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働く人はAIで幸せになれる? 体験者に聞いてきた

EE Times Japan 8月9日(火)11時57分配信

 日立製作所は2016年6月、AI技術を活用し、働く人々の幸福感向上に有効なアドバイスを、各個人のデータから自動で作製する技術を開発し、日立グループの営業部門に所属する約600人に対して、実証実験を開始したと発表した。

【日立製作所が発表したAI技術の概要】

 今回の発表に伴い、ソーシャルメディア上では、さまざまな反響が出ている。「ワクワクする」「日本の働き方を改善するかも」といった期待の声と同時に、「機械に人間が使われる状態じゃない?」「コンピュータに操られている」などの声もある。

 AIから送られてくるアドバイスは、果たして働く人々の幸福感向上につながるのだろうか。そこで今回、実際に実証実験に参加した方々にインタビューを行った。インタビューを行ったのは、日立製作所の流通営業本部第一営業部で部長を務める加藤伸司氏と、同じく第四営業部で部長を務める西山達也氏の2人である。

 なお、AI技術の詳細については、日立製作所の研究開発グループで技師長兼人工知能ラボラトリ長を務める矢野和男氏に行ったインタビューを参照してほしい。

■「え、やるのかよ。でも……」

EE Times Japan(以下、EETJ) 今日はありがとうございます。まず、普段の業務についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

西山氏) 私たちは、ITを商材とした営業部門で、産業・流通業向けにビジネスを行っている。営業部門全体で300人所属し、その内の約200人が実証実験に参加した。

EETJ 実証実験を行うと聞いたときは、皆さんどのような印象でしたか?

加藤氏 存在自体は知っていたが、最初は「え、やるのかよ……」と思った(笑)。そうは言っても、似たアプリケーションとして、会議や打ち合わせなどのコミュニケーションを可視化する「ビジネス顕微鏡」を商材で扱っていた。しかし、営業部門として、技術的な詳細を理解できていない部分もあったため、望んで挑戦した。

EETJ 「やるのかよ」というのは……。

加藤氏 「めんどくさいな」「実証実験に参加すると、たくさん売らないといけないのかな」といった気持ちは多少あった(笑)。

西山氏 私たちの営業部も、同じように「やるのかよ……」といった声もあった。しかし、参加に積極的だった人も多くいた。商材として捉えているため、今回の技術がどんなものかを、自身がモルモットになって体験するためだ。

 「やるのかよ……」と前向きでなかった人は、面倒くさい気持ちがあったと思う。何をやるのかが、よく分かっていなかったからだ。実際に始まってみると、たいした工数が掛かるわけでもないので、不平不満は出なかった。

加藤氏 本人がやることは、基本的に何もない。出社してウェアラブルセンサーを首から掛け、帰るときに充電器に取り付けるだけ。後は、スマートフォンにアドバイスが届くため、そのアドバイスを実行するぐらいだ。

西山氏 アドバイスも、朝の情報番組で放送される「占い」や「今日のラッキーカラー」のコーナーを見ているような感覚で、スマートフォンからいつも見ている。

■「コミュニケーションが明らかに増えた」

EETJ 実証実験を開始してから、業務や職場の雰囲気に変化はありましたか?

加藤氏 プライバシーの侵害を心配する人はいた。冗談だが、不倫をしているとか、生体反応が取得されて特定の女性としゃべっているときにドキドキしているとか(笑)。今回の技術は、体の動きと対面情報だけを取得しているので、その心配はない。

 また、スマートフォンの専用アプリを通して、誰と話しているかが分単位で把握できるため、普段話していない人と意識してコミュニケーションするようになった。

西山氏 私もコミュニケーションが明らかに増えたと感じている。AIから「○○さんとしゃべった方がいい」というアドバイスが届くため、その人となるべくしゃべるようにしている。突然、私のところにやって来て、話しかけていく人も多くいた。

EETJ アドバイスで出てくる人は、どのような人が多いのですか?

西山氏 1度もしゃべったことがない人は、アドバイスに出てこない。過去の行動で、○○さんとしゃべったときに組織の活性度が上がっているなどをAIが分析し、それぞれにアドバイスを行っているようだ。そのため、100人に100通りのアドバイスがある。

■仕事の悩みを打ち明ける機会にも

EETJ 印象的なエピソードはありますか?

西山氏 聞いた話だが、「○○さんとしゃべった方がいい」というアドバイスを実行したところ、仕事上の悩みを解決できた人がいた。その2人は、前は同じ部署にいたが、現在は別の部署で働いているため、しばらく会話がなかった。AIからのアドバイスをきっかけに久しぶりに話すと、仕事の悩みを打ち明けられ、解決までつながったようだ。

 AIがアドバイスしてくる人は、理由まで分からないが普段の会話が少ない人がほとんどだ。しかし、普段話さない人との会話が増えれば、新たな気付きや有益な情報が得られる。そのため、今回のようなケースは多かったのではないだろうか。

加藤氏 劇的なエピソードはないが、先ほども述べたように席が離れている人ともコミュニケーションする機会が明らかに増えて、仕事の幅は広がった気がする。

西山氏 「○○さんとしゃべった方がいい」というアドバイスは、ほとんどが他の部署の人だった。しかし、私の場合、同じ部署の中で1人(以下、Aさん)だけ名前が出てきた。「これはまずい」と思い、Aさんと会議室で個別に話す機会を設けた。

 Aさんと実際に話してみたら、社内の人間関係で悩みを抱えていた。大したアドバイスができたわけではないが、話したことでスッキリしてくれたようだった。この気付きは、実証実験がなければなかったし、直接話す機会を今後も設けたいと思っている。

■他にはどのようなアドバイスが?

EETJ 「○○さんとしゃべった方がいい」というアドバイスが多い気がするのですが、他にはどのようなアドバイスがありましたか?

加藤氏 「会議を午前中に開始した方がいい」というアドバイスがあった。「デスクワークは、午前中がオススメ」などもあるようだ。

西山氏 20代後半の男性に対して「9時20分以降に出社したほうがいい」というアドバイスもあった。その男性は、AIからのアドバイスということを大義名分に、「私は9時20分に毎日来てもいいのでしょうか」とふざけて私に伝えてきたが、当社の始業は8時50分のため、あえなく却下となった(笑)。

EETJ あえなく却下……(笑)。アドバイスに何か思い当たる節はありましたか?

西山氏 本人に直接聞いてみても、分からないようだった。やたら早く出社する困った上司とかなら、「9時20分に出社したほうがいい」というアドバイスも理解できる(笑)。しかし、その男性の年齢は20代後半で、優しいタイプの人間だ。そのため、なぜ「9時20分に出社した方がいい」というアドバイスが出るかは分からない。過去の行動の中で、その男性が9時20分前後に組織に対して良い影響を与えたことがあるのだろう。

■新しい気付きを与えてくれるツール

EETJ 今回のAI技術の発表に伴い、ソーシャルメディア上ではポジティブな意見とともに、「機械に人間が使われる状態じゃない?」「コンピュータに操られている」といった声もありました。体験者として、そのような声はどのように感じますか?

加藤氏 効率的に1日を使うなら、AIからのアドバイスを受け入れるのはプラスになると考えている。アドバイスに対して、どうすれば仕事の生産性が上がるか、どうすれば幸せになれるのかを、1歩踏み込んで考えることが正解かなと思っている。

EETJ 新しい気付きを与えてくれるツールといったイメージですね。

加藤氏 AIから送られてくるアドバイスは、何でそう言われているか分からないけど、自分の行動データから分析したのが基になっているので、ある意味全て正しい。しかし、現実的に考えて実行が難しい部分もある。繰り返しになるが、その中で、どうやって考えるか、行動を変えていくかが、私たちの進歩になるだろう。そのため、「機械に人間が使われる状態」「コンピュータに操られている」といった感覚はない。

西山氏 私たちの営業部門はITを商材としているので、AIにネガティブな印象を持っている人はいない。AIがどのように役に立つか、顧客にどのように貢献できるかといった観点で考えているので、皆がポジティブに捉えていたように感じる。

■「アドバイスの根拠が分からない」

EETJ 今回のAI技術に関して、課題はどこにあると思いますか?

加藤氏 現状のウェアラブルセンサーでは全く心配はないが、プライバシーといった観点で、ビジネスや社会の中でどれだけ認知してもらえるが課題と考える。

西山氏 営業側の視点になってしまうが、アドバイスに対する“根拠”の部分が明確になると納得感がある。根拠が明確だと、行動にも移しやすいだろう。

EETJ 今後、根拠まで提示することは考えられるのでしょうか。

西山氏 AIが大量のデータを分析し、アドバイスをしているため、根拠の説明がどこまで可能になるかは分からないが、納得感を得るための方法は今後考えていくようだ。

EETJ ありがとうございます。最後に、今回の実証実験を通して、AIに対する認識は変わったかどうか、感想などもありましたら教えてください。

加藤氏 第2次AIブームまでは人間が把握できていることを機械にもやらせるといった発想だった。現在の第3次AIブームは、ビッグデータ処理の技術が発達したことで、今まで知らなかったことや、気付かなかったことが見えてくるようになる。先ほども述べたように、私たちはAIによって見えてきたことに、支配される必要はない。見えてきた新しい事実によって、選択肢が増えることが重要だと考えている。

西山氏 加藤氏と同意見だ。私たちでは今まで分からなかったことがAIを通して分かるようになるので、これからも活用すべきと思っている。

■取材を終えて

 加藤氏の話にもあったが、AIが働く人々の幸福度を高めてくれるのではなく、AIからのアドバイスが新しい気付きを得る1つのきっかけとなり、どうすれば良くなるかを考え、行動に踏み出すことが仕事の充実や幸福度の向上につながるのだと感じた。

 また、AIの話になると「機械に人間が使われる状態」「コンピュータに操られている」などの声が付きものだが、その心配がないことも分かるだろう。日立製作所の矢野和男氏がインタビューで述べた、「コンピュータがアドバイスしているように見えるが、全て過去のエビデンス(証拠、根拠)が基になっている」という言葉からも分かる。

 しかしながら、AIが普及することに抵抗感がある人は多いかもしれない。今回話を聞いた加藤氏と西山氏は、ITを商材とした部門に所属することもあり、AI導入に関して積極的だったといえる。今回の実証実験の結果は、研究者の分析を加えた中間レポートとして、各企業に提供されるようだ。また、新しい発表などが出てきたら取材を進めたい。

最終更新:8月9日(火)11時57分

EE Times Japan

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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