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ブランディングとは、お客さまと企業との「幸せな関係づくり」

ITmedia ビジネスオンライン 8月17日(水)6時10分配信

 私は事業にしても商品にしても、そのブランド力を生み出すためには、自分たちが本来持っている力、一番大事にしようとしているものは何なのかを、プロジェクトに関わるチームの皆で発見し共有することからスタートするようにしています。

【ブランドの強さ】

 そうしないと「競争の中で勝てるものは何か」というような話にしかなりません。会議でそういう話ばかりしている企業もありますが、中長期的に見れば、そんなのはもろくて危ういものでしかないのです。

 そしてまた、“何のため”というところが見つけられず漠然としていては、いろんな方向にエネルギーが分散されてしまいます。目指すべきところに力が集約されないから、持てる力が発揮されない。すると、歳月と共にますます“何のため”が見えなくなってしまいます。

 ブランドというものを、他との比較ではなく、その会社自身、その事業自身の内なる独自性の力に見いだしていく。つまり、はやりがどうだとか、何がメディアで話題になっているとか、よその何が売れているとかいった、外側のものさしやマーケットの座標軸ではなく、自社の強み、自社のやるべきことに、視点の基軸を定めていくのです。会社や商品の強みをクリアにしていくことによって、ものさしそのものを外から内へ、相対的なものから絶対的なものへ変えていくのです。

 私はもともと広告会社で働いていたので、さまざまな企業から広告作りの依頼を受けました。それで、「この商品は誰のために、どんな価値を発揮するのですか」と尋ねていくと、広告主側で意外とそこが明確でなかったりしたことが多いのです。

 何かを作って世の中に送り出そうとする側に、その「独自性=らしさ」が不明確であれば、何を情報として発信するかもボケてしまいます。実際、そういう広告に終わっているケースは世の中には少なくありません。

 ということは、その「独自性」を発見していくことは、むしろその企業やその事業が発展していく源泉になり得るのです。その「独自性」をお客さまと共有していくことが、商品が売れ続けるという経済活動につながっていくのです。

●独自性を力に変え、成長の源泉にしていく

 私がよくお話しする1つの事例があります。明治の「キシリッシュ・パフューム」というガムです。ずっと右肩上がりだった日本国内のガムの消費量が、2004年あたりから下降に転じました。少しでも需要を増やそうと、各社は新製品の開発にしのぎを削り、例えば「味が長持ちするガム」なども相次いで発売されています。

 “二匹目のどじょう”と言いますが、何かがヒットすると、それに便乗して、あるいはそれに負けまいと、同じような企画を打ち出すという例は世の中に珍しくありません。しかし、明治のガム開発チームは、ものさしを変えて、そもそも自社の強みは何なのかと考えたのです。その結果、自社には「吐息に香りを付ける」という他社に負けない技術力があることを再発見したのです。だったらそこに最大限の価値を削ぎ出していくことが、自分たちの会社のためにも消費者のためにもよいのではないか。

 こうして2012年に誕生したのが「キシリッシュ・パフューム」というガムでした。パッケージも香水の瓶をイメージしたものにし、“息香る”というコンセプトで発売して好評を得たのです。

 人が口臭を意識するのは恋愛と関連し、恋愛を意識し出す年ごろから口臭を気にするというデータもあるようです。この“息香る”ガムが、ガム離れが進んでいる若者層からの支持を獲得し売り上げを伸ばせたのは言うまでもありません。

 外側のものさしで測って、他と“差別化”したのではなく、そもそものものさしを自分たちの会社の強みは何かというところに定め、他にはない独自の価値を作り出した。まさに、自分たちの「らしさ」をクリアにし、その「らしさ」をお客さまと共有することに成功したのだと思います。

 たとえマーケットの中にあるものさしで戦うということでも、根本は自分たちの独自性をいかに力に変えていくかにひもづいていなければならない。何かと戦って拡大していくということではなく、自らの持っている独自性を成長の源泉にしていく。そういう発想で「ブランド」を考えていかなければならないと私は思っています。

 外にあるものさしの中で競争優位性を作っていくだけの「ブランド」の発想から、独自性を磨いていく「ブランド」へと視点を転換することは、どの分野、どの業界においても、とても大切なことなのです。

●「情熱の総量」がブランドの強さ

 その上で、ではブランドの強さというものはどこから生まれるのか。

 私は、それは“情熱の総量”だと考えています。そのブランドに関わっている人がどれくらいいるのかということと、その関わっている人たちが、ブランドに対してどれだけ強い情熱を傾けているのかということの掛け算の総量です。

 もちろん、関わっている人というのは、作り手側、企業側だけでなく、消費者も入ります。買う側が、その商品を好きになって、お金を払う。人に薦める。あるいは意見をする。すべて、情熱です。

 ブランド力を強くするためには、まず何よりも、企業の中のプラスの情熱を高めることが必須です。となれば、働いている環境がよくなかったり、ブランドに対して社内で合意が形成されていないということがあると、当然モチベーションは下がってしまいます。

 ですから、どのようなブランドに磨きあげていくのかというビジョンは、そこで働く社員のモチベーションが上がるものがなければなりません。そうやって情熱の総量を高めていかないと、世の中から好かれるブランドになるはずもないのです。

 逆に言うと、お客さまというのは一緒にブランドに情熱を傾けてくださる存在ですから、もしも好きなブランドから裏切られた場合には、今度はマイナスの情熱が働いてしまいます。言い方としてはちょっと変ですが、情熱にはプラスもマイナスもあるのだということを、ブランドを育てていく際には知っておく必要があります。

 2013年、ホテルやレストランなどの食材における、いわゆる“偽装問題”がクローズアップされました。一流と称されるホテルやレストランというのは、一流のシェフが一流の食材で料理を作っているはずだと消費者は考えているわけで、だからこそ高い料金を払ってでもお客さまは来ているのです。

 それが、過当競争の中で少しでも多く集客し利益を上げるというところだけに目が行って、安い食材を高級食材に偽装するようなことがいつの間にか横行していた。仕入れる人も調理する人も、分かっていたはずなのです。企業の利益を上げることが目的化され、そこで働く人たちがブランドに対して強い情熱を傾けられなくなっていたのでしょう。結果として、そのブランドを愛していたお客さまの情熱を失うことになってしまったのです。

●ブランディングとは「幸せな関係づくり」

 述べてきたように、「ブランド」とは識別性や差別化といった他との比較ではなく、どこまでも自分たちの内側にある“独自性”に目を向け、これを発見し、磨きあげていく挑戦の中で育てていくものです。そして、繰り返しますが、それはマーケットの中で“競争に勝つため”にあるのではなく“人を幸せにする”“社会を幸せにする”ためにあるものだと私は思います。

 単に自己主張するとか、売れるために立派そうに見せるとか、高級なイメージを与えるといったことではなく、自分たちと世の中とが相互に“幸せな関係”になっていくところに「ブランド」の本質があるのです。つまり「ブランディング」というのは、この“幸せな関係づくり”だということができます。

 これを図式にすると、下図のようになります。独自性を磨きあげていくという視点と発想に立てば、「ブランド化」はさまざまなことがらに応用し実現させていくことが可能です。

 企業そのものをブランドとして育てることはもちろん、個別の商品・サービスやラインアップのブランド化も可能ですし、近年では地域や国家のブランド化に取り組む例もあります。特定の社内セクションをブランド化することも可能です。

 また、伝統技能やアーティストなど個人がブランディングの対象となる場合もあります。ビジネスの場面だけに限らず、例えば「就活」や「婚活」などもある種の個人におけるブランド作りが必要なときかもしれません。

 図の中では「私」と「私」も“幸せな関係”として線で結ばれていますが、自分と自分自身とが“幸せ”な関係になるということは、じつはとても大事なことです。自分自身のことが好きになれなかったり評価できない人が、外なる世界と“幸せな関係”を築けるはずもないからです。本来あるべき自分と今の自分を幸せな関係にしていく。

 少し難しい話に聞こえるかもしれませんが、それが本来の“パーソナルブランディング”と言えるのではないでしょうか。

(井尻雄久)

最終更新:8月17日(水)6時10分

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