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J1得点王争い独走のウタカ、ゴールラッシュの理由…リオ五輪ナイジェリア代表の諸問題にも言及

SOCCER KING 8/15(月) 18:15配信

 筋肉の鎧に覆われたぶ厚い胸板が、ユニフォームの上からでもはっきりと分かる。本当に身長178センチ、体重79キロしかないのかと思わせるほど、見た目よりもはるかに大きな存在感をピッチの上で放っている。

 サンフレッチェ広島FWピーター・ウタカ。屈強な外見からは“フィジカル・モンスター”という言葉を連想させる。日本人プレーヤーと同じ尺度では測れないケタ外れのスピードとパワーを搭載し、コンタクトの刹那に受ける衝撃度は想像を絶するものがあるかと思われがちだが、チームメートのDF千葉和彦は意外な言葉を口にした。

「もちろん体は強いんですけど、相手がバチーンと来たところをうまく、ヌルッという感じで(相手のパワーを)吸収してターンすることもできる。その点では、相手にとって非常に厄介な選手だと思いますよ」

 バチーンではなくヌルッ――。ウタカが清水エスパルスでプレーした昨季はセンターバックとして対峙し、同僚となった今季から日々のトレーニングで肌を合わせる千葉は、32歳の元ナイジェリア代表ストライカーが、その屈強なボディに“しなやかさ”を同居させていると明かしてくれた。

 例えるならば、力を加えられてもすぐに元の状態に戻る柳の枝となるだろうか。日本人にとっては異次元のスペックが発揮され、それがゴールへとつながったのが、13日に行われた湘南ベルマーレとの明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第8節だった。

 広島が1点をリードされて迎えた43分、ハーフウェイラインを少し越えたあたりからDF清水航平が縦パスを入れる。ターゲットは右サイドからスライドしてきたウタカ。その背後を湘南DFアンドレ・バイアがぴったりとマークしている。そして、ウタカが右足でトラップした瞬間だった。狙いを定めて体をぶつけてきたバイアが逆に弾き飛ばされ、その場に尻もちをついてしまう。一方のウタカは相手のプレッシャーを受け止め、反時計回りに体を反転させるパワーへと変えていた。

 この瞬間こそが、千葉をして「ヌルッ」と言わしめるプレーなのだろう。巧みに体を入れ替えて、振り向きざまに右足でボールを前へかき出し、ゴールへ向けて加速していったウタカの前には、もはや湘南GK村山智彦しかいない。必死に追走してきたMF石川俊輝に右側から体を寄せられても、ウタカは全くバランスを崩さない。石川をブロックしながら体を挟んだ左側にボールを置き、利き足とは逆の左足を一閃。強烈な一撃が飛び出してきた村山の右手を弾き、ゴール右隅へと吸い込まれていった。

 この一発でゲームの流れを広島へ引き寄せ、60分のMF丸谷拓也の勝ち越しゴールへと結びつけたヒーローは、ピッチを離れればシャイな男へと早変わりする。衝撃的なゴールを振り返る口調も、ちょっぴりはにかみがちだ。

「相手(バイア)が自分に強く当たりに来ていることは分かっていたので、彼のポジションをしっかりと見ながら、まずはファーストタッチで相手に取られない位置にボールを置いた。相手が思ったよりも右から来ていたので、ターンしてよりスペースが広いほうへ運ぼうと思ってボールをコントロールした。別の選手が追いかけてきたけど、彼をブロックすることでシュートを打てるスペースを作れたので、あとは冷静に決めるだけだった」

 前節の名古屋グランパス戦に続くゴールは今季J1リーグ戦通算17得点目。4シーズン連続の得点王を目指すFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)に3差をつけて、得点ランキングのトップを快走している。

 昨季のウタカは、清水で9ゴールに甘んじている。すでに倍近いゴールを量産している秘密は、ブラックアフリカン特有の強靭で、それでいて柔らかい体だけにあるわけではない。アシストを決めた清水は、ゴールはウタカの高い個人技の賜物だと絶賛する。

「サイドチェンジでボールをいい感じで動かしたところで、ウタ(ウタカ)が一対一になるのが見えたんですけど、ピッチの状態を考えたら速いボールを蹴るしかなかった。でも、ウタはどんなボールでも確実に収めてくれるし、しっかりと体を当てて入れ替われるテクニックもあるので、速いパスでも大丈夫だと思って蹴りました。少々コースがぶれても、キープできる力もあるので」

 やや荒れた状態になっていたShonan BMWスタジアム平塚のピッチを考慮して、清水はライナー性のパスをワンバウンドさせて、ポジションを移してきたウタカの下へ通した。処理するには難しい腰のあたりの高さのボールを、ウタカはゴールに背を向けた体勢から、右足で柔らかくトラップする。その間、ボールを奪おうとバイアが右足を股下にねじ込んできたが、バランスを崩すことなく相手のパワーを自分のものとしている。

 ここ一番の場面で融合された“体”と“技”に導かれたゴールとなるが、もう一つ見逃せないのが、ウタカの“心”だ。試合はキックオフから湘南が鋭い出足で昨季王者を圧倒し、20分にはFW端戸仁の豪快なミドルシュートで先制していた。広島はアグレッシブに前へ出てくる湘南の前に、パスコースをなかなか見つけられない展開が続く。ちょっとでもパスがずれてルーズボールになれば、すかさずカウンターを仕掛けられる。そうしたリスクを承知の上で、清水が処理の難しい縦パスをウタカへ送ったのはなぜなのか。

「困った時にはオレに出せと、いつも言ってくれるんです。非常にポジティブな声を掛けてくれるし、厳しい言葉でチームに喝を入れてくれることもある。本当に頼もしい存在ですよ」

 メンタル面でも大きな存在感を放ちつつあると証言してくれた千葉は、ウタカの人懐こい一面を笑顔で明かしてくれた。

「とにかく明るいし、みんなの中に溶け込もうとする意欲をすごく感じるんですよね。あいさつを含めて、日本語も結構しゃべれるようになってきたし、積極的に覚えようとする姿勢もある。日本人のことをリスペクトしてくれるし、どうやら清水時代におでんが大好物になったみたいで。『静岡おでんが一番おいしい』と言っては、よく食べていますよ」

 たまり醤油を使用した濃い目の出汁で煮込まれた「玉子、大根、鶏、スジ肉、こんにゃく、ちくわ、厚揚げ」に口直しのおむすびが添えられた『静岡おでんセット』は、試合ごとに限定販売される『選手コラボメニュー』として、6月18日の浦和レッズ戦で一つ700円にて販売された。広島名物のお好み焼きも「好き」というウタカは、静岡おでんに至っては「大好き」と屈託なく笑いながら、器用に箸を使っては堪能しているという。文化も風習も異なる東洋の国に積極的になじもうとする姿勢がピッチの中にも好影響を及ぼし、新天地・広島へスムーズに順応させたのだろう。加入直後にはチームのレジェンド、FW佐藤寿人を「ダイトウリョウ」と呼んで敬わったと聞く。右足のアウトサイドにかけた強烈な一撃を、ペナルティーエリアの外から突き刺した湘南戦における丸谷の勝ち越しゴールには「すごいね!」と日本語で絶賛している。

 獰猛な獣をほうふつとさせるピッチ内、子供のように無邪気な笑顔を浮かべるピッチ外の表情。相反するギャップが魅力でもあるウタカは、実は広島にとって2年越しの“恋人”でもあった。

 2014シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。グループFで北京国安(中国)と対峙した広島は、相手チームのエースだったウタカのプレーに衝撃を受けている。当時強化部長を務めていた、広島の織田秀和代表取締役社長は「うまくウチにはまってくれましたね」と振り返る。

「ウチのコーチたちがACLの戦いをスカウティングしている中で、『彼だったらウチ(のスタイル)にはまるんじゃないか』と言っていたのがウタカでした。今季はシャドーとしてというより、シャドーを含めた前線の3つのポジションをできる選手と考えて獲得しました。(昨季在籍した)清水さんではカウンター要員みたいな感じになっていて、もしかすると彼の良さの一部しか出ていなかったのかなという気がしますけど、ウチでは前線で起点になり、なおかつゴールを確実に決めるという、私たちが期待したとおりのプレーを見せてくれている。コンビネーションで味方を使い、あるいは自分も生きるという感じですね」

 昨季終了後、シャドーの位置でリーグ2位の21ゴールを挙げてセカンドステージ制覇と年間王者獲得に大きく貢献したドウグラスがUAE(アラブ首長国連邦)のアル・アインFCへ完全移籍。その穴を埋める存在として白羽の矢を立てられたウタカがJ2へ降格した清水から1年間の期限付き移籍で加入し、開幕当初はシャドーのポジションでプレーしていた。しかし、順応の速さに稀有な得点能力が導かれ、ベガルタ仙台とのファーストステージ第5節からは佐藤の定位置だった1トップのポジションに定着。なかなか波に乗れない昨季のチャンピオンチームをけん引している。

 昨シーズンまで12年連続で2ケタ得点を記録してきた佐藤は、現時点で3ゴールにとどまっている。それでも、織田社長は森保一監督の采配に理解を示している。

「(佐藤)寿人には寿人の良さがあると思いますし、持ち味がそれぞれ違いますけど、今のメンバー編成を考えると、ウタカのほうがちょっとだけ優先順位が高いのかなと思います」

 19歳だった2003年にベルギーリーグ2部のチームで本格的にキャリアをスタートさせたウタカは、2008年8月に移籍したデンマークリーグのオーデンセBKで大ブレークを果たす。2年目の2009-10シーズンには18ゴールをあげて得点王を獲得。3シーズン半で52ゴールを叩き出した決定力の高さを買われ、2012年1月には中国の大連阿爾濱(現大連一方足球倶楽部)に移籍。このシーズンにいきなり20ゴールをマークしたことでさらに評価が高まり、翌2013年7月には強豪・北京国安へ完全移籍した。当時の移籍金約4億7000万円は中国スーパーリーグのクラブ間の移籍金としては史上最高額。必然的に別のチームへ移籍する際の違約金も高く設定されたが、不振に陥った2014年7月には上海申キンへ期限付き移籍で出され、期間が終了した時には北京国安の外国人枠も埋まっていた。

 いわば“宙ぶらりん”状態となり、違約金もほとんど有名無実化していた状態で、ウタカに電光石火でオファーを出して完全移籍で獲得したのが清水だった。中国の地で酸いも甘いも味わわされただけに、ウタカは得点王レースを快走する今もゴールへの飢餓感を常に抱き続けている。

「ストライカーとしてゴールを決めることが僕の仕事であり、ゴールを決められなければ今のポジションを失うと思っている。そのためには、常にゴールに飢えた状態であることを心掛けている。次の試合も同じような気持ちで臨み、チームの勝利に貢献できるゴールを決めることが大事だと思っている」

 満たされることのない思いが、チームメートが作ってくれたチャンスを逃さず、確実にゴールネットを揺らす決定力の高さにつながっているのだろう。ウタカの2戦連続ゴールもあり、セカンドステージ初の連勝をマークした広島は年間総合順位で4位に浮上した。現時点でセカンドステージは6位で、首位・浦和レッズとの勝ち点差は8と開いている。明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ出場を果たすには、年間総合順位で3位に入るのが近道と言える。現時点の年間3位は鹿島アントラーズで、広島との勝ち点差は6。すでに直接対決は終わっているため、広島としては勝ち続けることで鹿島にプレッシャーを掛けていくしかない。その目標を達成するため、ウタカに“あるノルマ”を課していると千葉は笑いながら明かす。

「ウタには『オレらが優勝するためには、お前が28点くらい取らなきゃダメだ』とみんなで言っているので。あと11ゴール。ぜひとも得点王を獲得してほしいですね」

 ちょうど地球の裏側にあたるブラジルで開催中のリオデジャネイロ・オリンピックで、母国ナイジェリアが優勝した1996年のアトランタ大会、準優勝した2008年の北京大会に続く3度目のベスト4進出を果たした。しかし、4年に一度のスポーツ界最大の祭典ながら、開幕前にはナイジェリア・サッカー協会の資金不足に端を発した数々の問題が表面化。事前キャンプを張っていたアメリカ・アトランタから手倉森ジャパンとのグループリーグ初戦が行われたマナウスへ試合当日に到着する前代未聞の行動が波紋を呼んだ。

 選手たちのコンディションが懸念された一戦は、壮絶な点の取り合いの末にナイジェリアが5-4で勝利。ウタカも「まさか9ゴールも入るとは思わなかった」と、笑いながらこう続けた。

「タク(浅野拓磨)がゴールを決めたことがうれしく感じた。キックオフの7時間前に到着したことで、トラブルがどうこうといろいろ言われているけど、自分たちにとっては普通のこと。加えて、シアシア監督は勝利へ向けて選手たちのモチベーションを非常にうまくコントロールして乗せることのできる素晴らしい監督なので」

 デンマークを2-0で一蹴した準々決勝を前にしても、ナイジェリア代表は選手たちの給与や滞在費、移動費などの未払いをめぐって大会ボイコットを示唆。「ナイジェリアの不屈の精神が大好き」と公言する高須クリニックの高須克弥院長が資金援助を申し出たことで最悪の事態が回避されたとされている。

 大会中も騒動を起こしているナイジェリア代表を心配する必要はなし。ウタカ自身も通算9キャップを獲得したA代表で指導を受けたこともあるサムソン・シアシア監督の手腕に全幅の信頼を寄せながら、日本時間18日午前4時にキックオフを迎えるドイツとの準決勝に勝利することを信じている。そして母国の快進撃は、「コレクティブにプレーする広島こそ、僕がずっと探し求めてきたチーム」と公言してはばからないウタカの心と体に、さらなるスパートを掛けるためのエネルギーを注いでくれるはずだ。

文=藤江直人

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最終更新:8/15(月) 18:15

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