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社説[天皇「お気持ち」表明]憲法踏まえ議論深めよ

沖縄タイムス 8月9日(火)7時10分配信

 憲法で「象徴」と位置づけられている天皇陛下が、務めを果たす上で高齢化に伴う悩みや懸念を抱いていることを、これほど率直に、国民に向かって語りかけたことはなかった。

 国民主権の下で21世紀の象徴天皇像はどうあるべきか。

極めて重い一石が投じられたというべきだろう。

 マスコミ各社が7月13日、一斉に「生前退位の意向」を報道したのを受け、陛下は8日、「象徴としてのお務めについてのお気持ち」をビデオメッセージという形で国民向けに表明した。

 皇室典範の改正などを必要とする生前退位を自ら提起すれば憲法に抵触するおそれがある。このため生前退位という表現は避けているが、メッセージは生前退位の実現を強くにじませたものだった。

 なぜ今、生前退位なのか。

 メッセージで強調されたのは、82歳という年齢について回る健康上の理由だ。

 天皇である以上、「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていく」ことが求められるが、それが「難しくなるのではないかと案じている」という。

 公務を減らしたり、摂政をおくことによって負担を軽減する、という考えは宮内庁や有識者の間で何度も語られてきた。

 しかし、メッセージは「公務を限りなく減らすのには無理がある」と述べ、摂政をおくことについても「天皇という立場に求められる務めを果たせないまま、生涯、天皇であり続けることに変わりはない」と疑問を呈する。

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 戦前・戦中・戦後に、全く異なる天皇像を生きた昭和天皇と違って、今の天皇は日本国憲法の下で育ち、象徴天皇の役割は何か、を自らに問い続けてきた。

 天皇の務めについて「国民の安寧と幸せを祈る」ことだけでなく、「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なこと」だと言う。

 全国を旅することで「国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させた」とも語っている。

 共同通信社が3、4日に実施した電話世論調査で、85・7%の人が生前退位を認めているのは、いたわりや慰労といった庶民感情から出たものに違いない。

 憲法で定められた国事行為以外に陛下はさまざまな公務をこなしている。天皇の公務とは何か。原点に立ち返って議論を進める必要がある。

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 この問題は本来、政治が主導すべき事柄である。にもかかわらず、天皇の側からの提起に政治が動かされるという異例の経過をたどった。

 ビデオ・メッセージに込められた思いをどう受け止め、どのように制度を変えていくか。生前退位の問題だけでなく、皇族の減少にどう対応していくかも避けて通れない課題だ。

 この問題を政争の具にしたり、天皇の政治利用に道を開いたり、象徴天皇という位置づけを改め戦前の姿に戻すようなことがあってはならない。それが議論の前提である。

最終更新:8月9日(火)7時10分

沖縄タイムス