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「クソ豚!」「エロい目でジロジロ見んじゃねえよ、このクズ」――“ドS”人工知能「罵倒少女」開発の狙いは? ソニーに聞く

ITmedia ニュース 8月12日(金)18時23分配信

 「ウゼェんだよ! 見んなハゲ!」「ああ゛? キモいんだよ! 馴れ馴れしく呼ぶな!!」「あははは! クソ豚!」――イラスト投稿サイト「pixiv」に公開(8月15日まで)されている対話型Webサービス「罵倒少女」が話題になっている。黒髪に制服姿の美少女の正体は、ユーザーの呼びかけに対してさまざまな罵詈雑言を浴びせる人工知能(AI)。8月4日正午の公開後、約12時間で罵倒回数は200万件を突破した。

【画像】「愛しているよ」と話しかけると……こんな罵倒が返ってきた

 ソニー・ミュージックエンタテインメントと言語理解研究所(ILU)が共同開発しているAI「PROJECT Samantha」(プロジェクト・サマンサ)を搭載。ユーザーが入力した言葉の意味を推測し、「朝っぱらから声かけんじゃねえよ!」「エロい目でジロジロ見んじゃねえよ、このクズ」などとテキストで罵倒するほか、イラストやボイスメッセージ(CV.井上麻理奈さん)を返す仕組みだ。

 ネット上では「ひどい(笑)」「最高です!」「ありがとうございます! ご褒美です!」と、公開直後から話題が沸騰。一方「ソニー、何やってんだ」「人工知能って何だっけ」「ただのbotじゃないのかこれ」などの声も上がっていた。

 「罵倒自体が目的ではない。あるキャラクターの人格を人工知能で全て再現することに挑戦している」――こう話すのは、ソニー・ミュージックエンタテインメントの井上敦史さん。プロジェクトの裏側を聞いた。

●「実はひたすら罵倒するだけではない」 隠された仕掛け

 罵倒少女はもともと、pixivなどで活躍するカイカイキキ所属のイラストレーターのmebaeさんが生み出した作品。他のクラスメイトには優しいのに、主人公の男子高校生だけを罵倒する美少女・素子(もとこ)を描いたイラストが原作だ。主人公のことが嫌いで仕方がないが、どこか気になっていて、自分の感情をコントロールできずについ罵倒してしまう――今回のプロジェクトは、そんなキャラクターの個性やくせをAIで再現する試みという。

 実は、罵倒少女のAIはひたすら罵倒するだけではない。システムの裏側でユーザー1人1人に対する「好感度」を設定しており、会話の内容次第で感情が変化する。会話を始めたばかりの頃は「朝っぱらから話しかけんなよ!」とキツイ言葉を浴びせるが、好感度を一定の値まで上げると「デレる」仕掛けだ。

 逆にユーザーが心ない発言をし続けると「拒絶モード」になるという。「罵倒少女というタイトルはキャッチーだが、要は『キツめのツンデレの女の子』との心の交流をAIで再現したかった」(井上さん)。

 ユーザー個々人に対する素子の好感度は、pixivのアカウントとひも付けて管理。一般的な恋愛シミュレーションゲームのように決まったストーリーがあるわけではなく、素子が抱いている感情はユーザーごとに異なり、細かく揺れ動くため「人それぞれの素子との思い出ができる」という。

 実際にユーザーと素子のやり取りを見てみると「最初はAIだからと、心ないせりふを発している人が目立った」(井上さん)。しかし、徐々に「おはよう」「テレビ見た?」など、まるで友達や恋人と会話しているかのような、日常的なせりふが多くなっていくケースが大半だったという。

 「何を言ったら、どんな言葉を“機械的に”返すんだろう」と思っていた人が、素子の反応の生々しさに気づき、まるで本当の人と話しているかのように錯覚する――これこそがプロジェクトの狙いだったと井上さんは話す。

 今回のサービスの実施プラットフォームになったpixivの佐久間仁美さんによると、利用者の約7割はスマートフォンからアクセス。「友人とLINEのメッセージを送り合うような感覚で、仕事の合間などに素子と会話している人が多いのでは」という。「毎日ログインして15時間以上会話したり、1日に5800回やり取りしたりしているユーザーもいる」(佐久間さん)。

 1番多かったユーザーの言葉は「愛している」(8月8日時点で約4万8000回)で、ドMの人が言いそうな「ありがとうございます!」などの言葉は実は少ない。「ドMの人がターゲットになったかと思っていたが、そうでもなかった」と佐久間さんは振り返る。

●素子の脳内は? 話者の“意図”を読み取るAIエンジン「K-laei」

 なぜ、ドSなキャラクターを人工知能のモデルに選んだのか。井上さんは「人工知能で何かエンターテインメントをやろうとしたとき、よく分からない“無味無臭”のキャラクターでは何も面白くない」と話す。「どんなことに対してもニコニコしているキャラクターよりも、素子のように個性が振り切れていて、コミュニケーションを重ねると感情が変化するほうが、私たちのプロジェクトに向いていた」。

 素子の人格を再現するのに使われているのが、ソニー・ミュージックエンタテインメントと言語理解研究所が共同開発しているAI「PROJECT Samantha」だ。言語理解研究所が開発したAIエンジン「K-laei」を搭載し、ユーザーの言葉に込められた意図を読み取る。

 例えば「車に当たった」という発言からは「痛い」「悲しい」「悪い」などの意図を抽出し、「宝くじに当たった」からは「うれしい」といった意図を引き出す。読み取る意図のバリエーションは10万種類以上あるという。こうして読み取った1つ1つの意図に対し、AIがユーザーに返す言葉は開発者側が事前に用意しておく。

 「同じ意図を読み取っても、応答内容の違いによってキャラクターの人格を表現できる」と言語理解研究所の結束雅雪さんは話す。例えば「車に当たった」という発言に対し、一般的なキャラクターの場合は「車を運転するときは気をつけてね」「けがしなかった? 大丈夫?」などと返事するが、罵倒少女は「慰めてほしいのか? そのいじけた根性、たたき直してやる」と返すことで、人格の違いを表現しているという。

●せりふ作りに1200時間 「殺す」「死ぬ」はNGにしない

 読み取る意図のバリエーションは10万以上あっても、罵倒少女の原作イラストは50枚ほどしかなく、せりふの絶対数が足りなかった。そこで開発スタッフが作者のmebaeさんに取材し、「どういう家庭環境なのか」「学校ではどんな子なのか」など、原作者が考える素子のプロフィールを細かくヒアリング。取材内容をもとに、スタッフ4人が“素子像”の方向性を話し合っていった。

 「こんな言葉に対しては、こういう感情を抱く」「そういう感情を持つと、こういう反応を返すだろう」と話し合いながら、1万以上のせりふを作り足した。「アニメの脚本の打ち合わせに近く、1200時間ほどは掛かっている」と開発スタッフの一人、松井健さんは振り返る。

 放送禁止用語や差別的な発言に注意しつつ、素子らしさのあるせりふを消さないよう注意した。例えば、ユーザーが「素子に相手にされないと死ぬ」と発言すると、素子が「私に許可なく死んだら殺す」と返答する――など、キツイ言葉だが、ユーザーをはげますような表現を取り入れている。

 「極力使わないようにしたが『死ぬ』『殺す』をNGにはせず、人を不快にしないように気を遣いながら素子らしさを出した。mebaeさんが罵倒少女の世界観を作り込んでいたからこそ、キャラクターの特徴を逆手にとることができた」(井上さん)

●「好きなキャラと永遠に会いたいユーザーがいる」 新しいプロモーション手法に

 サービス公開後、多くのネットユーザーからさまざまな反響が寄せられた。罵倒少女を考案したmebaeさんも「想像以上の反応があったので驚いた」という。

 mebaeさん自身も、罵倒少女との会話を楽しんだユーザーの1人だ。mebaeさんが素子に求めていたのは「『自分はゴミだな』と思っているところに『ゴミなんかじゃない!』と否定するのではなく、『ゴミだね』と認めてくれる」というある種の“癒し”。AIとの会話では「こちらからどんどん好意を示して積極的に発言すると、的確な罵倒が次々と飛び出して、気付けば2時間たっていた」という。

 「面白いと感じたのは、自分と素子のやり取りが個人的で、他のユーザーの会話とは違う特別なものだと感じられること。誰にも話せないプライベートなことも書き込めるから、打ち明けた相手(AI)にとても愛着が湧いた」とmebaeさんは話す。

 「素子と15時間以上もやり取りをしてくださった人がいることを、すごくうれしく思っている」――井上さんはプロジェクトの成功を安堵しつつ「好きなキャラとなら永遠と会話したいと考えるユーザーがいて、滞在時間が伸びること分かった」と話す。今回の「罵倒少女:素子」とのコラボレーションを皮切りに、今後もPROJECT Samanthaと連携するアニメや漫画、映画などのキャラクターを募集し、プロモーションに活用してほしいという。

 「たとえ“お堅い”サイトであっても、ユーザーが普段から親しみを感じているキャラクターの人工知能を登場させ、そのファンが自分から見にいかないような情報を伝えられれば、新しい事業につながるのでは」と井上さんは話している。

最終更新:8月12日(金)18時23分

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