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【イベントレポート】サカナクション、<SAKANATRIBE>で「未来の可能性を感じました」

BARKS 8月12日(金)23時11分配信

「好きになってくれた人と、好きな人しかいない空間でした」。終演直後、バックヤードで交わした岡崎英美との会話の中で、彼女が口にした言葉は、明け方のフィナーレを共に迎えたすべての人の気持ちを言い表していたに違いない。

◆サカナクション 画像

観客、出演者、スタッフといった垣根なく、夜を超えた同じ“種族(=TRIBE)”として「グッドバイ」を歌う光景を眺めながら感じたものは、普段のライブで得られる一体感とはひと味違う、体験と共有感。そして、疲労と眠気が、数時間ほど前の夜の中で、耳にし、目にし、身体で感じた幻想が、現実のものであったことを教えてくれる。

7月17日、<JOIN ALIVE 2016>の大トリを務めたサカナクションは、そのまま場所を同フェス会場内にあるスキー場“グリーンランド・ホワイトパーク”山頂に移し、オールナイトの野外複合カルチャー・イベント<SAKANATRIBE NF CAMP in JOIN ALIVE>を開催。この夜、会場周辺はあいにくの雨に見舞われたが、約5,000人の観客が非日常的な自然の中に集い、音とビートの洪水と、霧雨をアートに変える幻想的な光に酔いしれ、朝を迎えた。

会場の山頂へは、北海道グリーンランドからリフト、あるいは徒歩ルートを歩いて移動。するとそこには、「ウェルカムアーチ」が出迎えてくれる。これをくぐって、メイン・エリアである「OKASHIRA STAGE」に向かうのだが、ウェルカムアーチには、日本レイヴ・シーン草創期から数多くのパーティに参加してきた、助川貞義氏(OVERHEADS)による「オイルアート(リキッドライティング)」が投影されていた。

オイルアートは、サカナクションの個性的なライブ演出を支えるものとして、ファンならずとも知る人は多いだろう。だが今回、ライブ・ステージでの平面スクリーンとは異なり、立体的な造形を彩る有機的な光は、暗闇の中でひときわ耽美かつ官能的。それまでの時間を過ごしていた“下界”と世界を一変させてくれ、特別な空間に来場者を招き入れてくれるアーチであった。

こうして足を踏み入れた会場内には、「OKASHIRA STAGE」、「UROCO STAGE」、そして「ISARIBI ROAD」を渡った少し離れた場所に「SAZANAMI LOUNGE」という3つのスペースが設営され、山口一郎をはじめとするサカナクションのメンバーによるDJや、Akufen、砂原良徳、A.M.(AOKI takamasa + MAA)、Daito Manabe+Setsuya Kurotaki、Licaxxxなど、総勢12組のDJ/ラップトップ・スタイルのライブが行われた。

メインの「OKASHIRA STAGE」では、Rhizomatiks ResearchがVJとして参加しており、DJたちが紡ぎ出すサウンドを、よりエッジの効いたものとしていた。その“オープン・フロア”から緩やかに登る丘の上に設けられたスペース(フード・エリア)にもPAが設置されており、ステージが見えずとも、休憩しながら各所でグルーヴが楽しめるようになっており、さらにその周辺では、ポイ(LEDジャグリング)のワークショップを体験する姿も数多く見受けられた。

一方、「UROCO STAGE」には、ドーム型テントの中にDJブースがセッティングされ、間近な距離感でダンス・ミュージックを楽しめるのが魅力的。コンパクトなスペースながら、そのエリアを取り囲むように、フロント側だけでなくリア側にもPAスピーカーが置かれており、空間を音で包みこんでいた。そのアート感をさらに倍増してくれていたのが、平山和裕(BAGS GROOVE)によるクールなライティングだ。

そこから山道をしばらく進んでいくと、「シャコガイゲート」が現れ、ここからが「ISARIBI ROAD」となる。雨が降り注ぐ天空から、メイン・ステージで鳴らされているキックの4つ打ちがかすかに聴こえてくる中、光に導かれるように歩みを進めていくと、次第に別のビートがクロスフェードするかのように大きくなっていく。すると、櫓のようにそびえ立つの「SAZANAMI LOUNGE」が視界に入ってくる。

ここは通常、同公園の見晴台として使われている施設。それを今回、サカナクションと北海道教育大学岩見沢校の学生とのコラボレーションによって、海をイメージした空間へとデザインされていた(「ISARIBI ROAD」も同様)。その最上階にもDJブースが用意されており、ホームパーティ的な手作りのダンス・スペースとなっていた。

夜が深まる中、自然を感じながら(止むことのなかった雨も、結果的には、否応なしに自然を体感させられる大切な要素のひとつとなっていた)、こうした各エリアを行き来していると、「○○がDJをしているから、このステージに踊りに行こう」という、ある意味でフェス/ライブ的な思考から、どこからともなく聴こえていくるグルーヴに対して、「この音、カッコいい。誰がDJしているんだろう?」と、音に対して自然と身体が引き寄せられている、そういった感覚になった人は多かったのではないだろうか。これこそが、山口が言う「音を探す遊び」、その体験の第一歩なのだ。

そして、深い闇に包まれていた空が白みを帯び始めた頃、次第に来場者は、「OKASHIRA STAGE」の“音の鳴る方”へと集まっていき、早朝6時半、<SAKANATRIBE>はフィナーレを迎えた。

今回のイベントは、サカナクションが約1年前から東京・恵比寿リキッドルームを中心に定期開催しているプロジェクト<NF>の発展形であり、かねてから山口が「オールナイトの野外レイヴ・パーティをやりたい」と言っていたことを、初めてひとつの形として実現したものと言える。

その<NF>は、一般的には「サカナクションが主催しているクラブ・イベント」といった認知のされ方をしているかもしれない。無論、それは間違いではないものの、<NF>の根幹には、フェスやライブとは違った音楽の楽しみ方や、それ以外にも音楽を楽しめる“場”はたくさんあるんだということをロック・ファンに紹介し、なおかつ、音楽に関わる音楽以外のカルチャーをもっと深く知って欲しいというメンバーの強い意志がある。

この想いは、少なくとも音楽を愛する多くの人、音楽関係者に共通したものだろう。ただ、だからと言って、誰しもがそれを言い、行動し、実現できるものではない。むしろ、それを発信できる先進性、鋭い感性、多角的なアンテナを持つ存在は、ごく限られた人/バンドしかいない。今の時代、その役割を担っているのが、サカナクションなのだ。

だからこそ、彼らは、「サカナクション主催の音楽フェス」ではなく、あるいは「ファン・イベント」でもない、複合カルチャー・イベントとして<NF>をスタートさせ、そして<SAKANATRIBE>にたどり着いた。そこにサカナクションの意志と、存在意義が凝縮されており、<NF>でのアプローチは、“ロックバンド・サカナクション”としてのクリエイティビティ、活動展開と両輪を成すものである。どちらか一方だけでは、もはやサカナクションではないのだ。

もちろん、もろ手を挙げて「<SAKANATRIBE>は大成功だった」と言えるかと顧みると、必ずしもそうとは言い難い。野外オールナイト・イベントとしてはやむを得ないことではあるものの、終始止むことのなかった雨を含め、過酷な環境であったことは間違いないし、クラブ・ミュージックに不慣れな観客と、レイヴ・パーティに大きな期待を寄せ集まった観客、その両者を満足させるには、さらなる工夫と改善が必要だろう。

それでも、こうした課題は“0”から“1”を生み出したからこそ見えてくるものであり、言い換えるならば、ようやく“1”から“100”を目指すための道筋が整えられたという状況だ。筆者の興味は、むしろ今後、この“1”から“2”、あるいは“10”へと、このイベントがどのような形で発展していくのかという点にある。そして当然ながら、それを一番楽しみにしているのは、誰あろう山口自身であることは間違いないだろうし、終演後に会った彼の眼にはもう、次の<SAKANATRIBE>の光景が見えているようだった。

「今回、こういった音楽の“遊び”に慣れていないみんなが、自由に踊っている姿を目の当たりにして、未来の可能性を感じました。次は関東でも、もっと大きなレイヴ・パーティをやりたいし、DJだけじゃなくて、バンドを入れたりと、いろんなスタイルでもやってみたい」──山口

音楽のみならず、さまざまな分野において多様性が語られる昨今だが、現実には、極一部の考え方や意見が広く拡散されているに過ぎず、世の中は画一的、もしくは二極化が顕著となりつつある。そのような中で、山口が頻繁に口にする「自由に踊る」という行為は、極論を言えば「踊らないという楽しみ方」さえをも肯定する、まさに多様性を持った音楽の楽しみ方の提案だ。

さらに彼らは、音楽と異文化を混ぜ合わすことで、新たなカルチャーを生み出そうとしている。それは、音楽とファッション、アートといった文化的観点だけでなく、同じ音楽においても、ロックとクラブ・ミュージックといったようなカテゴリーごとの分断においても同様であり、そのロック・ミュージック側から築いた入口が、<NF>であり、今回の<SAKANATRIBE>なのだ。

つまり、今回の<SAKANATRIBE>は、まだまだ彼らが目指す道のりのワンステップにすぎない。入口の先に、どんな音楽の未来が広がっているのか。そして、この入口をくぐった若い世代が、どんなカルチャーを生み出していくのか。そこに、音楽が本来持っていたはずの価値やエネルギーを取り戻す何かが、きっと宿っている。

取材・文◎布施雄一郎

最終更新:8月12日(金)23時11分

BARKS

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。