発表した。

 まずはマツダの話からだ。7月1日付けで、ロードスターの主査に就任した中山雅氏は、2017年から初代ロードスターのレストアプログラムを形にしていきたいとアナウンスした。

 初代ロードスターの発売は1989年。既に26年が経過したことになる。特にユーザーの間で最も心配されているのは幌の供給だ。NAロードスターのビニール製の幌はその素材の供給自体を随分前にサプライヤーが止めてしまった。マツダは素材供給の終了前に大量の素材を発注してストックしていたのだが、蛇の道は蛇、去年あたりに「ビニール素材の幌の在庫がヤバいらしい」という情報がユーザーの間に回るや否や、あっという間にストックがなくなってしまった。

 クロス素材の幌は現状でも供給ができるので、これまでの自動車メーカーの対応であれば「同等の機能を持つ部品を代替供給しています」という話になるのが普通。26年という歳月を考えると、それでも相当良心的だ。どこのメーカーとは言わないが、あまりにも早期に部品供給を止めてしまうので、新車を買う気がなくなったとユーザーがぼやいていることすらあるのだ。ところがマツダは「オリジナル通りのビニールじゃないと嫌だ」と駄々をこねるマニアにちゃんと向き合おうというのだ。

 それだけではない。何とタイヤのリプロダクションを計画中だという。実は初代ロードスターのタイヤは新車でデビューした当時からクラシカルなトレッドパターンを持っていた。純正装着タイヤはブリヂストン、ダンロップ、ヨコハマの3社から供給を受けており、それらは当然それぞれ別のトレッドデザインを持っていたが、一様にレトロクラッシックなトレッドパターンを与えられていたのである。これらのトレッドパターンは、当時の開発チームにいた立花啓毅氏のこだわりで各社に要請してわざわざ作ってもらったものだったと聞く。

 サイズは185/60R14。懐かしきテンロク・クラスの標準的サイズだけあって、今でもかなり選択肢が多い方だ。しかしタイヤはクルマの雰囲気を大きく変える。見た目だけでなくハンドリングも変わるし、細かいことを言えば、昨今のハイグリップタイヤは、当時のシャシー設計で想定したより遙かにグリップが高く、長い目で見ればボディの劣化を促進する可能性もある。だから、もう一度オリジナルの状態に戻したいと考える人がいるのはよく分かる。さすがに3社全部のタイヤをリプロダクションでというのは無理だろうが、少なくとも1社と現在交渉が進みつつあるらしい。マツダも大変だと思いながら尋ねてみると、このタイヤのリプロダクションの話はユーザーからのリクエストではなく、マツダ自身が言い出したことだと中山氏は言うのだ。

 それだけのこだわりがあるなら、当然レストアのパッケージプログラムとかも考えているのではないかと中山氏に尋ねると、まだはっきりしたことが決まっているわけではないが、検討はしているとのことだった。

 ほかにどういう要望が多いのかを尋ねると、やはり塗装に関する要望は多いという。自動車メーカー自身が塗装を引き受けるとなれば、最も期待するのは下塗りのカチオン塗装だ。それは錆(さび)を防止するために下地塗料の入ったプールにボディを丸ごとつける作業だ。このときボディには電流が流されており、陽極性の塗料と陰極性のボディのおかげで均一かつ細かいところまでしっかり防錆塗装ができる。これは街の板金修理工場では不可能な作業で、自動車メーカーだけが可能な下地処理だ。新車の場合、この後ロボット塗装機でボディ色を数層に渡って塗り、最後にクリア塗装を掛けることで塗装が完成する。

 そこで中山氏に勢い込んで尋ねた。「カチオン塗装ができたりする可能性は?」。中山氏は苦笑いしながら「いやさすがにそこまでは」と言ってから、一瞬考え込み、もしかしたら要望が多ければ何か方法があるかもしれませんという。あくまでもその場で出たただのアイデアであり、マツダとしてはできるともできないとも言っていないが、もしそんなことができたら素晴らしいではないか。

●ボルボのレストア体制

 一方、ボルボである。ボルボでは既にレストア作業の受付を始めている。現在はボルボ東名横浜にクラッシック・ガレージを設立して、受付拠点としているが、将来的にこれを拡大し、拠点数を増やしていくとのことだ。

 マネージャーの阿部昭男氏に詳細を尋ねてみた。対象は特に限らないが、やはり要望が多いのは240と850、940だそうで、これらの外装に関する部分、モールや灯火類には既に欠品部品が出ているのだそうだ。クラシック・ガレージではこれらの部品は社外部品を用いた修理ができる。しかし社外部品を使うとメーカー保証の対象外になってしまう。その辺りをしっかり説明しながら入念な打ち合わせで作業内容を決めていくのだという。

 そのほかにステアリングギヤボックスなども欠品が出ているのだそうだが、これは中古部品を分解整備したリビルド品を使うことで修理が可能だという。ボルボでも顧客の要望が多ければ、レストアのパッケージプログラム化は検討したいという。筆者が心配したのは850あたりのCPU回りだ。1990年代の欧州車の最大の泣き所はコンピューター系で、いまさら8ビットのチップを作ってくれるところがなく、修理が効かないことが多いのだ。ところが、ボルボはまだ十分に純正部品で対応できるのだそうだ。

 実のところ、本当のレストアというのは非常にハードルが高い。今から15年ほど前にベンツのオールドタイマーセンターを取材した際に聞いて驚いた話なのだが、本来のレストアとは、クルマを分解して劣化、損傷している部品を全て交換することである。使える部品を再利用するのは通常の修理の範疇(はんちゅう)であり、レストアとは、美観も含めて完全でない部品は全部変える作業だ。だから、いくら掛かるかは作業が終わってみないと分からない。予算いくら以内でレストアしてくれというのはレストアではないのだという。ちなみにオールドタイマーセンターでは中古車をベースにレストア済みの完成車も扱っていたが、お値段は190SLベースで約2000万円だったと記憶している。

 そんな話を阿部氏にしたところ「あそこはオリジナルの設計図を持っているので、ねじ一本まで全部作れてしまいますから」とのこと、そういう本当のレストアのありかたを分かっている人がいるというのは非常に心強い。現状、ボルボではもう少しカジュアルな意味でレストアを行っており、普通の修理だが、たまたまクルマが古いというケースでもちゃんと受け付けてくれる。

 また面白いのは、このレストアプログラムが日本発だという点だ。実は筆者は、最初に話を聞いたとき、本国のプログラムを日本でも始めたのだなと思った。ところがそうではなかった。実はきっかけはボルボ・ジャパンの木村隆之社長にあった。木村社長はトヨタ、ユニクロ、日産と渡り歩いてボルボ・ジャパンの社長に就任した人だ。昔から古いクルマに興味があったが、ボルボ・ジャパンの社長に就任したのを機にボルボP1800を購入したのがきっかけになった。

 余談だが、P1800はボルボ・アマゾンのクーペバージョンであり、ベースとなったアマゾンは世界で始めてシートベルトを装備したクルマ。ボルボの「安全」というコンセプトに大きな影響を与えた1台である。さて、木村社長はこのP1800を駆って、さまざまなイベントに出場し始めてその楽しさにすっかりハマってしまった。そうするうちに、ヒストリックモデルのケアを行うことはブランドイメージに大きな意味があるのではないかと考えたそうだ。こうして日本発のレストアプログラムがスタートしたのである。

 この2つの事象をもって、効率を追求してきた経営の変化だと言い張るのはちょっと言い過ぎだと思う。ただし、無駄や非効率のないところに文化はない。効率化の方法はメソッドであって、カルチャーではないからだ。こういう1つずつの積み重ねによって、やがて日本にも違和感のない自動車文化が根付くかもしれない。

(池田直渡)

最終更新:8月8日(月)12時0分

ITmedia ビジネスオンライン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

暗闇で光るサメと驚くほど美しい海洋生物たち
波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]