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ニュートリノの謎が解明されれば本当に宇宙の起源がわかるのですか/多田将氏(高エネルギー加速器研究機構准教授)

ビデオニュース・ドットコム 8/13(土) 20:56配信

(C) ビデオニュース・ドットコム

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 物質の最小単位となる素粒子の謎が解ければ、宇宙の起源がわかる。そう言われて、一体どれだけの人がピンとくるだろうか。

 物質をとことん細かく砕き、これ以上ないところまで小さくした時にできる素粒子のニュートリノが、宇宙誕生の鍵を握っている。そして、そう信ずる最先端の物理学者たちが、世界中でニュートリノ研究に鎬を削っている。

 茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構などの国際研究チームが、8月6日、「ニュートリノ」の「粒子」と「反粒子」の変化に違いがある「CP対称性の破れ」の兆候を初めて捉えたと、米・シカゴで開かれていた国際学会で発表した。まだ、「兆候を捉えた」段階に過ぎないが、これが確認されれば、宇宙の起源の解明にもつながる人類史に残る大発見になるのだという。無論、ノーベル賞候補だ。

 われわれの目の前で人類史に残るほどの大発見が現在進行形で起きているかもしれないのに、そのすごさが理解できないのはちょっと悔しいし勿体なくもある。そこで今週のマル激では、正に今回の実験を行った高エネルギー加速器研究機構の准教授で「金髪の素粒子物理学者」の多田将氏に、典型的文系脳の神保哲生と宮台真司が「今さら聞けないニュートリノと宇宙の起源の関係」を聞いた。

 そもそもニュートリノというのは中性を意味するneutralとイタリア語で小さな粒子を意味するinoを組み合わせた言葉。物質は小さく刻んでいくと分子→原子となり、原子は原子核と電子から成ることは、かつてわれわれも高校の物理の授業で習った覚えがある。更にその原子核は陽子と中性子から成り、陽子と中性子はいずれもクォークと呼ばれる粒子からできている。現在の人類の英知と技術ではクォークが最も小さい物質の単位となっているため、これを素粒子と呼んでいる。ちなみにクォークのサイズは10の-18乗メートル程度だとされる。

 クォークには電荷の違いなどから6種類のクォークがあり、それぞれに名前がついている。また、素粒子にはクォークの他にレプトンと呼ばれる種類の素粒子が6種類あり、両者を合わせた12種類の物質が現時点で人類が解明できている物質の最小単位「素粒子」となる。この世に存在する全ての物質という物質が、この12種類の素粒子のいずれかからできているということだ。

 ところが、素粒子にはもう一組、この12種類の素粒子と全く対の関係にある「反粒子」あるいは「反物質」と呼ばれる一群が存在する。これは12種類の素粒子の全く正反対の性格を持つ素粒子で、ちょうど実物とそれが鏡に映った姿の関係にある。そして、対になる素粒子同士が合わさると両者は消滅する。

 この「反粒子」とか「反物質」と呼ばれるものが、素人にはなかなか曲者だ。しかし、宇宙の起源を考える時、この概念は不可欠となる。物理学的には、何もないところから何かができるとは考えられない。今、宇宙に様々な物質がある以上、それがどこから来たかを考える上で、反粒子の存在は無くてはならない。物理学では宇宙には最初に「物質」と「反物質」がほぼ同数存在していたが、何らかの理由で物質の量が反物質を上回る「対称性の破れ」が生じたために、物質が残り、それが現在に至っていると考える。

 そしてこの「物質」と「反物質」の「対称性の破れ」の兆しをとらえたのが、今回ニュースになった実験の成果だった。

 今回の実験では東海村にあるJ-PARC(大強度陽子加速器施設)から295キロ離れた岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデに向かってニュートリノの「粒子」と「反粒子」を発射したところ、両者の変化に違いがあることが確認できたのだという。本来全く正反対でなければならないはずの粒子と反粒子が、異なる変化を見せたことで、「対称性の破れ」の兆しが見えたのだという。

 実際にこの実験に携わったゲストの 多田将氏は、今回の実験によってCP対称性の破れが90%程度証明されたと考えていいのではないかと言う。しかし、物理学的にこれが「確認された」と言えるようになるためには、99.9999%の精度の証明が必要になる。今回の実験はあくまでその第一歩を位置付けるべきものだという。

 今後、世界中でこの仮説を確認する実験が実施され、これが確認された時、人類は宇宙の起源の解明に手が届くことになるのだという。多田氏は2020年代の中頃には、それが証明される可能性があると言う。

 20世紀に目覚ましい発展を遂げた物理学は、今なおその発展を遂げている。特に実験装置が発達したことで、かつては仮説でしかなかった数々の学説が、実験によって裏付けられるようになってきている。しかし、物質を素粒子の次元まで解き明かし、更に宇宙の起源にまで迫ろうかというところまで来ている物理学は、その先に何を見ているのか。今日の最先端の物理学もそう遠くない将来、いたって原始的で牧歌的なレベルに過ぎないものだったと言われる時が来るのだろうか。

 盛夏の折、最先端の素粒子物理学が明らかにするこの世で最も小さな話と、宇宙の起源というこの世で最も大きな話、そして両者の関係について考えた。

多田将ただ しょう
高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所准教授
1970年大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、2004年より高エネルギー加速器研究機構に勤務、14年から現職。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』、『宇宙のはじまり 多田将のすごい授業』、『ニュートリノ』など。

(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

最終更新:8/13(土) 20:56

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