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生活と体験がクロスする――ZからXに生まれ変わった「Xperia X Performance」開発秘話

ITmedia Mobile 8月16日(火)16時2分配信

 2013年からZシリーズを提供してきたソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia」が、2016年夏モデルでは「X」シリーズにリニューアルした。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクから発売された「Xperia X Performance」は、ソニーが培ったディスプレイ、カメラ、オーディオの技術は継承しつつ、本体の持ちやすさや使い勝手にこだわったモデルだ。プロセッサはQualcommの最新製品「Snapdragon 820」を採用し、バッテリーの寿命を従来機から向上させるなど、製品名が示す通りパフォーマンスも重視した。

【日本モデルのみ背面のデザインが……】

 Xperia X Performanceはどのようなコンセプトの元に開発されたのか。「X」に込めた意味とは? 商品企画担当の矢部氏、デザイン担当の植田氏、カメラ設計担当の生江氏、ディスプレイ設計担当の内田氏に話を聞いた。

●背面素材をガラスから金属に変更した理由

 ZシリーズからXシリーズに変更した意図について、矢部氏は「スマートフォンがさまざまな人の手に取ってもらうようになった中で、どんな製品が支持されるのかを検討しました。『X』はXperiaの頭文字でもあり、人々の生活に寄り添い、生活と体験がクロスすることを表します」と説明する。

 この生活と体験がクロスするものの象徴として「インテリジェンス」を加えた。機械自体が知能を持ってユーザーに利便性をもたらすもので、分かりやすい例では、iPhoneの「Siri」やGoogleの「Google Now」のようなサービスが思い浮かぶ。端末メーカーでは、スマホが話しかけてさまざまな提案をしてくれる「エモパー」をシャープが提供している。

 いわゆる「AI」と呼ばれるジャンルの中で、ソニーモバイルが具現化したのは上記のようなエージェント機能ではなく、カメラの「先読みAF」というピンポイントの機能強化だ。「AIをやろうというよりは、スマートフォンとして、より賢く寄り添うことが、インテリジェンスの考え」と矢部氏は話し、スマホの機能をより賢く進化させることに焦点を当てた。

 Zシリーズでは一貫して「ガラス」を採用してきた背面の素材を「金属」に変更したのも、「人々の生活に寄り添うこと」を重視した結果だ。「スマートフォンは家電というよりアクセサリーと呼べるもので、生活になじんでいます。メタルの質感はスーツや時計にも合います」と矢部氏は説明する。

 画面サイズが、Xperia Z1から続けてきた5.2型から5.0型に小さくなったのも気になるところだ。「スマートフォンの形やデザインについて大規模な調査を行い、さまざまなサイズを検討する中で、このサイズ(5.0型)が自信を持って出せるものでした」と矢部氏。最初から5.0というサイズに決めていたわけではなく、さまざまなモックアップを作りながら「日常的に使うスマートフォンの持ちやすさ」を検討したところ、結果的に5.0型がベストと判断した。

 5.2型に慣れたユーザーにとっては物足りない感もあるが、「持ちやすさはご好評いただいている」(矢部氏)という。「手にすると、『こんなに持ちやすいんだ』と言われます。画面サイズが5.0か5.2かをご存じないお客さまは、あまり違いを感じないようです。持ちやすさに注力したことが響いているのだと思います」(同氏)

●白と黒以外にも前面を加色できるようになった秘密

 Xperia Zシリーズのデザインは、縦と横のどの方向からも美しく持ちやすい「オムニバランスデザイン」を採用してきた。Xperia X Performanceでもその方向性は大きく変えていないが、Zシリーズよりも丸みを帯びている。

 植田氏は「Zシリーズまではハードウェア自体の質感やモノを主体としたデザインでしたが、Xシリーズからは、生活になじむ、寄り添った表現をしています。その現れが、背面のメタルから2.5Dガラスに向けてのカーブ、質感の切り替わりです」と説明する。ソニーモバイルは今回のデザインを「ユニファイドデザイン(統合されたデザイン)」と呼ぶ。

 もう1つ大きく変更したのが、ライムゴールドとローズゴールドでもディスプレイ面を加色して、背面と前面でカラーを統一したことだ。さらに、各本体色に合わせた壁紙も用意し、「デフォルトの輝度だと、(本体と画面で)より一体感が出るようにした」(植田氏)。

 白と黒以外にも加色できるようになったのは、ディスプレイの構造に秘密がある。内田氏は「これまでのディスプレイは、ガラス+液晶パネルの2層構造で、ガラスにタッチパネルを付けていました。今回は、液晶パネルの中にタッチパネルを入れた『インセルタッチパネル』を採用しました。タッチパネルを搭載するためには熱が必要ですが、白と黒以外で高熱に耐えられるインクがありません。しかし今回、外側はタッチパネルの機能を持たない単なるガラスなので、加色の自由度が増しました」と話す。

 前面にはラウンドした2.5Dガラスを採用したことで柔らかい印象になった一方で、本体を落としたときにガラスが割れやすくなることが懸念される。矢部氏によると、Xperia Z5よりもガラスの厚みは増しており、強度が上がっているという。「落としても割れないとはいえませんが、満足いただけるレベルです」(同氏)

 これまでのXperiaでは見られなかったライムゴールドとローズゴールドを採用したのは、「今はゴールドが定番色になりつつありますが、他社がやっている色をそのままやっても仕方ないので、ソニーらしさを加えたい」(植田氏)と考えた結果だ。「ライムゴールドは金属感をより美しく見せるために最適な色。ローズゴールドは、ゴールドに赤みを加えた色で、よりエレガントさを表現しました」(同氏)

 カラーによって背面の処理を変え、ホワイトとグラファイトブラックはヘアライン加工を、ライムゴールドとローズゴールドにはサンドブラスト加工を施した。「ホワイトにヘアラインを入れるかどうかは悩みました。ヘアラインは男性寄りだと認識していましたが、意外と女性からの評判がよかったんです」と植田氏は反響を話す。

●日本モデルだけ“樹脂パーツ”が入った理由

 日本で発売されているXperia X Performanceには、背面の下部にグローバルモデルにはない樹脂が加えられているが、これは通信品質を重視した結果だという。金属素材は端末内部のアンテナとの電波干渉を引き起こす要因になるので、通信品質の面では不利になる。素材1つで実効速度に大きな影響が出るのだろう。

 「日本は世界でも類を見ないほど通信環境が良く、お客さまが求める通信に対するニーズが強い。その中でキャリア様とどれぐらいのスピード感を目指すかを話し合った結果、このようなデザインにしました」(矢部氏)

 樹脂パーツを入れたのは日本版のみ。となると、グローバルモデルは通信品質が劣るのか? といううがった見方もできるが、「海外版の通信品質が劣るわけではありません。通信がつながる/つながらないは、本体の能力や電波環境など、さまざまな要因があるので、その地域で使っていただくうえで、日本の電波方式に最適化したということです」と矢部氏は補足する。

 例えばドコモでは「PREMIUM 4G」として、理論値で下り最大375MbpsものLTEに対応しているが、この速度にできるだけ近づけたいと考えたのだろう。では日本版のXperia X Performanceがフルメタルになったら、どうなってしまうのか? 矢部氏は「日常的に動画サービスなど見られない、といったことはありませんが、通信速度が上がっているキャリア様の水準をクリアする上で、通信に力を入れました」とのことだった。

 樹脂が入ることでデザインが損なわれることは否めないが、同じ商戦期で発売されたAQUOS ZETAやGalaxy S7 edgeなどと比べて、実効速度で差が出ることは避けたかった――という、キャリアとメーカーの思惑もあったのだろう。

●放熱の効率も向上

 Xperia X Performanceという製品名が表す通り、スマホの“パフォーマンス”も向上させた。

 バッテリーの持ちは、米Qnovoと共同開発した充電の最適化技術を導入した結果、Xperia Z2よりも2倍の持ちを実現したという。ここで伸ばしたのは、満充電から0%になるまでの時間ではなく、バッテリーの寿命。「スマートフォンの買い換えサイクルが25~30カ月へと長くなっている」(矢部氏)中で、長寿命化に重きを置いた。

 Xperiaシリーズで毎回気になる「発熱」については、Xperia Z5シリーズではヒートパイプを1本から2本に増やして放熱効率を高めたが、Xperia X Performanceでも同様の処理を施している。加えて、「メタルの方が(ヒートパイプの)伝導率がいいので、熱を逃がす効率はだいぶ改善している」(矢部氏)という。さらに、「Z5でも採用していたグラファイトシートの枚数や面積を増やした」(同氏)ことも、放熱効率を高めた。

 Xperia Z5シリーズから採用した指紋センサーも継承しているが、認証スピードが向上しているという。「Z5と同じセンサーを採用していますが、中のソフトウェアをチューニングしたことで、認証が速くなっています。具体的な数字はありませんが、実際にお客さまの声としても挙がっています」と矢部氏は手応えを話す。指紋センサーの搭載位置を引き続き側面にしたのは「手に持ったときのなじみやすさを重視して、自然な動作でロックを解除できるようにした」(矢部氏)ためだ。

●アウトカメラには先読みAFを追加、インカメラは大きく進化

 Xperia Zシリーズから毎回強化してきたカメラは、Xperia X Performanceでは従来の機能は引き継ぎつつ、アウトカメラで新たに「先読みAF(オートフォーカス)」を搭載した。ソニーのデジタル一眼カメラ「α」の技術をスマホ向けに最適化したもので、画面上でタップした被写体の動きを予測してフォーカスを合わせることができる。動きの激しい子供やペットの撮影に向いている。

 「Z5で世界最速0.03秒の位相差AFを導入しましたが、それでも被写体が動くシーンは苦手です。いくらAFが速くなっても、動きの激しい被写体には合わせられないので、動きを予測するAFを導入しました」と生江氏は話す。

 シャッターボタンを押してから撮影されるまでにタイムラグが起きるが、その間に被写体が動くと、ピントが外れてしまう。そこで、「被写体がどういう軌跡を通ったかをスマートフォンの内部で計算して、シャッターが切られるタイミングでは『ここまで動いている』と予測をして、そこにフォーカスを合わせます」と生江氏は説明する。先読みAFが有効になるのは、最初にピントを合わせた被写体のみで、複数の被写体をトラッキングすることはできない。

 先読みAFは、ピントを合わせた被写体をトラッキングし続ける「オブジェクトトラッキング」と、被写体が通った軌跡をもとにした「深度予測」から成り立っている。何度か撮影をすることで精度が上がるものではなく、最初から有効になる。これらの処理をリアルタイムで行っているので、CPUへの負荷が高まることが懸念されるが、「一部はCPU側で処理、一部はカメラモジュールで処理をしてバランスを取っていて、発熱はほとんど影響がないレベルで演算をしている」(生江氏)とのこと。

 Snapdragon 820だから実現できたというわけではないそうだが、「機種ごとにチューニングをしているので、(Z5などの)既存モデルに、ソフトウェアアップデートで先読みAFに対応させることは難しい」(生江氏)とのこと。

 先読みAFはソフトウェアで実現しており、カメラモジュール自体はXperia Z5シリーズと同じものを採用しているため、アウトカメラの画質はZ5シリーズから大きな変化はないと考えてよさそうだ。

 一方、インカメラはXperia Z5の有効約510万画素から有効約1310万画素へと大きくスペックアップした。インカメラに初めてExmor RS for mobileを採用し、AFも搭載。レンズの焦点距離はZ5の25mmから22mmになって、より広範囲を写せるようになった。Xperia Z5よりも2.6倍大きい1/3型のセンサーを採用したことで光を取り込む量が増え、「暗いところでもノイズが少ないように処理を加えた」(生江氏)という。さすがに「Gレンズ」は採用していないが、ミッドレンジのXperiaのアウトカメラと同等のスペックを実現した。

 「世界中を見ても、セルフィー(自分撮り)の文化は強くなっていて、国内でも自身を撮るケースが増えています。広角にしたのは友達と一緒に広く撮るケースが増えてきているので、人に頼まなくても自分たちで記念撮影ができます」と矢部氏は新インカメラのメリットを説明する。

 順当に機能アップを果たしたXperia X Performanceのカメラだが、Xperia Z2から搭載してきた「4K動画の撮影機能」は省かれた。「今までやっていた・やっていなかったかではなくて、さまざまな機能の中で、何が広くニーズがあるかを考えました。今後4K撮影機能を搭載しないというわけではなく、Xperia X Performanceのターゲットに合わなかったためです」と矢部氏は説明する。

●コントラストと緑の再現性をアップ

 あまり大きく訴求されていないが、Xperia X PerformanceではディスプレイもXperia Z5比で改善されている。

 ソニー製品全体として、「高コントラスト」「広色域」「高解像度」を画作りの指標としているが、Xperia X Performanceではコントラストと色域を向上させた。

 コントラストでは、黒の締まりが良くなり、斜めからでもより鮮明に表示できるようになった。「ソフト的にも、花火の動画などで、よりコントラスト感を強める処理をやっています」と内田氏。液晶パネルを改善したことでコントラストアップを実現したという。

 色域については、赤青緑のなかで、特に緑をXperia Z5よりも再現できるようにした。「今まで赤と青は十分に表現できていましたが、緑はどうしても(目指す色を)表現できていませんでした」と内田氏。赤と青はZ5と同じ画質で、人肌についてはあえて変えず、実際の色を忠実に出すようにしている。

 2015年冬モデルでは、4K(2160×3840ピクセル)ディスプレイを搭載した「Xperia Z5 Premium」が話題を集めたが、Xperia X Performanceのディスプレイ解像度はフルHD(1080×1920ピクセル)。矢部氏によると、「Xperia Z5 Premiumは併売しているので、引き続き4Kも訴求していきます。今回は商品性を考えて4Kは見送りました」とのことで、4Kをやめるわけではないようだ。

 新シリーズにリニューアルしたXperia X Performanceは、飛び抜けた機能はないが、誰もが安心して使える一台に仕上がっている。一方、デザインの基本路線や、カメラ・オーディオ・ディスプレイなどの主要機能はZシリーズを継承しており、「Xならではの味付け」はこれからといった印象を受けた。

 現状、Xperia Zシリーズの後継モデルを発売する予定はなく、引き続きXシリーズで勝負をする形となる。カメラの先読みAFをはじめとする「インテリジェント」で、どこまでソニーモバイルらしさを出していけるかが差別化のカギを握りそうだ。

最終更新:8月17日(水)11時34分

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