ここから本文です

時候のあいさつ、「拝啓 ○○の候」ってなぜ必要?

ITmedia エンタープライズ 8月12日(金)12時4分配信

わたし: 問題は敬語がちゃんと使えていないことだと思います。使えていない、というより、使い慣れていないんですね。

【ビジネス文書の書き方、皆さんはちゃんと習ったことがありますか?】

Aさん: 確かに彼らと話していると、無理に敬語を使おうとしている感じだね。その結果、間違った敬語になっちゃう。まぁ、丁寧に言おうとする意思は感じるんだけど、やっぱり敬語は正しく使ってほしいからなぁ。そのあたりは、明日の講座でフォローするの?

わたし: はい。明日は文書作成の講座なので、話し言葉より敬語がシビアになります。話し言葉は残りませんけど、文書は後に残りますからね。敬語を正しく書かせることで、定着を図りたいと考えています。報告は以上です。

Aさん: OK。頼むね。

 ふぅ。「上司顔」のAさんとの話はちょっと緊張する。仕事モードではないおとなしいAさんや(皆さん忘れているかもしれないけれど、普段は比較的無口なのだ)、キーボードオタクのスイッチが入ったAさんと、仕事モードのAさんには何かギャップがある。なぜかしら。

 そういえば、新入社員研修の講師業(?)を通して、少しずつ普段の自分の仕事姿を振り返ることができている。教える立場に立つと、どうしても「新入社員の見本にならなきゃ」と思うから、いつもの“報連相”も普段より丁寧にしていたり、手を抜いていた部分に気付いて反省したりする。教える側のメリットも大きいわね。

 人の振り見て我が振り直せ、ではないけれど、ただレクチャーを受けるだけではなく、実際にやってみたり、他の人がやっているところを観察して、良い点や改善点をフィードバックしたりするほうが「腹落ちする」気がする。理解できるだけでなく、納得できるとでも言ったらいいかしら……。

 なんて一人でコーヒー飲みつつ、いつもの逃避行。目の前には明日の講座のテキストが転がっている。講座の計画を立てなきゃいけないんだけど、イマイチ内容と時間の把握ができなくて、気が付いたら全く別のことを考えていたのだ。あー今ごろ、うちの猫は何してるんだろうなぁ……とダメダメ。テキストよテキスト。

 えーと、最初はビジネス文書の“型”。社内文書の型と社外文書の書式を説明するのね。そういえば、このあたりは私が新入社員のころに研修を受けたなぁ。とはいえ、ヘルプデスクの仕事って、社外文書とはあまり縁がない。インシデントの記録や会議の議事録、FAQの更新など、書く業務のほとんどが「社内向けの記録」だ。

 重要なのは正確性とスピードで、読み手を丁寧に扱うという意識はほぼない。だから社外文書の「決まり切った堅苦しいフォーマット」は、実は苦手なのよね。でも、そうも言ってられないなぁ。そうそう、本文は時候のあいさつから入って敬語もしっかり……って、あれ? 話し言葉の敬語と書き言葉の敬語って、同じだったっけ? 違ったっけ? 普段、あまり意識していなかったから、あらためて考えると分からないなぁ。ちょっと調べてみるか……。

 その後、ネットサーフィンしたり、社内にある文書作成に絡む書籍を引っ張りだしたりと、準備のための準備に追われ始めてしまった。わーん、本番の準備ができてないよー(涙)。

●「拝啓 ○○の候」って、別にいらないですよね?

 そして、「文書作成講座」当日。

わたし: テキストに印が付いているところが、社内文書と社外文書の違うところです。上から順番に見てみましょう。

 なーんて、ほらほら、ちょっと講師らしいでしょ。ふふふ。そういや昔“できるオンナ”にこだわっていたけれど、まさにそれっぽくっていいじゃない――と油断していたら、新入社員から質問が飛んできた。

新入社員: えーと、分かりやすく伝わりやすく書く必要がある、とさっき教わりましたけど、だったら、この書式の前文とか入れないで、伝えるべき話をいきなり書いたほうが簡潔で分かりやすくないですか?

 うーん、確かに社外文書に出てくる「拝啓 ○○の候、貴社ますますご繁栄のことと……」みたいな決まり文句、もとい、時候のあいさつと安否の気遣いと感謝の気持ちを書く部分って、結局は似たり寄ったりだものね。省略したくなる気持ちも分かる。それに、いろいろなコミュニケーションツールが使われるようになってきて、あいさつはそのうち無くなるんじゃないかって飲み会で話が出たこともある。

 でも、服を買いに行ったときに、店員さんから「いらっしゃいませ」も言われずに「この色なんかお似合いですよ」って話しかけられるとうろたえるだろうし、友達に会ったときに「おはよう」と言われずに「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た?」とか唐突に話しかけられたらびっくりするだろうなぁ。やっぱり、定型のあいさつって必要だと思うのよね。古いかな?

わたし: 私もね、書かなきゃダメ? って思って調べてみたことがあるの。そしたらね、ビジネス文書は、かしこまったシーンで使われることが多いから、時候のあいさつから入ることでよしとする慣習らしいの。私たちの会社で『面倒だし、ない方が伝わりやすい』と思ってあいさつ文を勝手に省略しちゃったら、それを知らない相手の会社はどう思うかな?

 と説明。まあ、まだコミュニケーション研修をしていないから、相手のことを思えってのも難しい問題だったかしら。

わたし: それに、ひな型が決まっていることで、どこに何が書いてあるか分かるから、読みたいところから読めるのがポイントだそうよ。偉い人ほど、ゆっくり文書を読んでいる時間がないからね。

新入社員: では、社内文書はどうですか?

わたし: そうね。社内文書の場合は、社外文書よりも正確さや詳しさが求められるわ。私は普段インシデント……えっと、PCに関するトラブルとか、使い方を教えてほしいといった問い合わせを受けて解決する部署で、トラブルや問い合わせの内容を記録するのも仕事の1つなの。私が作った記録は、私の同僚も上司も見るし、よりITに詳しい情報システム部の人も見ることになります。社内といえども誰が見るか分からない。だからこそ、誰が見ても分かるように、詳細に、正確に書く必要があるわけ。

 ……そう、ビジネス文書には常に「目的」がある。何のために書くのか、何のために読むのかを意識しないと、意味のない文書になってしまうこともある。当たり前のことだけど、実際に文書を書くときに、どれだけ「あとで誰かが読む」ことを意識できているかしら。そういう私も、研修のために勉強してて気付いたのよね。反省、反省。

 この間、営業課の同僚に報告書について聞いてみたけど、5W1Hみたいな話はもちろん、訪問で起きた問題、もらった宿題、そしてその問題や宿題の解決にどういうスキルや人材が必要で、どれぐらいの時間がかかったか、ということを都度記録しているらしい。これは、自分たちのパフォーマンス測定に使ったり、同じくらいのスキルを持った別の営業が似た仕事をするときの目安にしたりするんだって。やっぱり「後から読む」ことを想定して書かないといけないんだわ。

 こんなことを、新入社員に分かりやすく説明した(つもり)。

わたし: というわけで、社外でも社内でも、ビジネス文書は思い付いたことを思い付くままに書くものではないのね。なぜ書くか、なぜ読まれるか、何をどの程度書けば読み手の目的が達成できるか、どのような言葉を使えば誤解がないように伝わるか、といったことを意識して書かないといけない。

 この「言葉」の中には敬語も含まれるのよ。文書って、それを読んでいるときには、書いた本人がその場にいないでしょ。書いた人が読み手を尊重しているのか、それとも、ばかにしているのか、言葉遣いだけで判断されてしまうのよ。書き手が読み手のことをばかにしているつもりはなくても、敬語が正しく使えていなければ、もしかしたら読み手は「こいつ、オレのことをばかにしているのか?」と思うかもしれない。だから、内容も敬語もちゃんと書くことが大事なの。

●ビジネス文書の仮名遣い、ちゃんとできてます?

 納得したのか、慣習と言われてしょうがないと思ったのかは定かではないけれど、その後、彼らは静かに研修を受けてくれた。もっとも、後半は演習が中心で、余裕がなかっただけかもしれないけどね。講座の最後に、演習で書いたビジネス文書を提出してもらった。それに赤ペンを入れようとしたとき、ふと手が止まる。文書に「所謂」という漢字が使ってあったのだ。

 ビジネス文書では“補助的な語句は原則、平仮名にする”のがよいとされている。「所謂(いわゆる)」以外にも「或いは(あるいは)」とか「即ち(すなわち)」「様々(さまざま)」や「故に(ゆえに)」なども平仮名がよい。一方、その補助的な語句に強い意味を持たせたい場合は漢字にする。「全然」や「全く」「絶対に」といった語句には強い意味を持つ言葉なので、漢字でいいのだ。

わたし: 本人は書けなくても、PCなら簡単に変換できるからなぁ。次の講座で追加説明しとこ……。資料化するほどのことでもないし、ホワイトボードに書いてメモしてもらおう。メモの練習にもなるしね。

 と、そこにA子が資料を作って持ってきた。

 あちゃー、彼女の資料にも「即ち(すなわち)」と書いてあった。A子よ。お前もか。先輩が見本にならないと、新入社員から「先輩ができてないのに、僕たちやらないとダメですか?」って突っ込まれるの私なんだぞ。

最終更新:8月12日(金)12時4分

ITmedia エンタープライズ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

暗闇で光るサメと驚くほど美しい海洋生物たち
波のほんの数メートル下で、海洋生物学者であり、ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーかつ写真家のデビッド・グルーバーは、素晴らしいものを発見しました。海の薄暗い青い光の中で様々な色の蛍光を発する驚くべき新しい海洋生物たちです。彼と一緒に生体蛍光のサメ、タツノオトシゴ、ウミガメ、その他の海洋生物を探し求める旅に出て、この光る生物たちがどのように私たちの脳への新たな理解を明らかにしたのかを探りましょう。[new]