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あなた「らしさ」とは? このように聞かれてどう答えますか

ITmedia ビジネスオンライン 8月15日(月)6時10分配信

 「あなたらしさ、とはなんですか?」。そう聞かれたとき、どういうふうに思いを巡らせるでしょうか。この問いの「あなた」を、「あなたの会社」「あなたのお店」「あなたの売る商品」「あなたの住む地域」に置き換えたらいかがでしょう。

【企業ブランディングの目的とは】

 「らしさ」という言葉を、私たちはしばしば口にします。“自分らしく生きたい”と願うこともあるでしょうし、“君らしくやればいいよ”と誰かを励ましたこともきっとあるでしょう。“うちの会社らしくやろう”と言う経営者もいらっしゃるでしょう。それでいて、冒頭のように「では、あなたらしさとは?」と問われると、人は案外、スラスラとは答えが出てこないものです。

 私のオフィスに持ち込まれる案件は、例えば、会社のブランド力を上げたい、商品力を上げたい、地域の魅力を向上させたい、というようなことがらです。

 ところが、「では、“御社らしさ”ってなんですか?」と尋ねると、意外にも実はそこが認識できていない、見えていない、そういう企業が少なくない。経営者自身からもすぐに答えが出てこなかったり、社員によって答えがまちまちだったりします。

 企業だけではありません。学生やビジネスパーソンと話している際も、「ところで、“あなたらしさ”ってなんですか?」と聞くと、大抵の人はやっぱり「えーっと……」と考え込んでしまう。つまり、そういうことを日頃あまり考えたり意識していないのだと思います。

●「らしさ」が見つからないと前に進めない

 私がなぜこのように「らしさ」ということを相手に問いかけるかというと、実は「らしさ」が見つからないと企業も人も前に進めないからなのです。

 前に進む――。ただ漫然と時間が流れるのではなく、成長していく。目指すべき方向に進んでいく。よりよく向上していく。1人の人生においても、その人の営みであるビジネスや共同体においても、これは根本の大切な問題です。

 「らしさ」=「独自性」を発見していくことは、そこに直結する重要なことがらなのです。ブランディング・ディレクターという私の仕事は、ここを発見し育てるお手伝いをしていく仕事です。この「らしさの発見」「独自性の発見」こそ、ブランディングの源泉だと私は考えています。

 そもそも「ブランド」と聞くと、いわゆるブランド品と称される高級品や、地方の特色ある米や肉といった特産品を思い起こす人も多いと思います。

 ブランドについての教科書に大抵書かれているのは、この言葉の語源は、飼っている家畜に自分の目印となる焼印をつけることを意味する北欧の古い言語ノルド語branderで、日本語では「商標」などと訳され、それはつまり識別するための印であるというようなことです。

 これまでのブランドという概念は、他者との差別化、識別性など、他者との比較に力点が置かれて語られてきました。つまりそれは、自分の外にあるものさし――マーケットという外なる座標軸の中でどうポジションを得るかとか、競争の中でいかに勝ち残るかという視点――で考えられてきたからです。

 人間にとってもっとも大切なことは、自分自身の人生を生き切ることです。流行っている誰かのように似せることではなく、かけがえのない自分自身を磨きあげていくことです。このことは、人が生み出すモノやコト、人が営む組織にも通じていきます。企業にとっても、成功している他社のマネをすることではなく、その企業のみが体現できる独自性を磨きあげていくことがなにより肝要なのです。

●モチベーションに直結する「独自性」の発見

 強いチームで勝ち抜いているアスリートたちからは、しばしば「このチームで戦えることを誇りに思う」「このチームの一員として試合に臨めることを誇りに思う」という言葉が発せられます。

 そこには所属するチームに対する「誇り」と「愛着」がにじみ出ています。強いチームには、この選手個々が抱く「誇り」と「愛着」があるのです。それは結果を出すチームに“不可欠”な要素と言ってもいいでしょう。なぜなら、「誇り」と「愛着」こそが、選手たちのモチベーションそのものだからです。

 かつて広告会社に勤務していた時に、私が関わらせていただいた仕事の1つに三菱鉛筆のお仕事がありました。明治20年(1887年)創業の、日本の筆記文具の老舗です。

 同社のロングセラー商品に「POSCA(ポスカ)」という水性顔料インクのマーカーがあります。1983年の発売ですから、誰もが目にしたことがあるでしょう。どんな素材にでもポスターカラーのビビッドな色が載り、しかも重ね書きできるという特性で人気となり、販売促進用のPOPなどには欠かせないツールとして定着しました。

 とくに、細書きタイプの登場でプリクラに文字や絵を書きこむ女子中高生たちの間では定番アイテムとなり、また欧州などでもアーティストに注目されるなど、国内外でその認知は不動のものとなりました。

 ただ、IT時代の進展と共に筆記具の需要に陰りが生じたことに加え、家庭での日常的な利用では使われる場面が今一つ広がらず、発売30周年の2013年を前に、売り上げは横ばいになっていました。

 そこでご相談いただいたのは、この「POSCA」の売り上げを再び伸ばしていくにはどうしたらいいかというものでした。同社にとってはすでにロングセラーの商品であり、それこそ若い社員にすれば生まれる前から存在していた商材です。そこにあって当たり前で、逆に言えば今さら特別に何かをアピールできるアイテムではなかったのかもしれません。

 まずは三菱鉛筆の社員の方々に、この「POSCA」を家に持ち帰って使っていただきました。あるいは友達にワンセットさしあげたりして、何でもいいので「POSCA」を使った作品を持ち寄るという“宿題”を作ったのです。

●「POSCA」の魅力を再発見

 すると、どういうことが起きたか。社員自身が「この商品、意外と面白い」「こんな楽しい使い方ができた」と「POSCA」の魅力を再発見していったのです。こうなると、営業の人たちが得意先を回る時も、ものすごく自然に「これ意外といいんですよ」と伝えたくなります。自分たちが面白さを発見した使い方を提案する販促活動を進めていくと、かつてプリクラ世代だったママたちを中心に、反響が広がっていきました。

 私は、その直後に会社を退職したので、その後どうなったのか、詳しくは知りませんでした。先日、たまたま同社の方とお会いしたら「あれから、どうなったか知ってますか?」と笑顔でおっしゃるのです。商品そのものは変えていないのに、売れ行きが伸び続けているというではありませんか。

 それをうかがって、私は改めて「誇り」と「愛着」によって生み出される力を実感しました。よく“モチベーションが上がる”という言い方をしますが、それはハイテンションになるような一時的な感情のたかぶりでもなければ、「やる気」を出す出さないという話でもありません。具体的には「誇り」と「愛着」を強く持つということなのです。

 では、その「誇り」と「愛着」はどこから生まれるのか。上司から“誇りと愛着を持て!”と命令されて持てるものではありません。それはチームであれ商品であれ、そのものの「らしさ」「独自性」を発見することから生まれるのです。

 あえて言えば弱点や欠点さえも含めた、自分にとってのかけがえのなさ。所属するチーム、売ろうとする商品、暮らす地域。それが他とは違うかけがえのないものだと実感できた時に、人はおのずから、そこに最大限に貢献したいと強く願うのではないでしょうか。貢献できることそのものが、その人にとって幸福だからです。

(井尻雄久)

最終更新:8月15日(月)6時10分

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