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コンビニに血まみれの客が来ても、警察に通報しない理由

ITmedia ビジネスオンライン 8月9日(火)6時25分配信

 7月26日、神奈川県相模原市にある障がい者用の施設で、死者19人負傷者26人という殺傷事件が起きた。報道によると、この凄惨(せいさん)な事件の後、犯人は事件後にコンビニに立ち寄り、血の付いた紙幣で代金を支払ったという。

【認知症を患い徘徊している人も】

 読者の多くは「血の付いた紙幣で支払った……って、店員はどう対応したの?」「コンビニから通報したのかなあ」と思ったのではないだろうか。当然、コンビニの店員はこんな事件が起きているなど知る由もない。筆者も、犯人が来店したときに店員がどういった対応をしたのか、気になるところではある。

 事件性の有無にかかわらず、コンビニにはいろいろなお客さんが来店する。今回は、筆者が出会ったチョット困ったお客さんたちを紹介しよう。

●コスプレイヤーな人たち

 毎年10月31日に行われるハロウィーンならともかく、お祭りでも何でもないときに妙なかっこうで来店するお客さんがいる。

 マジックでおでこに「肉」と書いた人や、できそこないの「猫型ロボット」のような人たち――当人は人を笑わせたいのかもしれないが、コンビニの店員は「お客さんを笑う」ことに慣れていない。いや、そもそも客商売をしている身として「笑って」はいけない。仮に、店内で滑って転んだお客さんを笑ったりしたら大変なことになる。というわけで、お客さんが笑ってほしいと思っているのか、それとも偶然なのかが分からない状況で笑うのはトラブルのもとだと、いつも頭の片隅に置いている。

●コスプレ? それともイジメ?

 あるとき、パンツ一丁姿で頭にリボンを巻いた男性が来店してきた。「いつものコスプレのいたずらか?」と思ったのもつかの間、「今から脱ぐので写真を撮ってください」と言ってきたのだ。

 そういう趣味の人なのだろうか……。さすがにこれには、百戦錬磨の筆者も反応に困った。男性に問いただすと「裸を撮影してもらってこいと命令された」と震えながら言う。他のお客さんの目もあるので、ひとまず彼をバックルームに連れて行った。

 「イジメられているのか? 困っているのなら警察を呼ぼうか?」と進言すると、「それだけは止めて」と泣き出す始末。いい大人なのだが、イジメられているのが明らかなだけに、単に「帰ってくれ」と言うこともできない。この状況を、イジメている奴がどこかで監視しているかもしれない。しばらく考えた末、店舗入口から「ふざけるな! とっとと帰れ」と一芝居打って、その男性を帰した(その後の対応は後ほど)。

●汚物まみれの人たち

 お食事中の人がいたら失礼する。汚物まみれのネタを話すと、同業者は確実に賛同してくれる。ということは、かつて筆者が経営していた店舗だけでなく、一定の人数がいるということだ。

 大半は認知症を患った老人や泥酔者だが、受け答えがきちんとした人もいるので謎は深まるばかりだ。なぜ汚物まみれなのかさっぱり理解できないが、その姿を見た店内のお客さんたちは一瞬でいなくなる。周囲の反応としてはごく当たり前なのだが、こちらとしては商売あがったりになってしまうので困る。

●血まみれの人が来たら、どうする?

 冒頭でも触れたが、頭や手足から血を流している人が来店するのは、実は珍しいことではない。

 ほとんどの人は「そこで転んじゃったよ」と血が出ている理由を言いながら、ばんそうこうや包帯、タオル、ティッシュといった手当てに使える商品を購入する。それならまだ想定の範囲内だが、中には「スプラッター映画(殺害シーンなどが多い映画)の撮影でもしているのか?」と疑うほど、大量に出血している人もいる。さすがに反応しないわけにもいかないので、「どうかなさいましたか?」と一応聞くのだが、そういう場合は逆に「なんでもない」の一言で終わることが多い。

 さて、このような状況のとき、コンビニの店員は警察に通報するのだろうか?

 パンツ一丁事件のときはイジメの可能性が高いと判断して、筆者が110番通報した。警察的には大ごとにはならないだろうが、「周辺の見回り、よろしくお願いします」とだけ伝えた。

 汚物にまみれた人が来店した場合は、認知症を患った老人が徘徊(はいかい)していると判断できれば通報する。家族が捜索願を出していることもあるので、コンビニではアルバイトも含め、認知症を患っている人を見かけたときには通報するように周知されている。また、受け答えがしっかりした人や単なる酔っぱらいがなかなか帰ってくれない場合も、営業妨害として通報する。

 そして、血まみれの人が来たらどうするのかと言うと、通報しないケースが多い。出血の理由を自分で説明していれば通報しないし、そのわけを言わない人も「なんでもない」と言っているのだから、こちらも「なんでもないのだろう」と素直に受け止めて通報しない。大量に出血していたら「なんでもない」はずはないのだが、通報しない一番の理由は、たとえ通報しても警察が来るころには対象者がいないというパターンがほとんどだからだ。

 パンツ一丁事件にしても、通報したところで対象者を発見することは難しいし、仕事とはいえ警察としても性犯罪者でもない人を追いかける必要もないだろう。

 ちなみに、ATMを設置しているコンビニは民間の警備会社と契約を結んでいるが、使い勝手が悪い。なぜなら、警察とは違って民間の警備会社は職務上の権力を持っていないからだ。仮に呼んだとしても、せいぜいできることと言えば、暴言を吐きまくるクレーマーを店から追い出す程度だ。

●流血という非日常は日常

 今回の相模原事件について、筆者の20年に及ぶコンビニ経験からすると、恐らくコンビニの店員は通報しなかったのではないかと推測している。

 「えっ、何もしないの?」と不思議に思う読者も少なくないだろう。しかし、これまで書いた通り、コンビニには思いもよらないお客さんが来店するので「いちいち反応していられない」というのが本音だ。ほとんどが凶悪犯罪とは無関係と思っているので、通報すらためらってしまう。

 仮に、筆者が相模原事件の犯人が立ち寄ったコンビニのオーナーだったとしても、「なんだよ、血が付いたお札じゃATMで入金できないじゃないか」「窓口で交換だと? めんどくさいなあ」――その程度の反応だったと思う。人として冷たいと思われるかもしれないが、「触らぬ神に祟(たた)りなし」で通報しないというわけではない。あまりにもいろいろな人が来るコンビニにとって、流血という非日常は日常になってしまっているのが現状なのだ。

(川乃もりや)

最終更新:8月9日(火)7時24分

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