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【プレミア開幕展望】アーセナル ヴェンゲルの哲学は変わらないがタイトル獲得には課題が多い

SOCCER KING 8/14(日) 20:27配信

 ライバルクラブの多くがこぞって変革のうねりに身を投じる中、アーセナルはいつものように「same old Arsenal(お決まりのアーセナル)」を貫き通す。

 この夏、ここまで最大の補強選手はボルシアMGのスイス代表MFグラニト・ジャカ。もはや驚く必要もないが、やはり“中盤の技巧派”だった。続いて飛び込んできたのは、サンフレッチェ広島から21歳のFW浅野拓磨を、そして3部に降格したボルトンから20歳のDFロブ・ホールディングを獲得したというニュースである。もちろん、ジャカが素晴らしいプレーメーカーであることに疑いの余地はない。我々日本人からすれば「浅野を狙うなんてお目が高い!」と喜ばずにはいられないし、ホールディングだって無名だが過去の補強実績を考えれば大きなポテンシャルを持った選手なのだろう。

 ただ、世界中のグーナーたちが“デジャヴ”のような感覚に襲われているはずだ。名うてのパサーや将来有望なダイヤの原石もいいけれど、シーズン20ゴールを約束し、チームを勝利に導いてくれるストライカーはいつやってくるのか? 後方でリーダーシップを発揮できる、心身ともに屈強なセンターバックはこないのか?

 そんな声を知って知らずか、アーセン・ヴェンゲルの哲学は決してブレない。この夏も、プレミアリーグ最高のクオリティーを誇る自慢の中盤をさらに美しく磨きあげ、育てがいのありそうなスター候補生にも目を配りつつ、その過程でマンチェスター・UがMFポール・ポグバ獲得に1億ユーロ(約113億円)を用意したという記事を見かければ「完全にクレイジー」と小言を発することもしっかり忘れず、我が道を突き進んでいるのである。

 そう、中盤には最高の選手がそろっている。プレミアの昨季アシスト王であるMFメスト・エジル、究極の万能型アタッカーであるFWアレクシス・サンチェスという2人のビッグプレーヤーがいる。その脇を固めるのは、ユーロでも活躍した神出鬼没のMFアーロン・ラムジーや、両利きの魔法使いMFサンティ・カソルラ、他と毛色が違う武闘派MFフランシス・コクランに、昨冬加入の成長株MFモハメド・エルネニー、加えてブンデスリーガ屈指の司令塔だった3400万ポンド(約45億円)のジャカ。彼らがピッチのいたるところでトライアングルを作りながらショートパスをつないで守備網を引き裂くのだから、対戦相手にとっては悪夢でしかない。実際、今夏のテストマッチでもノルウェーのヴァイキングを8-0で撃破し、開幕1週間前にはマンチェスター・Cに3-2で攻め勝つなど、崩しがハマったときの攻撃力は折り紙付きだ。

 しかし、問題はヴェンゲルのチームが個に依存しすぎる傾向があること。簡単に言えば、よくも悪くもエジルとサンチェスの位置取りやアイデアを基準に周囲が動くチームであり、この2人の好不調がそのままチームのバイオリズムになってしまうため、年間を通した継続性に欠けるのだ。彼らが不在、または不調の試合でも的確なプランBを用意して確実に勝利をモノにできる戦術的柔軟性があればいいのだが、指揮官にも選手たちにも、それはあまり期待できない。

 ここ数年はロングパスを織りまぜてみたり、しばしばポリシーを曲げて“守り勝つ”試合もあったりと、多少の変化は見られる。それでも、基本的には過去10年にわたって「4-2-3-1」一辺倒で、同じサッカーを続けてきたのがアーセナルとヴェンゲルだ。この夏からプレミアにやってきたジョゼップ・グアルディオラ、アントニオ・コンテのチームの特徴である緻密な戦術調整力や、対戦相手の長所を無効化するジョゼ・モウリーニョのチームが持ついやらしさ、大胆な采配やギアチェンジで試合の流れを奪い返すユルゲン・クロップのチームが見せる強引さなどは、望むべくもない。

 20年前に流麗なパスサッカーでイングランド・フットボールに革命を起こしたヴェンゲルも、自身が「監督の世界選手権」と評した今シーズンのプレミアリーグで、こと戦術面に関して言えば、ライバルたちにやや見劣りしてしまう。

 それなら、均衡した展開でも独力でゴールをこじ開けてくれるストライカーがいればいい。しかし、ここ数年でFWゴンサロ・イグアインやFWルイス・スアレスの獲得に失敗し、この夏もFWジェイミー・ヴァーディにオファーを断られ、FWアレクサンドル・ラカゼットやFWアルバロ・モラタの獲得交渉にも進展が見られないなど、このポジションに関してはなぜかビッグネームと縁がない。

 このまま8月末までに一線級のFWを獲得できなければ、ファンの信頼を得られていないFWオリヴィエ・ジルー、故障が多いFWダニー・ウェルベック、いよいよ成長が頭打ちになってきたFWセオ・ウォルコットらが覚醒してゴールを量産し、エジルとサンチェスがシーズンを通してハイパフォーマンスを維持し続け、さらには昨シーズンのFWアレックス・イウォビのようなラッキーボーイも台頭して(労働許可証が下りれば浅野もその候補?)、主力の負傷離脱も最小限に抑えて……といった数々の不確定要素がすべていい方向に転ばない限り、プレミアリーグの王座には今シーズンも届きそうで届かないだろう。上位にはいるが、結局は優勝に届かず、“指定席”のトップ4に収まる。悲しいかな、そんなお決まりのストーリーが容易に想像できてしまう。

 さらに短期的な部分に目を向ければ、センターバックの台所事情が深刻だ。DFペア・メルテザッカーが7月下旬にひざを負傷して手術を受け、DFガブリエウも8月7日マンチェスター・C戦で足首を故障。ユーロ2016を決勝まで戦ったDFローラン・コシェルニーも調整が遅れており、来たるプレミアリーグ開幕戦で五体満足なセンターバックは若いホールディングとDFカラム・チェンバーズしかいない状態だ。メルテザッカーは長期離脱が決まっているため、8月中に即戦力を確保しておきたいのもやまやまだが、そもそも仕上がりのいいリヴァプール、前年王者レスターとの連戦でシーズンが幕を開けるため、万が一にも連敗スタートを切るようなことがあれば、シーズン全体の流れが悪くなりかねない。

 このように、ヴェンゲル体制21年目のアーセナルは課題が山積みである。それでも、指揮官は新シーズン、確実に結果を残さなければいけない。かれこれ12シーズンもリーグタイトルから見放され、かつては信者だったサポーターの中にも、少なからず「退任」を求める勢力が強まっているのは事実。加えて、ヴェンゲルとクラブの現行契約も最終年に入った。何らかのビッグタイトルがなければ、いよいよプレミア最長寿監督もその看板を下ろさなければいけなくなる。新シーズンは、知将ヴェンゲルの監督キャリアを左右する正念場なのである。

(記事/Footmedia)

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最終更新:8/15(月) 1:59

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