ここから本文です

誰かの明日を1ミリ良くしたい まげひらさん(下)

琉球新報 8月16日(火)12時0分配信

 登校拒否気味だった小学校、中学校時代、まげひらさんの心に刺さったのは、「仮面ライダーZO」とDragon Ashの曲でした。その後、映像作品を作ったり、歌を歌ったり、さまざまな表現活動で沸き起こるものを発信してきました。さて、それがどうして「ちょんまげ」という形になったのでしょう?

(まげひらさんの「誰かの明日を1ミリ良くしたい」インタビュー上はこちら)
(まげひらさんの「誰かの明日を1ミリ良くしたい」インタビュー中はこちら)



あなたの明日を「1ミリ」良くしたい

-なぜ今年1月からちょんまげになったんですか。進化の果てに?

 はい、進化の果てに。僕は映像が作りたいわけでも、広告媒体が作りたいわけでもない。僕は表現を通して、僕じゃない「誰か」の「明日」や「次」を1ミリ、良くしたい。その誰かは、僕が愛情を持って接する人でも赤の他人でもいい。そんな思いが明確に言語になったのが今年の1月だったんです。たった1ミリでいい。それが伸びてくると、その人の人生において、影響のある角度に広がっていくかもしれない。

 実際、ちょんまげになって、いろいろな人の声や言葉が聞こえてきます。これまで交わることがなかった外国の方々や、スーパーで目の前を通り過ぎていたおじいさんと話ができるんです。「珍しいね」というところから話が始まるんですけど、最終的に「日本人だし、面白いですよね」と伝えると「面白いよね」という共感をもらえる。すごくありがたい。

 

-「見える」「可視化」は大事だと思います。まげひらさんがちょんまげでなかったら、こういうふうにインタビューするきっかけもなかった。

 僕も大事だと思います。例えば、沖縄はインバウンド(外国人の訪日旅行)の方々への対応策がとれていないと思います。もちろん、「沖縄」を主体に売り出したいというのは分かりますが、たぶん、台湾や中国、韓国から来たお客さまたちは「憧れの日本」と思って来ていて、もう存在しないと知っているかもしれない「チョンマゲ」や「サムライ」がいると、それだけでエンターテインメントになる。

 空港で僕がちょんまげに和服でいると、とんでもないことになります。遠くからでもカシャカシャカシャと写真を写している音が聞こえます。国際通りを歩いていると、信号待ちの道の向こうから台湾や中国のお客さんがカメラを準備している。すると、国際通りのただの赤信号が、一気に「JAPAN」になるわけですよ。

 



「ちょんまげ」は表現の1チャネル

-それが旅の風景に刻まれるわけですね。

 そうです。それだけでなく、沖縄県内にいる人にとっても、ちょんまげはなじみがないので、目の前にうろうろしていると、それだけでハッとします。女子高生に後ろからとんとんと肩をたたかれ、振り向いたらカシャっと写真を撮られたこともあります。朝、会社の近くを掃除していると、写真を撮られて誰かのSNSにアップされていたり。僕自身、心の底から楽しいです(笑)

-その表現は、自分の中から湧き出るものを出したい、というだけではなく、「誰かの『明日』を1ミリでいいから良くしたい」という思いがある。その思いはどこから来たんでしょうか。

 僕自身が、救われたからです。仮面ライダーZOとDragonAshに。誰かの明日が1ミリ良くなるといい。1ミリくらいがちょうどいい。その根幹には僕を1ミリ変えたスーパーヒーローと音楽がある。そんな感じです。

-自分自身が救われたから、今度は誰かを救う側になりたい、ということでしょうか。

 そんな大それたことではないです。だって、Dragon Ashは歌ったけど、僕が1ミリ良くなったかどうかなんて彼らは全く知らない。中学の時に聴いた「静かな日々の階段を」の歌詞で、「夢へのピンチランナー」という言葉があるんです。当たり前だけど、僕は僕しかいなくて、僕のピンチランナーはいない。これっていつも僕も考えていて、難しいなと感じていたんですけど、それをどこかで同じように考えて表現している人がいると思った時に、僕は多分、1ミリ救われたんです。そして時を経て、今「まげを結う」ということを決めている僕がいる。

 



祖父の着物が「タイムスリップ」

 仮面ライダーZOも、制作側からすれば理想のヒーロー像を作っただけ。でもそれが幼少期の誰かの心に刺さって、僕みたいに大人になってもずっとヒーローに憧れているアラサーがいるわけです。そんなふうに、僕も、どこの誰とも知らない人が1ミリ良くなることをしたい。その表現の1チャネルとして「ちょんまげ」があるんです。

 実は、祖父の30年前の着流しを今、僕が着ています。じいちゃんが両親の結婚記念にプレゼントと思って作ったけど渡しそびれていた着物。それを、僕が1月から、ちょんまげをやってることで思い出して、まだ誰も着たことのないこの着物がタイムスリップして僕が着ることになりました。すごいですよね。着ると凛とした気持ちになります。僕はじいちゃんの初孫で、幼少期にじいちゃんの膝に座ってテレビを見ていたり、宇宙図鑑を買ってもらったり、じいちゃんとの記憶の断片がぽんとよみがえる。そういうのって温かいですよね。

-いろいろなことがつながって今になるんですね。最後に一言、メッセージを。

 いつか僕を思い出しながらクスッと思い出し笑いしてほしい。やな1日だったらちょっぴりマシな1日になってほしいし、良い1日だったら、最高の1日になってほしい。僕がちょんまげであることも、歌うことも、映像やあらゆる何かをつくることも、司会をすることも、将来、商売をする事(珍肉屋、アイスクリン屋さん、八百屋さん)もぜーんぶ自己表現の方法。表現をすることで、誰かの記憶の中に笑いとセットで、一生あり続けたいという、強い願望から来てる気がする今日この頃です。誰かが笑ってくれるって本当に幸せ。その願望と、社会的モラルや常識の間でいつも、たじろぐし、うろたえています(笑)

(聞き手・座波幸代)




まげひらさん(本名:前平雄一朗)

 1987年11月16日生まれの28歳。沖縄県那覇市出身。松川小→真和志中→首里東高校→インターナショナルデザインアカデミー(IDA)卒。那覇のローカルダウンタウン「栄町」で、祖母の代から続く八百屋を営む家の長男として生まれ育つ。身長165センチ、体重62キロ。A型。特技:即興ソング、即興ダンス、即興演劇、テレビCM制作、DA PUMPのような何か。資格:普通自動車運転免許

 

琉球新報社

最終更新:8月16日(火)12時0分

琉球新報