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5G実現へ検討される新たな周波数帯と変調方式

EDN Japan 8月9日(火)11時45分配信

 「World Radio Communication Conference 2015(WRC2015)」で、第5世代移動通信(5G)の周波数帯に6GHzを超えるセンチ波、ミリ波帯の候補が選定された。まだ明確になっていない6GHzを超える周波数帯のチャンネルモデルを明らかにし、どのようにeMBB(enhanced Mobile BroadBand)をサポートするかが課題の1つとなっている。

【各周波数帯における利用可能な帯域幅イメージ 】

 効率的な周波数の利用、低遅延など5Gの要件実現に向け、LTE/LTE-Advancedで用いられるOFDM変調方式を進化させた方式や、新たな変調方式が議論されている。連載2回目となる今回は、5G実現に向けた新たなエアインタフェースについて解説する。

■検討されている新たなスペクトラム

 シャノンの公式に基づくと、システム容量を増加させる最も容易な方法は、送信する帯域幅(バンド幅)を広げることである。現在、利用可能な6GHz以下の周波数帯では、テレビ信号やその他の用途として既に使用されているため、帯域幅を広げることは難しい。仮に広げることができたとしても、1.3GHz程度の帯域しか5Gのために確保することができない。ITU(国際電気通信連合)の調査によると、センチ波(20GHz)以上の周波数帯においては、トータルで30GHz以上の帯域幅を確保できる。そのため、各信号に1~2GHzもの帯域を割り当てることが可能である。また、カバレッジ、ハイモビリティ、高信頼性を確保するためには6GHz以下の利用も必要不可欠である。

 WRC2015において、6GHz以上の周波数で5Gのサポートが可能となりそうな周波数帯として7つの候補が挙げられた。詳細は、下記の図を見てほしい。

5Gで検討されている周波数帯

・24.25~27.5GHz
・31.8~33.4GHz
・37.0~43.5GHz
・45.4~50.2GHz
・50.4~52.6GHz
・66~76GHz
・81~86GHz

 北米、韓国、日本で盛んに研究されている28GHz帯は残念ながら候補に含まれていない。28GHz帯は、中国や欧州などで衛星通信用途に割り当てられており、ワールドワイドで利用することが難しいからだ。

 現段階でどの周波数帯が5G用途として利用されるか、明確な答えはない。2019年に開催される次回のWRC 2019において、5Gで利用する周波数帯の最終決定が期待されている。

■伝搬モデルとチャンネルサウンディング

 センチ波、ミリ波帯を用いる5Gシステムの規格化と設計を成功に導くには、モバイル無線チャンネルをより深く理解することが必要となる。これまで移動体通信用途として利用されていなかった周波数帯における無線チャンネルの時間的、空間的な性質は依然としてモデル化することが困難である。

 伝搬時に生じるパスロスはもちろんのこと、障害物や時間変動するマルチパスから生じる反射、回折、散乱などフェージングはより複雑である。また、受信機が移動する場合(新幹線など)に生じるドップラーシフトも考慮する必要がある。

 高い周波数帯では、人体の水分により電波が吸収され伝搬できなくなる。そのため、ユーザーが端末を持つ位置にアンテナがあった場合、通信ができなくなるなどの問題が生じてしまう。つまり、アンテナを端末のどの位置に搭載するかも重要になる。

 無線システムのパフォーマンスを左右する無線チャンネルをモデル化することは、システム、アルゴリズム、アンテナ設計などの基本要素である。そのため、信頼性の高いチャンネルモデルを確立することが、実環境で利用する無線システム設計になくてはならない。5Gは新たな周波数の利用だけでなく、ビームフォーミングやMassive MIMO(大規模MIMO)のようなマルチアンテナを搭載したシステム導入が検討されている。

 これらの新しい技術の影響を含めたチャンネルモデルを明らかにすることは容易でない。しかし、5Gに最適な周波数帯と変調方式を採用するためには、マルチパスや高速移動による影響、アンテナの搭載箇所による影響などを明らかにすることが重要だ。そして、2020年の商用化に向け、継続した研究による伝搬環境の確立が求められる。

■検討されている新しい変調方式

 5Gの要件実現に向けて、周波数の利用効率の向上や、低遅延などを可能とする新たな変調方式の導入が検討されている。LTE/LTE-Advancedで利用されているOFDM方式では、5Gで検討されている全ての要件を満たすことが難しいからだ。

 OFDM方式では、マルチパスに強い利点を持つが、時間領域におけるシンボル間の干渉を回避するために、ガードインターバル(サイクリックプレフィックス)が導入される。ガードインターバルにより、周波数の利用効率が低下してしまう。

 また、OFDM方式は、複数のユーザーがいくつかのサブキャリアの集合を使用し、個別にアクセスする。どのユーザーが、どのリソースを使用するかを基地局側で1ミリ秒ごとにスケジューリングして使用するため、1ミリ秒以下の遅延を実現することができない。

 5Gで利用する新たな変調方式の候補は、このような課題を改善することを前提に検討されている。新たな変調方式では、周波数利用効率向上、低遅延を実現するためのOFDM方式とは異なる方法の1つとして、フィルタリングが挙げられる。OFDM方式では、全バンド幅に対して1つのフィルターを用いる。新たな変調方式の1つであるFBMCでは、サブキャリアごとに個々のフィルターを利用する。UFMC方式では、サブバンドごとに個別のフィルターを利用する。これにより、帯域外発射の軽減が可能になっている。

 しかし、どの変調方式が5Gで採用されるのかを明言することはできない。なぜならば、変調方式ごとに、さまざまな優れた点と課題優劣があるからである。

■各変調方式の特徴を紹介

 ここからは、それぞれの変調方式の特徴について紹介していく。

○GFMD(Generalized Frequency Division Multiplex)

 現在LTEなどで使われているOFDMでは、基本的に矩形(くけい)窓として表されるシンボル時間Δtの逆数Δfをサブキャリア間隔としている。これにより、各サブキャリア位置でのスペクトルサイドローブによる干渉がゼロとなり、サブキャリアは直交する。

 一方で矩形窓によるスペクトルサイドローブは、緩やかに減衰しながら離れた周波数まで影響することになる。この離れた周波数まで存在するスペクトルサイドローブが、帯域外発射の発生に影響を与えている。

 GFDMでは、サブキャリアにフィルターをかけることで、サブキャリア間の直交性の劣化と引き替えに、帯域外発射を十分に抑圧する方式である。サブキャリア間の干渉が発生する一方で、ホワイトスペースなど非常に低いレベルの帯域外発射が求められているケースにおいて特に優れているといえる。受信機側では、サブキャリア間の干渉を抑えるために干渉キャンセラーが必要となる。

○FBMC(Filter-Bank Multi Carrier)

 FBMCでは、サブキャリアごとにフィルタリングを行う。各サブキャリアの変調方式としてオフセットQAMを用いる。オフセットQAMを用いることで、各サブキャリアのデータシンボルの実部、虚部における直交性を保つことができる。

 そのためFBMCでは、OFDMのようにサイクリックプリフィックスを用いる必要はない。また、フィルタリングを行うことにより、帯域外輻射はOFDMと比較し優れた特性を示す。FBMCは移動しながらの通信にも適している。しかし、MIMOへの拡張やフィルターの時定数の影響による遅延は課題となっている。

○UFMC(Universal Filter Multi Carrier)

 UFMCは、複数のサブキャリアのまとまりであるサブバンドごとにフィルタリングを行い、OFDMとFBMCの中間の方式ともいえる。比較的シンプルな実装で帯域外輻射は、OFDMより良い特性を示す。時間的な波形の広がりを抑えられるため、mMTCに求められる非同期アクセスへの適用や低遅延実現に適している。

○f-OFDM(filtered Orthogonal Frequency Division Multiplexing)

 f-OFDMは、OFDMのパラメーターであるサブキャリア間隔、シンボル時間、サイクリックプリフィックス、フィルターを、サブキャリアのまとまりであるサブバンドごとに柔軟に設定できるようにしたものである。サブバンドごとパラメーターを定義し、UFMCに近いの方式ともいえる。比較的シンプルな実装で、MIMOなど従来のLTEの技術との整合の点でも優れている。

■現実的なトレードオフや改善が必要不可欠

 新しい変調方式の信号生成および解析が可能なシングルジェネレーター、スペクトラムアナライザーを用いて、さまざまなパラメーターを任意に変更することで、各変調方式の利点、改善点などを明らかにできる。

 例えば、新しい変調方式は、概して非常に良い帯域外発射特性を示すことが理論的に示されている。一方で、一定のバックオフをとった現実的な送信アンプを通して測定した場合、従来のOFDMと同等の帯域外放射発射特性しか得られないケースも報告されている。このように理論だけではない現実的なトレードオフや改善を行うことで、5Gの要件実現に向け最適な変調方式を見いだすことが必要不可欠である。

【著:Taro Eichler(Rohde & Schwarz)/柳澤潔、中村浩士(ローデ・シュワルツ・ジャパン)】

最終更新:8月9日(火)11時45分

EDN Japan