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沖縄予算と米軍基地の「リンク論」は全国の納税者を愚弄するものだ

沖縄タイムス 8/11(木) 9:00配信

 安倍政権は、沖縄振興と基地政策のリンクを公然と認める方針に転じた。「リンク論」をめぐっては、長年にわたる沖縄と政府の駆け引きの側面があるのは否めない。しかし、これは税金の使途にかかわる論点であり、国民がチェック機能を働かせなければいけない問題だ。安全保障政策の観点から捉えられがちな辺野古新基地建設問題を、「止められない公共事業」をめぐる「膨大な税金の無駄遣い」という視点でみることも必要な時期に来ているのではないか。

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 「沖縄振興」とは一般に、沖縄振興特別措置法(沖振法)に基づく国庫予算を指す。
この予算は、他府県が各省庁に行う要求を、内閣府沖縄担当部局が一括して扱う。このため、沖縄県に対する国庫配分は「沖縄振興予算」と呼ばれるようになった。
こうした特別な仕組みと名称があるため、沖縄県は全国で突出した振興予算を国から得ているような印象をもたれているが、沖振法は他府県と比べて多額の予算配分を保障・規定するものではない。

 沖振法(旧沖縄振興開発特別措置法)は、国が沖縄の「特殊事情」を考慮し、本土との格差是正や沖縄の自立的発展を目的に1972年の沖縄の日本復帰以降、10年ごとに更新・継続してきた。

 「特殊事情」とは何か。沖縄戦の苛烈な戦禍と戦後27年間にわたり米軍統治下に置かれた歴史的事情、離島県であるといった地理的事情、米軍施設・区域が集中している社会的事情などを織り込んでいる。

 端的に言えば、戦争で大きな犠牲を払わされ、戦後は27年間の米軍統治を強いられた沖縄を振興するための国家予算だが、もはやこうした「償いの心」を共有している中央の政治家や官僚はほとんどいないのが実情だ。

 復帰から40年以上がたち、道路などのインフラ整備は「本土並み」の水準に達し、沖縄振興は一定の成果を遂げたのも事実だ。にもかかわらず、政府が今なお沖縄独自の振興予算制度を確保しているのは、今後も沖縄に基地を押しとどめておきたい思惑が働いているためであり、「広義の基地対策費」である、と喝破する識者も少なくない。

 それでも今回、政府が「基地と沖縄振興のリンク」を公然と認めたことに沖縄で衝撃と反発が広がっているのは、沖縄振興制度の論拠の一つである「基地の過重負担」という沖縄の社会的事情は沖縄振興によって維持されている、という度し難い現実を政府の側が開き直って認めたと捉えられているからだ。

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 実際はどうか。

 近年で「リンク」が顕著だったのは、民主党政権下で組まれた2012年度予算だ。11年3月に起きた東日本大震災と東京電力福島第一原発事故により、被災地以外の地域で軒並み歳出削減が図られる中、沖縄振興予算は当初見込み2600億円だったのが、土壇場で前年度比636億円増の2937億円まで増額された。中でも、沖縄県が強く望んだ一括交付金は前年度比5倍増の1575億円という「大盤振る舞い」だった。しかも、12年度予算のうち773億円余は「首相特別枠」から捻出された、政治判断の色彩が極めて濃いものだった。

 この背景には、米軍普天間飛行場の返還に伴う名護市辺野古への新基地建設問題があった。当時の野田政権は、辺野古新基地建設の着工に向け、米国政府と約束を交わした「年内の環境影響評価(アセスメント)手続き完了」を果たすため、沖縄県の協力を取り付ける必要に迫られていた。予算の大盤振る舞いは、「県外移設」を公約に掲げていた当時の仲井真弘多知事が態度を軟化させることへの期待があったのは周知の事実である。

 全国的にも注目を集めたのは14年度予算だ。13年12月、安倍晋三首相と会談した仲井真知事が、概算要求額を上回る3460億円(当初額)の14年度予算と、21年度までの8年間、毎年3千億円台の予算を確保する約束を取り付けた。この2日後、那覇市の知事公舎で会見した仲井真知事は、政府が申請した普天間移設に向けた辺野古埋め立てを許可したと発表する一方、安倍政権の沖縄振興策に対する賛辞を並べ立てた。会見で記者から「基地と振興策のリンク」を問われた仲井真知事はこれを否定したが、「基地と振興策のバーター」であることは誰の目にも明らかだった。

 留意したいのは、予算増額を求めたのは沖縄県側だが、予算の権限と責任は国が握っているということだ。言うまでもないが、基地政策と地域振興は別次元の問題だ。沖縄の過重な基地負担は沖振法に基づく振興予算の論拠の一つだが、基地政策とリンクさせるとはどこにも書かれていない。にもかかわらず、実質的にリンクさせてきたのは、そのほうが都合がよいと国が主体的に判断してきたからだ。

 とはいえ、これまで政府が「リンク」を認めてこなかったのには理由がある。公然とリンクを認めてしまえば、沖振法そのものの否定につながるからだろう。
先述したように、基地の過重負担を理由の一つに継続してきた沖縄振興制度が、基地を維持するために行われていたということになれば、基地負担軽減を求める沖縄県民を愚弄するものであり、制度に対する県民の理解や支持は到底得られない。

 また、沖振法に基づく振興予算は既述したように、「沖縄の自立的発展」を追求することを目的に投下されてきた。沖縄本島では、膨大な面積を占める米軍基地によって経済的な付加価値や潜在力が奪われ、地域経済の発展を阻害する要因だと認識されている。沖縄振興予算が基地を維持するために投下されているというのであれば、自立的発展を阻害しているのは沖縄振興予算であるということになり、矛盾も甚だしい。

 これまでは「リンク」が濃厚であっても、予算増額に対しては沖縄側も文句の言いようはなかった。しかし政府が今後、沖縄振興予算の計上に当たって一層露骨に「辺野古」をはじめとする基地政策への諾否という政治的要素を加味し、容赦なく予算カットや特別措置の廃止に踏み切れば事情は一変する。政策誘導のための「賄賂的要素」の強かったアメが、強権的なムチとしての本性を露わにすれば、沖振法の目的や趣旨と相反することへの説明にとどまらず、抜本的な制度改正を求める声が県民の間に高まるのは必至だ。

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 では、安倍政権は現状の沖縄振興制度を廃止もしくは抜本的な改正に導きたいのだろうか。

 筆者はそうは思わない。なぜなら現行の沖縄振興制度には、基地を維持するために沖縄を巧みにハンドリングしてきた「実績」があるからだ。事実、「県外移設」を掲げていた仲井真知事を「埋め立て容認」に導くことにつながった、「8年間、毎年3千億円台の予算を確保する」という知事と安倍首相の約束も、内閣府が一括管理し、官邸主導で対応しやすい現行制度の下だからこそスムーズに交わすことができた、と見ることもできる。

 10年間の時限立法である沖振法は、更新時期が迫るタイミングでその都度、沖縄県が政府に特例措置の継続や改正を「お願い」しなければならない。これも政府にとっては基地政策との駆け引きを迫る好機となる。政府が大盤振る舞いした12年度の沖縄振興予算案内示が、新たな沖縄振興制度への切り替えのタイミングと重なったことは偶然ではない。

 沖縄には予算以外に、4つの法律に基づく税制の特例措置が13種類ある。沖振法に基づく9種類と復帰特別措置法に基づく2種類など多岐にわたる。これらはいずれも時限措置で、沖振法に基づく税制のうち8種類は16年度末に、復帰特別措置法に基づく酒税の軽減措置は17年5月に期限切れを迎える。

 5年ごとに延長されてきた泡盛やビールへの酒税軽減措置は、1972年5月15日に始まり、これまで8回延長された。現在も県内で泡盛46社・組合とオリオンビールが軽減の恩恵を受けている。2007年、12年にも「廃止論」が浮上したが、政治判断で継続されてきた経緯がある。

 沖縄県はことし8月1日、17年度予算の概算要求を控え、沖縄関係予算の「3千億円台確保」や「酒税の軽減措置の延長」などの要請項目を決めた。

 こうした時期に政府が「リンク論」を打ち出したことで、沖縄県内では「航空機燃料税や酒税など、企業の損益に直接関わる制度の期限延長を、政府が厳格化するなどの影響が出かねない」(8月5日付「沖縄タイムス」)ことを懸念する声も出ている。

 だがここは、政府の真意を慎重に見極める必要がある。予算の増減だけでなく、高率補助や酒税の特例措置などを、沖縄を揺さぶる「有効なカード」として機能させることが政府にとっては重要なはずだ。そのためには、明らかに基地とは無関係な分野の予算を理不尽にカットしたり、特例廃止を無慈悲に強行したりして、沖縄世論や業界団体の批判の矛先が政府に向けば元も子もない。予算カットや特例廃止をちらつかせ、辺野古新基地建設に反対する翁長雄志知事に圧力をかけ、沖縄世論の分断を図るのが狙いとみるべきだろう。

 事実、本原稿の執筆段階で参考にしている8月5日までの菅義偉官房長官や鶴保庸介沖縄担当相の発言を見る限り、一括交付金の未執行分の予算や、跡利用にかかわる予算を精査する、との趣旨に限定されているように映る。

 未執行分の予算を次年度に精査すること自体、批判されるべきことではない。だが、一括交付金の未執行に関しては、政府が沖縄振興予算を「基地とリンク」させて過剰に配分した結果という側面が大きいのではないか。「厳しく精査する」のであれば、政府は「これからは基地問題と振興策はリンクさせない」と認識を改めるべきだろう。いずれにせよ、沖振法に基づく一括交付金を、基地政策とリンクさせて減額させる法的根拠はない。

 沖縄の米軍基地の跡利用に関しては、特別措置法で「国の責務」として取り組むことが明記されている。法改正してこの文言を削除しない限り、国の予算執行義務は免れない。辺野古新基地建設が進まなければ、嘉手納基地より南の基地の返還と跡利用も進まない、というアピールに過ぎないとみるべきだろう。

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 沖縄県内では、振興予算の「総額」に過度に注目する傾向が強いように思われる。これは沖縄タイムスを含む地元メディアが、毎年暮れに決まる予算に関するニュースを扱う際、予算総額の増減が最大の焦点であるかのように伝える影響も大きいと筆者は感じている。この「総額主義」は、振興予算が沖縄世論を操る道具として政府に利用されやすくする弊害をもたらしているのではないか。

 菅官房長官も、仲井真前知事と安倍首相の間で合意した21年度までの毎年3千億円台の沖縄関連予算の確保について、「ここはしっかり約束通り守っていきたい」(8月4日の記者会見)と述べており、少なくとも次年度予算については予算総額の増減が焦点化する余地はほとんどない。

 かりに政府が次年度以降の沖縄振興予算を減額することがあるとしても、総額のみを問題視するのではなく、どの予算項目が、どういう理由でカットされるのかという点をよく見極めた上で、冷静に対処していく姿勢が沖縄側には求められているように思う。

 その上で筆者は、元副知事の上原良幸氏が8月5日付「沖縄タイムス」に、今回の「リンク論」に関してコメントしている内容に共感する。すなわち、「沖縄振興が総額で語られ、その一切がリンク論に基づくとされるなら問題」なのであって、「どの部分がリンクするのか、政府と県は議論し明確にすべきだ」という見解だ。

 普天間飛行場の移設先とされる名護市をはじめ沖縄本島北部の12市町村を対象にした北部振興事業など、辺野古受け入れの見返りになると期待しながらも、「リンク」をあいまいな形にして政府が過去に投入してきた税金は莫大な額に上る。

 防衛省は埋め立て予定地に近い名護市の久辺3区(辺野古・豊原・久志)に対し、辺野古新基地建設に反対している市を通さずに補助金を交付する異例の措置を、次年度以降も継続する方針だ。

 こうした状況から浮かぶ問題の本質は「基地を維持するための財政支出が、民主主義とは決して相容れないほど劣化している」(川瀬光義著「基地維持政策と財政」)ことだ。

 選挙結果を通じて地元自治体が明確に「拒否」の意向を示している「辺野古新基地建設」をなおも強引に進めるという、無節操とも言える政策遂行目的のために膨大な国庫を投入し続けることは民主主義国家の税金の使い方として筋が通らない。

 政府資金を使う以上、何らかの政策的意図が働くのは当然だろう。しかし、血税を使う以上、何でも許されるわけではない。納税者である国民のチェック機能が働くようにしなければならない。

 「辺野古新基地建設」は政府が言うように負担軽減につながるものではなく、負担増であるとの認識が県民に広く共有されている。翁長知事は那覇市長時代の2012年11月24日付「朝日新聞」のインタビューで、「利益誘導こそが沖縄保守の役割なのではないですか」と問われ、こう答えている。

 「振興策を利益誘導だというなら、お互い覚悟を決めましょうよ。沖縄に経済援助なんかいらない。税制の優遇措置もなくしてください。そのかわり、基地は返してください。国土の面積0.6%の沖縄で在日米軍基地の74%を引き受ける必要は、さらさらない。いったい沖縄が日本に甘えているんですか。それとも日本が沖縄に甘えているんですか」

 沖縄振興を税金の使途の面から、全国民の目から見て公平公正なものに是正していくというのであれば、「基地政策とのリンク」から脱却を図りつつ、沖縄県民の納得のいく形で沖縄の基地負担軽減を進めるのが最も合理的な選択だろう。

 日米同盟や安全保障政策に関するコストを「聖域化」し、この20年間、「辺野古新基地建設」という実現のめどが立たない公共事業に野放図ともいえる予算が投下されてきた。この結果責任こそ問われるべきだ。

渡辺 豪

最終更新:11/29(火) 13:25

沖縄タイムス