ここから本文です

「イチローは絶対に手放したくない」 絶賛の声が続々

ITmedia ビジネスオンライン 8月9日(火)12時57分配信

 マイアミ・マーリンズのイチロー外野手が歴史的偉業を達成した。8月7日(現地時間)にコロラド州デンバーで行われた敵地ロッキーズ戦に「6番・中堅」で8試合ぶりに先発出場すると、7回の第4打席で右翼フェンス直撃の三塁打を放って史上30人目となるメジャー通算3000本安打に到達。

【イチロー・イズムがチームに浸透!】

 16シーズン目での偉業達成はあのピート・ローズ氏(フィラデルフィア・フィリーズなどでプレー)と並んで史上最速タイ、三塁打での記録到達はポール・モリター(現ミネソタ・ツインズ監督)に次いで2人目となった。そして、この三塁打によって日米通算の三塁打数を116本とし、福本豊氏(元阪急ブレーブス)の日本記録も更新した。

 実に感動的な場面だった。偉業を成し遂げた三塁ベース上のイチローに、三塁側ベンチからマーリンズのチームメートたちが駆け寄ってきて祝福。敵地ながらもクアーズフィールドの観客は総立ちでスタンディングオベーションを送り、その万雷の拍手と大歓声にイチローもヘルメットを取って応じた。

 そしてすでに塁上でも目に光るものがあったイチローは本塁生還後、ベンチに戻るとサングラス越しで戦況を見つめながら頬に涙を伝わらせ、さりげなく拭った。これまで数々の金字塔を打ち立てた際にもポーカーフェースを貫いたレジェンドが、試合中に初めて見せた男泣き。試合中継でもテレビカメラにこの様子が映し出され、ネット上でも大きな感動を呼び起こした。

 その主役は試合後、クアーズフィールドで大勢の報道陣が集まった会見に姿を見せた。ここでも笑顔であったり、時に目頭を熱くさせたり……。そんなイチローの会見内容については、すでにメディアで見聞きしている人も多いと思うが、余りにも素晴らしいコメントが多かったのでその一部を掲載したい。

●今の僕にとって何より大事なこと

――大記録を達成した今の率直な感想を聞かせてほしい。

イチロー: この2週間強ですね……。ずいぶん、犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけれど、あんなに達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3000という数字よりも、僕が何かをすることで、僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なものだということを再認識した瞬間でした。

――現在42歳だが、今も昔も変わらずに準備を怠ることがない。どうしてここまで野球を好きでいられるのか。

イチロー: うまくいかないことが多いからじゃないですか。これが、もし成功率が7割を超えなくてはいけない競技であったら辛いと思います。3割で良しとされる技術なので、打つことに関しては。これはいくらでも自分の志といったらちょっと重いですけど、それさえあればその気持ちが失われることはないような気がしますけどね。

――達成感をどういうふうに消化して、これから前に進むのか。

イチロー: 達成感って感じてしまうと、前に進めないんですか? そこがそもそも僕には疑問ですけど。達成感とか満足感は僕は味わえば味わうほど前に進めると思っているので、小さなことでも満足感、満足することはすごく大事なことだと思うんですよね。だから、僕は今日のこの瞬間、とても満足ですし、それを味わうとまた次へのやる気、モチベーションが生まれてくると、これまでの経験上、信じているので、これからもそうでありたいと思っています。

●イチローの存在を高く評価

 会見場でイチローが発した地元マイアミのメディアでも当然のように大きく扱われた。地元テレビ局の『FOXスポーツ・フロリダ』はこれらの言葉を英訳とともに番組内で同日の「速報」として放映し、出演したアンカーが「イチローはプレーだけでなく発言でも我々をいつも驚かせ、そして感動させてくれる。まるで野球の教科書のような素晴らしいレジェンドをマーリンズは永遠に手放してはいけない。ミスター・イチロー、あなたは生涯マーリンズのレジェンドだ」と真剣な表情で画面を通じてメッセージを送るワンシーンまで見られたほどだった。

 実際のところ、このイチローの「生涯マーリンズ」は希望的観測ではなく球団の中で“規定路線化”しているようだ。昨年10月にマーリンズと1年200万ドル(約2億500万円)、2017年は契約選択権付きの内容で契約を更新。しかし「1年契約」とはいうものの、球団側はこの先もイチローを手放すことは考えてはいない。

 イチローは現状で言えば、クリスチャン・イエリッチ、ジャンカルロ・スタントン、マルセル・オズナの3人に次ぐ外野手4番手。24~26歳の年齢で将来を嘱望される若い3人が優先的に先発起用されるのは、チーム事情を考えるとやむを得ない部分もある。それでも球団側はイチローの存在を高く評価し続けている。

 メジャー最年長野手のイチローに対し、正外野手の3人を含め若いチームメートたちが「ロール・モデル(お手本)」として尊敬の眼差しを向けているからだ。背番号51が模範的存在となって、それに連動するかのようにチーム全体の士気が向上し、弱小だったマーリンズが“リアル・プロフェッショナル”へと徐々に生まれ変わってきているのである。

 2013年は球団史上2度目の100敗を数え、3年連続ナ・リーグ東地区最下位。翌2014年も地区4位に沈んだ。しかしイチローを迎えた1年目の昨季こそ借金20で地区3位だったが、少しづつ順位を上げていき、ここまで今季は貯金を積み重ねて地区2位で公式戦の終盤を迎えようとしている。

 地区首位のワシントン・ナショナルズとは差があるものの、ワイルドカード争いにも食い込んでいることから実に13年ぶりとなるポストシーズン進出も現状で十分に狙える位置にいる。これも“イチロー・イズム”がチームにいい形で浸透しているからと言っていいかもしれない。

●「生涯マーリンズ」もほぼ確約

 それを証明するかのようにチーム編成の責任者であるマイケル・ヒルGMはイチローのグラウンド以外の貢献度についても次のように高く評価している。

 「選手の誰もがイチローのことを見ている。球場にいち早くやって来て、黙々と汗を流す。そして試合に備える。イチローにとっては当たり前のルーチンワークかもしれないが、若い選手にとってはそのすべてが模範的な行動になる。

 多くのメジャーリーガーが『イチローのようになりたい』と思っているわけで、その本物がチームの中にいるということは所属選手たちにとってこれ以上ない有益なプラス要素だ。だからイチローはプレー以外の面でもチームを間違いなく大きく変えてくれている」

 そう評価するヒルGM(昨季は編成本部長)の意向を汲んでマーリンズ側がイチローの代理人を務めるジョン・ボッグス氏に、昨年秋の契約更新の時点で「我々としては、いたいだけいてほしいと思っている」と異例の“終身雇用案”として内々に伝えたと報じるメディアも一部にあった。

 イチローも今のマーリンズでプレーする環境をとても気に入っているようだ。常時スタメンでの保障はなく、どうしても代打起用が多くなる状況下ではあるものの、そういう難しいスタンスを強いられることを差し引いても若いチームメートたちからリスペクトされ、そして打ち解け合う境遇に喜びを感じている。

 今季からチームを指揮するドン・マッティングリー監督もニヤリと笑いながら、こう補足する。

 「イチローは若い選手たちに何かを押し付けるのではなく、自分のプレーや言動によって周りを引きつけていくタイプ。そういう彼に選手たちは強い共感を覚えている。そういう意味でもマーリンズがすごくフィットしているのだろう。

 彼は試合だけでなく練習でもクラブハウスでも生き生きとしているし、それによってチームにもかけがえのない良い影響を与えてくれている。(『チームにいてほしいか』の問いに)当然だよ。こんな偉大なレジェンドを誰が手放すのかい?」

 これほどまでにメジャーリーグからリスペクトされる日本人選手は二度と出てこないかもしれない。「生涯マーリンズ」もほぼ確約され、今年10月には43歳となるイチローの今後の戦いにもまだまだ注目し続けたい。

(臼北信行)

最終更新:8月12日(金)7時43分

ITmedia ビジネスオンライン