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会社は“何のため”にあるのか

ITmedia ビジネスオンライン 8月16日(火)6時40分配信

 日本は既に少子高齢化の時代に突入しており、国内マーケットは今後ますます小さくなっていきます。それで海外に出ていく企業も多いのですが、海外でも国内と同じような競争にさらされている。インドや中国にマーケットを伸ばそうとすれば、そこに設備投資もしなければならないし、人員も確保しなければなりません。そしてまた弱肉強食の、生き馬の眼を抜くような過酷な競争を繰り返しているのです。

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 うまくいく場合もあれば、国内よりももっと激しい競争になって、早々に撤退を余儀なくされている企業もあります。どちらにしても、こういうことを繰り返すだけでは、疲弊し、やがて行き詰まり、働く人が決して幸せにはなれないだろうことは目に見えています。

 そもそも、会社はなんのためにあるのか。それは、経営者もそこで働く人たちも、お互いが幸せになるためにあるはずです。さらに言えば、企業はそれぞれの役割りにおいて、社会を幸せにするからこそ存在する意義があるはずです。

 18世紀半ばから19世紀の産業革命を経て、20世紀の世界は人類史上かつてなかった大きな繁栄を遂げました。しかし結果としてそこに生じているのは「競争のための人間」「企業の利益のための人間」「社会のための人間」という姿です。いつしか人が“目的”ではなく“手段”になっているのです。それがどれほど殺伐荒涼とした光景を作り出しているか、今さら説明するまでもないでしょう。

 企業とは本来、そこで働く人、顧客、取引先はもちろん、広く社会のための公共的な存在のはずです。経営者だけのためのものでも、株主だけのためのものでもありません。

 2010年代も後半に入った今、企業の在り方、社会の在り方も、“競争の中で生き残る”ためではなく“社員と会社がお互いに幸せである状況”を作っていくため、と根本的に転換するべき段階を迎えていると思います。

 人が経済活動の手段になっている本末転倒を脱出し、「幸せのための働き方」「人のための企業」「人のための社会」という、本来あるべき形に転換していくことが、21世紀の新しい社会の在り方であり、「企業の在り方」だと私は思っているのです。

●ブランドとは「人を幸せにする存在」

 そのためには、その会社が持っている本来の役割り、言葉を変えれば“使命”にもう一度目を向け、そこを明らかにし、磨いていくことが必要です。何のために自分たちの会社は存在しているのか。この原点を磨きあげていくことを幸せだと考えられる会社に変わっていかなければならない。

 さもなければ、常に目の前の利益という数字だけを追い、その数字の獲れない事業は切り離すとか、人員をリストラするということを繰り返すしかなくなります。競争に敗れれば倒産するほかありません。

 実際、かつて一世を風靡(ふうび)し、若者たちに憧れられ、世界から尊敬されていたような企業が、そうした厳しい状況に陥っている事例も少なくありません。私がブランディングの仕事を請け負う際に、「“御社らしさ”って何ですか?」とお聞きするのは、このためなのです。

 自分たちの会社が世の中で果たさなければならないことは何なのか。自分たちの会社にしかできないことは何なのか。企業にとっての“自分らしさ”とは何なのか。その「独自性」を発見していく。

 ブランドという考え方も、従来のように差別化や識別性という側面よりも、本来は“独自性の追求”が大切だと思うのです。内部にある独自性をどう力あるものにしていくか、という発想に変えていくべきなのです。そこが見えてくると、「ああそうか、うちの会社がやらなければならないことはこれだな」と気付きます。

 すると当然、経営者自身も、あるいは従業員自身も、「自分が、会社の中で担っていかなければならないことはこれだな」と、今度は自分の役割りに引き当てて自覚することもできる。会社の使命を明確に磨きあげていくことは、即、そこに関わる人々の使命の自覚にも通じていくのです。

 つまり「ブランド」とは、“人を幸せにする存在”なのです。単に商標やデザイン、商品といったものの名称ではなく、人々の心に何を生み出すのかというところにこそ「ブランド」の本質があると私は思っています。関わるあらゆる人々に、幸せになってもらってこそ、「ブランド」なのです。そのブランドを享受する側の人だけでなく、提供する側にとっても“幸せにする存在”が、ブランドになり得るのです。

 それが、私が語ろうとしている「ブランド」であり「ブランディング」です。

●選ばれるブランドになる

 ところで、私たちが日常的に行っている「商品を買う」という行為、また、いくつかの選択肢から「商品を選ぶ」という行為は、どういう行為なのか。ここで改めて考えてみたいと思います。

 お金を出して何かを買うという行為は、あえて言えば「将来、自分の身に訪れる幸せな時間への投資」です。つまり、自動販売機にお金を入れてドリンクを買うのは、何十秒か後にのどを潤してリフレッシュする時のための投資であり、車を購入するのは数週間後に訪れる便利な生活への投資ということが言えます。

 食材を買うのも、本を買うのも、音楽をダウンロードするのも、家を購入するのも、お金を払って「商品を買う」というのは、それが数分後か数時間後か、はたまた数年後に訪れる「幸せな時間」のための先行投資をしている行為なのです。

 それでは、幾つかある選択肢の中から一つの「商品を選ぶ」という行為は、どのようなことでしょう。それは、その選択肢の中から、「自分が最も幸せになれそうなものを決める」という行為だと考えられます。

 例えば、ペットボトルの飲料水を買おうとしたとき、同じ内容量で同じ価格の「水」が3種類、並んでいたとします。3種類はそれぞれ別のメーカーのものだとして、あなたはその中から1つを選択するわけです。なぜ、その商品を選んだのか。3つの中で一番幸せな気分になれそうだからその商品を選んだ、ということになると思います。

 では、どういったことから「最も幸せになれそう」と、私たちは判断しているのでしょう。それは、「過去の経験」です。過去に幸せな気分にしてくれた経験が、その商品を選ぶという行為にさせているのです。その「過去の経験」とは、同じ商品を過去に利用した経験や、そのメーカーが出している他の商品を利用した経験、または、その商品の広告を通じて受けた印象などです。あるいは商品を購入する直近の“経験”で言えば、パッケージを見た印象ということも、それにあたるでしょう。

 いずれにしても、私たちは「過去の経験」を通して、幸せな気分をもたらした商品やその企業の商品を選ぶ行為をしているのです。

 そうした観点からも、ブランドとは“人を幸せにする存在”ということが出来ます。

誰からも選ばれない存在になってしまったら、それはブランドとは言えなくなってしまいます。

 ただし一方で、幸せを感じるポイントは人によって異なります。ある人にとってはAという商品が幸せを感じる。別の人にとってはBの商品に幸せを感じる。論理的には100%の支持を受けるブランドになることを目指しても、それは不可能です。むしろ1人でも多くの人に「幸せ」を実感していただき、できるだけ多くの人に喜んでもらえるブランドを目指すべきでしょう。

●「誇り」と「愛着」を生み出すインナーブランディング

 事業が継続的に発展し続けるための原動力とは何か。それは、経営者そして社員が抱く自社への「誇り」と「愛着」です。気合いを入れるとか、やる気を出すとかいう、曖昧な精神論ではなく、「誇り」と「愛着」から生まれる内発的なモチベーションです。

 この具体的実践が、私が本連載で語ろうとしている「インナーブランディング」なのです。

 前述したように、人が何かを買うというのは、それによって幸せになれる、あるいは幸せになれそうな気がするから行う行為です。過去とは比べものにならないほど情報が氾濫する時代になって、今や人々は情報を探すことよりも遮断していくことにウエイトを置いています。

 そこで人々のアンテナが向くようになってきた先は、心の機微だと私は思っています。単により多くのモノ、より新しいモノを所有したがってきた時代は終わり、自分を「幸せ」にしてくれるモノやコトに、人々の関心は向かっています。

 その人々を幸せにする商品を世の中に出すためには、その商品に関わっている人、その会社で働いている人が幸せを実感できていなければなりません。作っている人、売っている人、送り出している側の人が幸福でなくて、それを買う人が幸福になれるはずがないのです。

 「インナーブランディング」という言葉そのものは、「アウターブランディング」の対義語として一般的にも使われ始めています。ただ私は、その画竜点睛(がりょうてんせい)を決めるものとして「幸福感」ということを定義しています。ここが抜け落ちてしまうと、なんのための企業なのかが分からなくなってしまうからです。

 他との差別化を図るといったようなブランディングではない。その企業や地域に内在する「独自性(=らしさ)」を発見し、その「独自性」をすべての事業活動を貫く基軸にしていくこと。これこそが事業の持続的な発展につながるのです。

 そのために具体的にどのような取り組みをしていくべきなのか。次回以降、これを詳しく説明していきたいと思います。「インナーブランディング」こそがブランディングの本質であり、新しい時代の“人と社会の幸福”に直結することを、本連載で明らかにしていきます。その作業なくしては、売れる商品は生まれないのです。

最終更新:8月16日(火)6時40分

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