ここから本文です

出光が恐れているのは何か、昭和シェルが嫌っているのは誰か

ITmedia ビジネスオンライン 8月9日(火)8時5分配信

 出光興産と昭和シェル石油の合併に暗雲が立ち込めている。

 出光の株式の33.92%を握る創業家が、定時株主総会の場で「自主独立の道を」と統合へ待ったをかけ、その後の経営陣との話し合いも平行線が続いているのだ。

【出光の創業家は昭和シェルの労働組合を恐れている!?】

 国内ガソリン市場が縮小し、業界再編が加速するなかで生き残り策を模索する出光にとってシェルとの統合は決して悪い話ではない。むしろ、力を入れている地熱・風力発電など自然再生エネルギーやアジア進出ではメリットのほうが大きい。紆余曲折はあったものの昨年11月、「対等統合」という方針も決まったはずだ。

 なぜここにきてちゃぶ台返しともいうべき、「創業家の乱」が起きてしまったのか。前会長であり、創業者・出光佐三氏の息子さんである昭介氏の代理人を務める、浜田卓二郎顧問弁護士はこのようにおっしゃっている。

 「体質や文化の異なる企業の合併で効果を出すのは難しい」

 だから、それを乗り越えるためにいろいろ協議しているんでしょ、という意見もあろうが、確かにこの指摘には一理ある。

 出光と昭和シェルは、周囲から「あの2人、どう考えてもすぐ別れそう」と囁(ささや)かれる男女のように、「相性」がいいとは言い難いからだ。

 例えば、石油元売がなによりも大切にしなくてはいけない中東に対するスタンスからして真逆だ。出光は百田尚樹氏の出光佐三氏をモデルにした小説『海賊と呼ばれた男』(講談社)でも描かれたように、国際的な石油カルテルに抵抗し、英国艦隊のイラン封鎖をかいくぐって石油を輸入したということもあって、いまだイランとつながりが深い。

 昭和シェルは第二の大株主がサウジアラビアの国営企業サウジアラムコ。ご存じのように、イランはシーア派が多く、サウジはスンニ派で歴史的に対立を繰り返しており、今年頭には国交を断絶している。

 両国の対立は激化しており、2カ月ほど前にもイスラム教の聖地メッカへの巡礼で、サウジ側がイラン人巡礼者へのビザ発給を困難にしている、と国際的にも大きな話題になった。

●創業家が心配している「40年戦争」

 こんな一触即発の空気のなかで「サウジ系企業」とくっついたら、1952年から信頼関係を築いてきたイランからそっぽを向かれるのではないか、ということを創業家側は懸念しているらしい。

 ただ、そのようなビジネスリスクよりも、創業家が心配していることがほかにあるのではないかと思っている。

 それは「40年紛争」だ。

 よく言われることだが、出光佐三の経営理念である「大家族主義」を掲げる出光には、労働組合というものが存在しない。

 もともとはタイムカードも定年退職も必要なし、社員は残業手当を受け取らない、など「出光の七不思議」と世間から呼ばれるほどユニークな人事労務制度があったが、2000年の外部資本導入と上場によって、次第にいまの時代にそぐう制度へと見直しが行われていったが、「労働組合」に関しては今にいたるまで結成の気配はなかった。

 では、「婚約相手」の昭和シェルはどうかというと、もちろんある。しかも、そんじゃそこらの組合ではなく、数多の労働争議を乗り越えてきた百戦錬磨の闘士たちの集団だ。

 「全石油昭和シェル労働組合」のWebサイトには「闘いつづけて40年」という言葉とともに略史が紹介されている。1949年にシェル石油本社経理部員を中心に組合が結成されてから、賃上げ闘争、住宅手当闘争などを続けてきた。

 会社側との対立が一気に激化するのが1970年から。組合員だからということでの不当配置や賃金差別などがあり、組合敵視が始まったという。もちろん、労組側もストや抗議で抵抗し、2000年には、昭和シェルの大阪支店の従業員6人が組合員だという理由で、賃金昇給差別を受けたとして大阪府地方労働委員会に申し立て、救済命令が下されたことを皮切りに、ほかの労働争議でも「勝利命令・判決」が相次いだ。

 そして、2010年には、ついに会社側から和解交渉を引き出し、40年間続けていた労使紛争一括解決和解成立したのだ。

●両社が価値観を合わせるのは難しい

 このような強い労組が存在し、経営陣と一部社員が長い対立を続けてきた昭和シェルと、いまだに創業者を「店主」と呼び、「家族は社員」とうたう出光が、ひとつの船に乗り合わせても、果たしてうまくいくのかという疑問は誰でも思う。創業家代理人の浜田弁護士も『東洋経済オンライン』のインタビューで、名指しさえしないものの、「労組」への不安をのぞかせている。

 『企業経営を考えると必要なのは、創業時からの出光のように、労働組合がなくて自由闊達な意見交換ができ、即座にいろんな事態に対応していけることだ』(東洋経済オンライン7月11日)

 もちろん、不安に感じているのは昭和シェル労組側も同じようで、統合話が出てから疑問や苦言を呈している。例えば、石油元売大手の労働時間は1日7時間半が基本だが、出光が8時間を掲げていることに反発。さらに、「対等統合」に対する不信感もあるのか、以下のような手紙を出光側に送っている。

 『私たちは1985年のシェル石油と昭和石油の合併を経験しております。合併発表時、会社は両社長名で「社員の雇用と勤続年数を引き継ぐ」と表明しました。しかし合併から2年半後に突然「役職定年制」を導入し、55歳以上の管理職を退職に追いやりました(実質的な指名解雇です)。当時労働組合には「○○と□□(当時の会長と社長。ともに故人)を串刺しにしてやりたい」などの手紙や怒りの声が管理職から寄せられました。今回の「統合」にあたっては、間違ってもこのようなことが起きてはなりません』

 とはいえ、出光も創業者が、「首切りなし」を理念として掲げ、戦後の不況のなかでそれをどうにか実現したことで名を成した企業だ。社員の雇用を守るというところでは、どうにか昭和シェル労組と調整をすることも不可能ではないかと思う。

 ただ、残念ながら、いまのままでは、創業家と昭和シェル労組の歩み寄りはちと難しいかもしれない。

 今月の雑誌『FACTA』で、ジャーナリストの大西康之氏が報じたところによると、創業家と経営陣の話し合いがもたれ決裂した翌日、出光美術館に、出光昭介氏の妻・千恵子氏とともにある人物が訪れたという。

 百田尚樹氏だ。

 そりゃあ『海賊と呼ばれた男』の作者なんだから当然、創業家とは仲がいい。一緒にいたって問題ないだろと思うかもしれないが、『FACTA』によると、創業家は百田氏を通じて世論を味方につけようとしているという。つまりは、「情報戦」を仕掛けようというのだ。

 もしこれが事実ならば、出光と昭和シェルの「異文化融合」は先行きが暗い。

●もう一度「店主」の言葉をかみしめて

 昭和シェル労組の「組合の主張」に、「反戦平和」「憲法改悪に反対します」「原発に反対します」とあるように、沖縄の基地問題にも積極的に関わっていらっしゃる。機関紙『パイプライン』も、沖縄県民大会から、全労協脱原発集会から、国会前のデモまで紹介されている。

 いわずもがな、このような「平和運動家」にとって百田氏ほど憎らしい相手はいない。そんな人物をもし本当に世論を動かそうとひっぱり出そうというのなら、ただでさえこじれている対立が、修復不能なほど決定的な亀裂になってしまうのではないか。

 「大家族主義」を唱えた出光佐三氏は、実は「人類愛」を説いたことでも知られている。晩年にこんな言葉がある。

 『お互いに仲良く和の力を発揮する。対立闘争なんかない、これだけです。だから諸君は、今後いかなる場合でも相手に対して、愛情をもってほしい』(出光Webサイト「創業者 出光佐三」より)

 そんな理念はきれいごとに過ぎないと思うかもしれない。しかし、出光は全社員が45日間かけて佐三氏の理念を学ぶ「店主室教育」に代表されるように、なによりもその理念を大事にしてきたのではなかったか。

 経営陣も創業家も、もう一度「店主」の言葉をかみしめていただきたい。

(窪田順生)

最終更新:8月9日(火)11時16分

ITmedia ビジネスオンライン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

地球外生命を宿しているかもしれない1つの惑星と3つの衛星
地球外にも生命はいるのでしょうか?NASA(アメリカ航空宇宙局)の惑星科学部門の部門長であるジェームズ・グリーンと一緒に、地球外生命を宿していそうな場所を太陽系内の中で探してみましょう。 [new]