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築33年マンションの挑戦[前編] 3つのマンションが街を変える

SUUMOジャーナル 8月16日(火)7時30分配信

「アルファ米のおにぎりはいかがですか~」
「おいしい豚汁ができてますよ~」
マンションの広場にずらりと並んだテントから、元気のいい声が響く。芝生のスペースには流しそうめんが出ていたり、ピロティでは缶詰を使った料理教室やジオラマづくりのワークショップが行われていたり。子どもも大人もみんな楽しそうだ。
これは、今年6月に神奈川県川崎市にあるパークシティ溝の口の敷地で開催された「炊き出しフェス」の一コマ。楽しみながら防災に対する意識を高めようと開催されたイベントだ。よくある防災訓練とは趣向を変えた企画自体珍しいが、加えて画期的なのは主催が同じ地域にある3つのマンションということだ。しかも、運営メンバーには管理組合の理事や自治会の役員といった肩書きをもたない有志も多数。一体、溝の口のマンションではなにが起きているのだろうか。

【画像1】6月の日曜日に、パークシティ溝の口で開催された「炊き出しフェス」は、楽しみながら防災意識を高めようと企画。同じ高津区久本にある、ザ・タワー&パークス田園都市溝の口とメイフェアパークス溝の口の自治会や有志も参加しての物件合同イベントだ(写真撮影/上島寿子)

【画像2】ザ・タワー&パークス田園都市溝の口の自治会は、アルファ米のおにぎりをふりかけで熊本風にアレンジ。まさにマンションの垣根を越えたイベントだ(写真撮影/上島寿子)

【画像3】メイフェアパークス溝の口の自治会青年部は流しそうめんを企画。子どもはもちろん、お年寄りからも大好評だった(写真撮影/上島寿子)

■住民の高齢化に直面して、同じ地域のマンションとの連携を発案

「炊き出しフェス」を開催したのは、パークシティ溝の口、ザ・タワー&パークス田園都市溝の口、メイフェアパークス溝の口の3物件。いずれも総戸数500戸を超える大規模物件だ。
この3つのマンションが連携してイベントを開くようになったのは2年前。最初に声を上げたのは、当時、パークシティ溝の口管理組合の理事をしていた山本美賢さんだった。

「うちのマンションが竣工されたのは1983年。築30年以上経って、住民の高齢化が問題になっていました。総戸数1000戸を超えるのに、小学生は約60人程度。60代以上が約8割を占め、イベントを開いても、盛り上がりは今ひとつでした」
そこで山本さんが目を向けたのは、同じ地域にある2つの大規模物件だった。居住者の年齢層は、築16年のメイフェアパークス溝の口の場合、40~50代の働き盛りが中心。ザ・タワー&パークス田園都市溝の口は築10年と築年数が浅いこともあり、30~40代の子育て世代がメインだ。3物件が連携すれば、さまざまな年代がそろうことになる。

「それまでもイベントで使う道具の貸し借りはしていましたし、小学校の学区が同じで保護者同士のつながりもあった。そこから交流を深めていこうと考えました。3物件でイベントを合同で開催すれば、子ども参加も期待できますし、30年間で培ったノウハウを伝えることもできます。それぞれにメリットがあり、連携の提案は大歓迎をしてもらえました」

以来、秋祭り。運動会、餅つきなどのイベントを合同で開催。マンションの垣根を越えた交流が生み出されたのである。

■管理や修繕の情報を共有して価値を守る

3物件が連携するメリットはそれだけにとどまらない。
たとえば、マンションの価値を維持するためには欠かせない、管理や修繕についての知見を共有できる。特に、最も築年が古いパークシティ溝の口の事例は、ほかの2物件にとってなによりも参考になる。よその地域のマンションに学びに行ったときには、報告会を開いて情報を共有するのも慣例となった。

「地域に対する意識が強くなったためか、小学校のPTA 活動に積極的にかかわろうする保護者が増えた印象があります。60周年行事も多くの保護者の協力のもと、盛大に行われました」(山本さん)
合同イベントの開催時には、PTAから備品を貸してもらったり、イベントの告知を学校の掲示板に貼らせてもらったりと、協力体制が整ってきている。

■オープンな雰囲気が有志の参加を引き出す

「合同イベントは公開空地で行うので、マンションの住民以外が立ち寄っていくこともあります。でも、それを規制する気持ちはありません。地域として盛り上がればいいなと思っているので」
事実、山本さんは近隣の小さなマンションにも声をかけ、交流の輪を広げている最中だ。
そんなオープンな雰囲気によるのだろう、管理組合や自治会という枠を超えたイベント協力者が増えている。
先に紹介した「炊き出しフェス」も、主催は3物件の有志で構成された「ご近所マンションイベント実行委員会」。

自治会の役員時代に仲良くなった女性たちが「ぱーく乙女の会」として、熱々の豚汁を提供。備蓄品を使った“ローリングストック料理教室”を開いた「溝の口防災ガールズ」は、3物件のママ友同士のつながりだ。
強制されて嫌々するのではなく、楽しいから進んで参加する。そんな人たちが集まって、マンションだけでなく、街全体を活気づかせるほどの大きなパワーを生み出していきそうだ。

【画像4】パークシティ溝の口の自治会で、役員をしていたつながりから結成された「ぱーく乙女27」。この日はお手製の豚汁をふるまっていた(写真撮影/上島寿子)

【画像5】3つのマンションのママ友が結成した「防災ガールズ」。この日は缶詰など備蓄品を持ち寄って「ローリングストック料理教室」を開催。アイデア満載の備蓄品レシピも配布された(写真撮影/上島寿子)

■災害時には互いに助け合える。だから、暮らしても安心

こうした団結は「災害時にも頼もしい力になる」と山本さんは断言する。実感したのは、今年4月に起きた熊本地震のときだった。
現地で大変な被害が出ていることが分かるや連絡が回り、3つのマンションの住民の間で救援物資を送ろうという話になった。その日のうちには物資が集まりだして、結局、3日間で段ボール箱にしてなんと85箱分の物資を熊本に送ることができた。この迅速な行動には、山本さん自身、目を見張ったそうだ。

「もし、自分たちが住む地域に災害が起こったとしても、ほかのマンションを助けに行ける自信ができたし、逆にほかのマンションから助けてもらえるという安心感も生まれました」
住民が主体となって、マンションをよりよくしていくのはある意味、当たり前。これからはマンション同士の結束で、地域をよりよくして住みたい街へと変えていく。そんな時代になっているのかもしれない。

【画像6】子ども向けのワークショップでは、段ボールを利用してジオラマ地図を製作。近隣の地形の高低差を3次元で実感するのが目的だ。その後、地図上で災害時の避難シミュレーションなどが行われた(写真撮影/上島寿子)

●取材協力
パークシティ溝の口

上島寿子

最終更新:8月17日(水)10時3分

SUUMOジャーナル