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2度の休止を乗り越えた「サガミオリジナル001」 相模ゴム工業が販売再開後に目指すビジョンは?

ITmedia ビジネスオンライン 8月16日(火)6時10分配信

 約1年間の休止期間を経て、6月に販売を再開した「サガミオリジナル001(ゼロゼロワン)」(以下「001」)。サガミオリジナルシリーズはゴムではなくポリウレタンを初めて使った薄物コンドームで、発売以降多くの消費者に支持されてきた。

【サガミオリジナルのシリーズ展開はこちら】

 しかしサガミオリジナルが歩んだ道のりは平たんなものではなかった。「001」はいかにして生まれたのか? 再開から2カ月、どういった状況にあるのか? 相模ゴム工業のヘルスケア事業部営業企画室室長の山下博司さんに話を聞いた。

●業界に衝撃を与えた「サガミオリジナル」

 「サガミオリジナル」を使ったことはなくても、ドラッグストアやコンビニでパッケージを見たことがある人は多いのではないだろうか。白い箱にはっきりと刻まれた「sagami original」「0.01」「0.02」の文字。パッケージによっては「人生が変わる!0.02ミリ」「幸福の0.01ミリ」といった言葉が並ぶ。

 通常、コンドームと言えばゴム(ラテックス)製が一般的だった。しかしゴムには強度の限界があり、薄さ0.03ミリメートルの壁を超えるのが今の技術力では極めて難しいとされていた。そこで注目されたのが、相模の標準的なゴム製コンドームに比べ3倍以上の強度があるポリウレタン。ポリウレタン製のコンドームなら“0.03の壁”を超えられる――。

 そして1998年、「サガミオリジナル」が生まれた。ゴムに比べ伸縮性はやや劣るが、コンドームでは最薄レベルの0.03ミリメートル台の皮膜を実現させた。

 「ポリウレタン製のコンドームの魅力は、薄さだけではない。ゴムアレルギーの方も使えるし、熱伝導性に優れているので肌のぬくもりをより感じることができる」(山下さん)

 開発の初期段階に目標としていたのは“0.03ミリ超え”。2005年には当時国内最薄の0.028ミリメートルを実現し、「サガミオリジナル002(ゼロゼロツー)」として発売。消費者の心と下半身をガッチリつかみ、“薄物コンドームメーカー”としての地位を築き上げた。11年にはさらに技術を進化させ、0.024ミリメートルに。

 「このころには社内に『目指せ0.01ミリ!』という気概が生まれていました」

 そして13年11月、“0.03ミリの壁”どころか“0.02ミリの壁”も超えた、“0.01ミリ台のコンドーム(薄さ0.018ミリメートル)”が誕生した。既存の「サガミオリジナル002」は残したまま、「001」として発売したのだ。

●1度目の誤算、2度目の誤算

 悲願を達成したものの、社内では懸念する声も上がっていた。「消費者に0.02と0.01の違いが分かるのだろうか」。需要が読み切れなかったこともあり、試験的に東京都と一部Webサイトで限定発売した。そこでの売れ行きを見ながら全国展開をしていく予定だったが……ここで1つ大きな誤算があった。想定していた以上の需要があり、生産が追い付かない状態になってしまったのだ。

 本格的に生産をするべく、14年5月に一時販売終了。国内の需要を読み、万全に準備できる増産体制を整えて、同年9月に全国で発売した。

 国内におけるコンドーム消費者多くは20代から30代。1998年の発売当初コンドームの中では定価1000円(6個入り)と高額なため、「もっと上の世代が買うのではないか」と考えていたが、若い層に支持され、またリピート率も高かった。

 「パッケージが“いかにもコンドーム”ではなかったので、清潔感があって手に取りやすかったのではないか。また、ゴムの匂いが苦手な女性からも好評をもらい、『パートナーのためにサガミオリジナルを』と購入してくれた方も多い」

 クラブイベントやコラボなども行い、「サガミオリジナル」ブランドの構築に成功し始めた相模ゴム工業。……しかしこの「001」にはもう1つの誤算がやってくる。国内需要はしっかり読んでいたものの、国外からの需要が爆発的に伸びてしまったのだ。

 15年の流行語にもなった“爆買い”。外国人訪日客、とりわけ中国人訪日客が、ドラッグストアや家電量販店、百貨店で大量に買い物を始めたのだ。サガミオリジナルのとりわけ「001」は、口コミで「オススメだ」と広がっていた。

 中国人訪日客は「001」のどこに魅力を感じていたのだろうか。その理由について山下さんは「日本製の安心感は大きい。そして中国ではまだ0.01ミリメートルのコンドームを作る技術力がなかったので、心を引かれたのでは」と推測する。

 ちなみに値段は日本では定価1200円。現在「001」の海外展開はしていないという。「002」はスタンダード3個入り52元(約800円)、Lサイズ4個入りが68元(約1040円)だが、「中国でも数が足りていない割高な002より、日本で買う001のほうがいい」と考えもあったのだろう。

 もともと空港に置かれていたりと“おみやげ需要”は存在していた日本製コンドーム。しかし、大阪のマツモトキヨシで月に1000箱売れるような今までにない購買力を秘めていたとは、さすがに予想ができていなかった。

 コンドームは1つの店で月に5箱以上売れればヒット商品といわれる。それが200倍売れるとなれば、売り切れ店舗は続出する。品薄状態が続き、作っても作っても追いつかない。

 「『002』と『001』は同じ製造ラインで作っている。このままでは、『002』の製造にも大きな影響が及んでしまう。『001』の製造工程を見直しながら、『002』を生産し続けることは難しかった」

 苦渋の決断を迫られた結果、「001」の2度目の販売休止に踏み切ったのだった。

●販売再開、消費者の反応は?

 それから1年。その1年の間に、コンドームを巡る“戦場”の状況は変化していた。販売休止のタイミングは、ライバル企業であるオカモトも薄物コンドームを売り始めた2カ月後。相模ゴム工業が生産体制を整えている間に、オカモトが“0.01ミリの首位”に立っていた。

 販売再開にはもちろん、「これ以上独占状態にしておくわけにはいかない」という経営判断もあっただろう。しかしそれとは別に、「コンドーム会社として、『性病予防』『避妊』を必要としている層に行き届かせるという社会的責任がある」という思いが強かったのだと山下さんは語る。

 「社会的責任ってどういうこと?」と思う人もいるかもしれないので、もう少し詳しくご説明しよう。

 日本コンドーム工業会で記録されている業界全体のコンドーム出荷量は、ベビーブームのときは400万グロス(1グロス144個)。そこから右肩下がりになっていって、2012年には250万グロスとなる。少子高齢化、セックスレス……業界には大逆風が吹いていた。

 しかし13年、260万グロスに回復。14年には270万グロスと、引き続き回復傾向にある。復調の原因として考えられるのは、「001」を筆頭とする薄物コンドームだ。

 「この増加は、コンドームを付けたがらない人、使わない人を『0.01ミリメートルだったら』と引きずり込めたことにある」

 その分、望まない妊娠や性病リスクに苦しむ人も減ったと考えれば、「コンドーム会社に社会的責任がある」という山下さんの言葉も分かるのではないだろうか。設備を増強し、「002」「001」合わせて以前の1.5倍になったタイミングで販売を再開。現在はこれまで仕入れていた店舗を中心に納品し、数量を制限して対応しつつ、販路の規模を休止以前に戻している段階だ。

 「インバウンドの爆買いは永遠に続かない。それに踊らされて設備を急激に増設はしない。取引のある店舗や、買ってくれる消費者を大切に展開し、生産に次ぐ生産で品薄状態を解消していくので、温かい目で見守ってほしい」

 1年間の空白があったが、初動としては好調の滑り出し。「待っていたよ!」「002を使っていた」「002でも意外と悪くないかも……」といったさまざまな声が聞こえてくるそうだ。ドラッグストアからは「リピート率が高い」「ニーズがある」との報告を受けるという。

 「再開して2カ月なので、まだ反応をとらえきってはいない。休止前のデータとも比べながら、長い目で反応や売り上げを見ていきたい」

●相模ゴム工業の“次の一手”

 今は“サガミオリジナルブランド”の立て直しに全力を出している相模ゴム工業。現在の品薄状態が落ち着いた時、“次の一手”は何を考えているのだろうか。

 「『001』が『002』のニーズを“食ってしまう”のではなく、“普段使いの002”“特別な日の001”のように、共生するブランド作りをしていきたい。サガミオリジナルブランドを大きくしていければと考えている」

 相模ゴム工業は売り上げの7割がヘルスケ事業。残り3割をプラスチック事業や介護事業などが占める。「3割部分を伸ばしつつ、新規事業を立ち上げたい」と山下さんは語る。

 そして大きな課題と考えているのが、ポリウレタン製コンドーム以外の分野だ。社名にも冠する“ゴム”コンドームが、全体的に低調傾向にある。現在、市場の48%が薄物コンドーム(ポリウレタンや合成樹脂などの新素材)で、ゴムという素材自体の訴求力が弱くなっていることや、「安いコンドーム」よりも「高いけど良いコンドーム」の方が支持されていることが要因なのだという。

 「定期的に新製品を出して、中ヒット、大ヒットを狙っていく。正直なところ、ゴム製のコンドームは出尽くされていて新しいアイデアが出にくいが、いいアイデアを出して、今秋、来春にはそれぞれ新商品を出す予定」

 コンドームの強力なトレンドは“薄い”だが、それ以外にも“女性目線”“分厚くて長持ちする”“ブランドとのコラボ”などの選択肢もある。そちらの方面に強化していくのか、それとも全く違うものが出てくるのか――それは今後に期待したい。

最終更新:8月16日(火)6時10分

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