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【オーストラリア】【有為転変】第103回 芸術的青果を豪州に

NNA 8月12日(金)8時30分配信

 6月末に長野県須坂市の実家に一時帰国した際、ブドウ畑作業の繁忙期と重なり、毎日のように手伝わされるはめになった。同県北部は、巨峰やナイアガラなどさまざまなブドウ品種の主要産地である。作っていたのは、皮ごと食べられる「シャインマスカット」と「ナガノパープル」という高級品種。いずれもさわやかな味で人気があり、特にナガノパープルは、長野県だけでしか栽培が認められていない貴重品種だという。
 実家で手伝ったのは、まだ小さなブドウ粒の数をハサミで間引く、房づくり作業。これは養分の分散を防ぐために重要で、100粒近くある房を、大体35粒くらいに間引く。
 粒を間引くのはもったいない気がするが、大きくなると粒同士で押し合ってつぶれるのだという。間引き方も注意が必要で、たわわに実った際に自然に見えるようにしなければならない。
 最初は面白くてパチンパチンと間引いていくが、30分もやると辟易してくる。その約1週間後、今度は農薬を散布する。
 それを終えると、ひと房ごとに袋をかけていく。病害虫から守るためだ。そして次に傘をかける。これは雨から守ると同時に、鳥が止まれないようにする効果もあるようだ。
 繁忙期のうちの10日間程度だったが、それだけでも実に大変な作業だと実感させられた。他にも枝のせん定や、実を種なしにするためのジベレリン処理など、多くの作業がある。機械ではできないこれらの手作業は、大量生産国では真似できないだろうと思われた。
 こうして、芸術作品のように大事に扱って実らせたブドウは、高くて1房(約500グラム)約500円で卸すそうだ。小売り価格は品種やグレードによって異なるが、地元のスーパーでは1房800~1,000円で売られるという。実家の小さなブドウ畑は約3,000房できるようなので、畑の年間売上高は最高で約150万円程度ということになる。
 
 ■豪農家は日本の2倍の卸値
 
 さて、日本での帰省からシドニーに戻ると、スーパーに皮ごと食べられる種なしブドウの「サルタナ」が売られているのを見つけた。米国産で1キログラム約12豪ドル(約936円)。思わず購入して食べてみたところ、なかなかおいしい。
 だが当然ながら、粒は間引いていないし、ましていわんや袋がけなどしていない。収穫こそ手作業かもしれないが、大規模栽培による大量生産のブドウだ。これが、オーストラリアでキロ当たり10~12豪ドルで売られている。日本の高級ブドウと変わらない価格だ。
 オーストラリアは現在冬なので国産はなかったが、調べてみると、昨年はビクトリア州主要産地での食用ブドウ農家の卸売価格は、1箱(2.4キログラム)当たり24豪ドルだった。1キロ当たりだと約10豪ドル。これも、日本の高級ブドウの卸売り価格とほぼ同じだ。しかし、例年であれば60~70豪ドルは受け取れるところだという。
 そうだとすると、日本のブドウ農家はオーストラリアのブドウ農家と比べ、半分以下の値で卸している計算になる。オーストラリア産が手間や人手をかけた高級ブドウなら分かるが、実際は逆だ。これはどういうわけだろうか。
 
 ■日本向け輸出が激増
 
 オーストラリア食用ブドウ協会が最近発表した統計によると、昨年度のオーストラリアの食用ブドウの輸出高は10万8,594トン。中でも特に伸びているのが日本向けで、なんと406%増である。日本は、4番目の大規模輸出先になっているのだ。しかも同協会は、日本市場へのブドウ輸出はさらに伸び続けると見込んでいる。
 日本が外国産ブドウに課している関税は、7.8%(11月~2月)と17%(3~10月)である。これが環太平洋連携協定(TPP)で即時撤廃されることになっている。現在でさえ増えているのに、もしもTPPが発効された場合にどうなるかは想像に難くない。
 農林水産省が昨年末、TPPの影響報告書をまとめている。それによると、「国産ブドウは巨峰やシャインマスカットなど味や外観が極めて優れ、産地ごとにブランドが確立されており、外国産と比べて価格が3倍以上なのに、国内需要の9割を占める」として、「TPPの影響は限定的」としている。
 
 ■1房わずか500円
 
 だが、果たしてそうだろうか。大規模栽培のオーストラリア産ブドウの輸入が既に激増しているのだから、日本人のブドウ消費が激増しない限り、国内産がシェアを奪われるのは明らかだろう。
 だが状況を逆手に取ってみると、季節が逆になるオーストラリア市場で、日本産の高級ブドウをオーストラリアに輸出できる可能性があることを示してもいる。大規模生産の米国産ブドウの小売り価格を見る限り、勝算はあるように見える。
 外国が真似できない、手塩にかけて育てる日本の芸術的といえる青果を、国を挙げてオーストラリアなどに売り込むべきだと思われる。(NNA豪州編集長・西原哲也)

最終更新:8月12日(金)8時30分

NNA

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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