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ヴイエムウェアのガイジン社長が考える、エンジニアが果たすべき「責任」とは

@IT 8月10日(水)11時30分配信

 アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広が、グローバルを股に掛けたキャリアを築いてきたIT業界の先輩にお話を伺うインタビューシリーズ。第11回は「VMware(ヴイエムウェア)」の日本法人代表 Jon T. Robertson氏にご登場いただく。

【事業戦略説明会でヴイエムウェアの現状を発表するロバートソン氏、などその他の画像】

 日本語が堪能で、日本の文化や商習慣にも詳しいロバートソン氏は、なぜ「エンジニアはもっと意見を言うべきだ」と考えるのか――日本の心と欧米のビジネススタイルのハイブリッドな氏のキャリアと考え方は、現在、そして将来、海外で働くエンジニアたちの参考になるだろう。

●従業員が辞めない3つの理由

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) Hi Jon, long time no see! Let's get started the interview.

Jon T. Robertson(ジョン T. ロバートソン:以降、ロバートソン氏) 本当に英語でやるの? That's great!

※編集注:本インタビューは英語で行いました

阿部川 本当ですよ。まずは、ヴイエムウェアの事業を簡単にご説明ください。

ロバートソン氏 ヴイエムウェアは約18年前に、デスクトップとx86サーバの仮想化のパイオニアとしてスタートしました。その後、ストレージやネットワーク、クラウド、そしてデータセンターにまで、仮想化を広げました。

 さらに、サービスプロバイダーに対する仮想化サービスとして、パブリッククラウドを提供している多くの日本の企業に技術を提供しています。また、デスクトップ、モバイルなどデバイスに特化した仮想化も行っています。全部で約400種類の製品を扱っています。

阿部川 先日の事業戦略説明会の発表によると、ビジネス規模が順調に拡大し、それに伴って社員数が15%も増加したそうですね。しかも離職率が10%以下とのことですが、人材定着の秘訣(ひけつ)はどこにあるのでしょうか?

ロバートソン氏 3つの要素が絡み合った結果だと思います。

 1つ目は、「ヴイエムウェアのビジョンに情熱を持って取り組んでくれるか」を採用の基準にしていることです。IT技術やIT業界の革新という壮大な目的を持って入社し、日々の業務でその達成を感じられることが、従業員が会社と共に歩んでくれる理由の1つだと思います。

 とはいえ、どんなに高尚な意識を持って業務に取り組んでも、同じ仕事を5年以上続けていれば、マンネリ化は否めないでしょう。そこでわが社は、社内での「ジョブローテーション」を大切にしています。これが2つ目の要素です。

 「同一の部署で、2年以上同一の仕事をしている人のうち20%を、毎年必ず異動させる」というルールを決めています。SEだった人はプロフェッショナルサービスの部署へ、営業だった人は経理へ、オペレーション担当は、顧客満足担当へ、などさまざまです。

 内部昇格もあります。マネジメントチームの8割は、社内から登用しました。人材開発には、特に力を入れており、従業員が常に新鮮な気持ちで、楽しく仕事に取り組めるように努力しています。

 最後は、やはり業績がいいことでしょう。業界に活気はあるし、新しい技術を備えた新製品は登場するし、2~3年ごとに新しい業務やチャレンジが待っていて新たな自分の可能性を発掘できる――そうなれば、従業員は自然に「ここで仕事をし続けたい」と思ってくれるのではないでしょうか。

●ジョブローテーションで初めて日本国“外”に赴任する

阿部川 ジョブローテーションは、ロバートソンさんも経験したのですか?

ロバートソン氏 もちろんです。私は営業部長として2007年に入社し、2012年ごろ営業本部長に昇進しました。仕事は順調でしたが、少し退屈にもなっていました。

 そんなとき「シンガポールオフィスに責任者として行ってみないか」という話があり、それに乗ったのです。シンガポールでは、営業、経理、マーケティング、総務など、全ての業務の統括と、社長としての業務を経験できました。

 私が10年以上この会社にいる理由の1つは、このようなジョブローテーションの機会が頻繁にあることだと思います。

 私は、会社が私にしてくれたことを、従業員にもしてあげたいと思っています。ですから、日本の従業員をパロアルトの米国本社やシンガポールに派遣して、2~3年働いてもらうこともあります。それは人材教育という観点で非常にポジティブに作用します。

 彼らは、多くの人的ネットワークを作り、仕事の内容も質も高め、英語も格段にうまくなって日本に帰ってきます。私はできるだけ多くの従業員が海外で働くチャンスを作ってあげたいのです。

●ラッキーやハッピーの多くは「バー」で築いた

阿部川 ロバートソンさんは、生まれも育ちもカナダのカナダ人ですよね。どのようなきっかけで、日本にいらっしゃったのですか?

ロバートソン氏 それほどドラマチックな話ではありませんよ(笑)。

 私はカナダのマギル大学で政治学と経済学を専攻しました。大学を卒業するころ、日本に行けるプログラムがあると聞き、大学に鹿児島出身の友人がいたので「よし、日本に行こう」と決めました。

 JET(※)に応募して、面接で「鹿児島に行きたい!」と話したら、「種子島はどうですか」と(笑)。ですから私が日本で最初に住んだのは種子島でした。

※JET=the Japan Teaching and Exchanging Program 地方自治体が総務省、外務省、文部科学省などと行う、語学指導等を行う外国青年招致事業

 それから日本がとても好きになり、言葉も勉強し、友達も増え……。2年ほど種子島に住んでから鹿児島に引越し、東京に来たのは1994年でした。

 東京では最初に「M3i」というカナダのIT企業に就職し、警視庁とのプロジェクトを行う部署に配属されました。しかし2年後、カナダ大手のエレクトロニクス企業がM3iを買収したためプロジェクトチームが解散し、私も御役御免になってしまいました。

 高田馬場のバーで「これからどうしようか」とカナダビールを飲んでいたときのことです。非常に体格のいいドイツ人が私の隣に座りました。

 私が日本語でバーテンダーと話しているのを聞いて、彼の方から私に話しかけてきました。「おー、日本語うまいじゃないか。仕事は何をやっているんだ?」と。「カナダのソフト会社に勤めていたけれど、会社が買収されて失業中さ」と答えたら、「じゃあ、うちの会社で働いてみないか」と言うので「あんた、誰?」と聞いたら、「SAPという会社で、CFO(最高財務責任者)をやってる」って(!)。

 1週間後に営業部長との面接がセットされて、SAPに入社しました。

阿部川 バーは大切ですね(笑)。

ロバートソン氏 人とのネットワークやラッキーなことの多くは、バーで築きました(笑)。たくさんの人に出会えたり、興味深い話を聞けたりするのは、バーの利点ですね。

 僕は「飲みニケーション」も好きですよ。

 日本人、特に若手は、思っていることをなかなか外に出さないんです。でも飲み会だったら、会社で普段会わない人たちと会ったり、その人たちが話しかけてくれたり、いろいろな意見を聞けたりします。

 昨日も、社内のあるチームと飲みに行ったら、それまで会ったことのないエンジニアが僕のところにきて、「ジョンさん、僕はこう思います!」と意見を言ってくれたんです。飲み会って日本の特別な文化ですけれど、僕は好きですよ、本当に。楽しいですよね。

●仕事に必要なことは全て現場で学んだ

阿部川 IT業界の第一線で20年間活躍されていますが、技術やエンジニアリングを学ぶために、どのような勉強をされてきましたか?

ロバートソン氏 私は「OJT」(※)が1番の勉強法だと思います。自分も全て仕事しながら学びました。もう20年以上前から、なるべく現場に行って、作業も手伝ってみるようにしています。

 今でも2週間に1度ぐらい、社内のエンジニアのところに行って、「最近どんなことがエンジニアの中で話題になっているのか」「何か新しくて面白い技術はないか」など、気軽に聞くようにしています。そう聞くと、エンジニアたちは喜んで私に教育を施してくれます。

※OJT=On-the-Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング。業務を通じて学習すること

●エンジニアはもっと「責任」を果たすべきだ

阿部川 日本のエンジニアにアドバイスをお願いします。

ロバートソン氏 良いキャリアを築くためのポイントは3つあります。どれもとてもシンプルです。

 第1は、尊敬できる上司と一緒に仕事をすることです。

 会社の知名度ではなく、マネジャーがどのような人かで会社を選ぶべきです。優れた情報や知識を持ち、尊敬できる人は、あなたが学習し、成長していく手助けをしてくれます。

 第2は、英語か中国語、それらでなくとも何らかの第二外国語を習得することです。

 テクノロジーによって世界はどんどん小さくなりました。日本の企業が成功するには、国内市場だけではなく、グローバルな市場を相手にすることが必須です。

 また、インドやオーストラリア、米国の同僚たちとより多くのコミュニケーションをとれるようになれば、より多くのチャンスが訪れるし、学べる情報やトレンドも膨大になります。

 第3は、「当社はここを変えなければいけない」とか「この技術は素晴らしいから採用した方がいい」などの意見を上司やマネジメント層にアピールすることです。

 わが社では優秀なエンジニアは、直接私に話してくれます。頭が良くて、能力があって、バイリンガルなエンジニアなら、さまざまなアイデアを持っているでしょう。ですから、会社のビジネスや経営全体に対してアドバイスすることは、あなたたちエンジニアの「責任」でもあります。

 多くのエンジニアはそうではないかも知れません。私の仕事はこの領域だから、この中のことをやると。しかしそれではいけないと思います。「ボス、私にはこんなアイデアがあるのです」と話すべきだと思います。

 エンジニアこそ、企業組織の頭脳として社内外で積極的に発言し、他国にいる同僚と大いにコミュケーションとる、そういったことが必要です。

@IT編集部 若手社員が今やるべきこと、どう仕事に取り組めばいいのか、アドバイスいただけますか?

ロバートソン氏 上のことはあまり気にしないで、ストレートに意見を言うといいと思います。若い人は新しい目でいろいろ見ていますから、私たちが慣れてしまっていることに対して「何で、これはこうやっているのですか?」「これをやればいいんじゃないですか?」と言っていいと思います。

 そして、尊敬できる先輩と付き合った方がいい。自分の部署だけではなくて、隣の部署でも、普段そんなに付き合わない人でも、会社の全体的な勉強するためにはいろいろな人と付き合った方がいい。1時間くらい時間を作ってもらって、どういう仕事をやっているのか説明してもらうとか、そういう勉強がいいと思います。

 言われていることをやるだけではなく、自分の勉強をいろいろやるといいと思います。

●Go's think aloud~インタビューを終えて

 純正カナダ人のロバートソンさんは、「英語でインタビューを受けるのは、社長になってから初めてですよ」と英語で話しだした。23歳で種子島に来てから25年、その日本語能力は、お世辞抜きで日本語ネイティブをも超えるため、普段はほぼ日本語で取材を受けるそうだ。

 さらにスゴいのは、長期的な信頼関係の構築や、他者への配慮や謙遜、折り目正しい礼節や尊厳、約束の重さなど、日本文化、なかんずく日本のビジネス文化が世界に誇る要素を、しっかり身に付けてきたことだ。

 日本的なビジネスのノウハウを実践し、グローバルな表現と文脈でコミュニケーションし、米国本社との交渉ではケンカもいとわない。そのタフさと日本への愛が、今のヴィエムウェアの成功を導いたといっても、決して褒めすぎではないだろう。

 こんな外人社長、ちょっといないよね。

最終更新:8月10日(水)11時30分

@IT