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今後3~5年もスマホ向けが村田製作所の好業績を支える

EE Times Japan 8月17日(水)13時34分配信

■好業績続く“スマホ高依存の村田製作所”

 2015年度(2016年3月期)売上高1兆2108億円、営業利益2754億円。売上高、利益ともに過去最高業績を更新した村田製作所。近年の好業績を支えているのは、スマートフォン向け電子部品/通信モジュール事業だ。売上高の6割超を、スマートフォンを中心とした通信用途向けが占める。

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 一方で、世界のスマートフォン市場に目を移すと、端末出荷台数の成長に明らかに陰りがみえる。スマートフォン市場は成熟期に入り、これまでのような急成長は期待できない状況にある。

 そうした中で、当然、スマートフォン依存度の高い村田製作所も苦戦を強いられるとみられるが、今期2016年度も為替影響などにより減益こそ見込むが、売上高は増収、すなわち、過去最高を更新する計画を立てる。そして、スマートフォン向けでも増収の計画を立てている。

 成熟期に入ったスマートフォン市場で、村田製作所はどのようにビジネスを拡大していくつもりなのか――。同社取締役常務執行役員で通信・センサ事業本部長を務める中島規巨氏にスマートフォン向けビジネス戦略を聞いた。

■顧客カバレッジ広げ、垂直統合で

EE Times Japan(以下、EETJ) 担当されている通信モジュール事業は、スマートフォン向けを中心にかなり高いシェアを持つ事業に成長しました。成功の要因をどのように分析していますか。

中島規巨氏 過去から戦略的に特定顧客に対し、手厚いビジネスを展開するということをせず、顧客のカバレッジを広げることに重点を置いてきた。だからこそ、1990年代であればNokiaやEricssonなど、2000年代であればSamsung Electronics、Appleなど、その時々の大手メーカーに入り込め、結果として、通信モジュールでのメインプレーヤーでいることができた。

 加えて、市場が急成長する中で、投資判断、リソースのシフトのスピード感が重要で、重点的に取り組んできた。

EETJ 技術面での成功要因はありますか。

中島氏 通信は、技術的にそんなに難しくないと思っている。いわゆる2G(第2世代移動通信)から始まり、3G、LTEと来て、次は5Gがある。通信速度が世代とともに速くなることに対して「通信技術はどのようにならなければいけないか」ということが分かりやすい。「この先、どのようなフィルターが必要になるか」「このようなアクティブデバイスが必要になるだろう」など、ある程度、読みやすい市場だと思っている。

 そこに対し「どれだけ早く手を打てるか」ということが鍵だと思っている。

EETJ 技術進化の道筋が明確な中で、他社に先んじて、投資を行ってきたということですね。

中島氏 常に先手を打ってきた。結局、市場が急成長するタイミングが段階的にあり、そのタイミングで大きな投資が必要になる。そうした投資が行える状況に合ったかどうかで(競合との優劣が)変わってくる。

 もう1つは、エコシステムの話になる。われわれの競合は主に米国企業になるが、そうした競合は水平分業でスピード感を持っている。パートナーと一緒になって1つのモノを作り上げている。それに対しムラタは、スピード感を上げるために、過度な自前主義はダメだとは思うが、垂直統合モデルの方が適しているのではないか、ということで、アクティブデバイス事業の買収などを繰り返して、内部で全て完結するようにしてきた。このことがスピード感につながると考え、取り組んで来た。

 とはいえ、まだ、競合との勝負はついていないと思う。

■競合の垂直統合化の動きに対して……

EETJ 競合のSkyworksは、パナソニックのSAW(表面弾性波)フィルター事業を買収(2014年4月)などしています。

中島氏 他にも競合は、内製化を強化する動きがあり、どちらかといえば今は、(水平分業と垂直統合の)ハイブリッド化が進んでいるといえるだろう。半導体は自前で生産する動きは少なく、ファブライトの方向にある。しかし、半導体以外は、社内に取り込んでいこうというアプローチになっていると分析している。

 こうなっている要因は全て“スピード”のためだ。

EETJ 垂直統合と水平分業ではどの程度、スピードは変わるのですか。

中島氏 サードパーティーから購入するとなれば、取引きに“スペック”というものが存在するようになる。サードパーティーと取引きする度に、品質や性能といった“スペック”をクリアしなければならなくなる。

 分かりやすい例を挙げると、高周波の領域では、特性インピーダンスを50Ωにしなければならない。水平分業では、各部品で50Ωにしなければならない。しかし、内製であれば、個々の部品で50Ωにする必要はなく、「パワーアンプとSAWフィルターの間は、性能特性を最大化するには30Ωで整合すれば良い」ということができ、開発スピードも性能も上がり、アドバンテージが出せる。

 こうしたすり合わせを2社、3社といったパートナー企業間でするには、限界が来ているのだと思う。

■旬のタイミングに1番良いものを

EETJ 競合も、垂直統合化を進めている中で、これからも競合と差異化していくために必要なことはどういったことになりますか。

中島氏 通信の先読みは、難しくないと申し上げたけれども、通信の要求に対し、100点満点を取ることが難しい。その中で「どうやって競合と違いを見せていくか」がこれからの鍵になると思っている。100点、ないし、100点以上の回答をすることも狙うが、1番良い時期、旬のタイミングに対して、1番良いものを、1番小さく、1番安く提供することが重要だと思う。市場としては、他社が何を開発しているのか分かりやすい市場であり、他社にない技術、他社に勝る技術を見極めて、提供していく。

■社内に技術はそろった

EETJ 他社に勝るための技術を備えるため、今後もM&Aを実施していくのですか。

中島氏 言い切ることは難しいが、結構、技術は社内にそろったかと思っている。内製化を進める競合に対し、われわれは、競合が持ち合わせていない技術をクリアにして顧客に伝えていく段階だと思っている。

EETJ 競合にない独自技術とは、どのようなものですか。

中島氏 最近で言えば、新構造のSAWフィルターを開発した。このフィルターは、他社にはできない特性を実現した。

 最近は、アクティブデバイスでは、大きな差異化は難しくなっている。差異化しやすいのはフィルター特性。バンド数が多くなっているので、フィルターに求められる要件は多くて、この新構造のフィルターはかなり競争力があると思っている。

■スマホ成熟期だが「アナログの員数は伸びる」

EETJ 通信モジュールの主力用途であるスマートフォンの成長が鈍化しています。

中島氏 スマートフォン端末自体の市場は、成熟化している。成長率も1桁パーセント台が続くだろう。しかし、スマートフォンの中身を見ると、全て上位互換になっていて、5Gになっても、LTE機能は必ず入る。もっといえば、3Gも2Gも入る。フィルターなどアナログの部分は、どんどんコンテンツは増えている。チップセットやディスプレイ、バッテリーの員数は変わらないが、アナログに限っては、まだまだ員数は増えていく。

 もう1つ、ハイエンドスマートフォンは部品の小型化が進んで扱いが難しくなったために、モジュール化が進んでいるが、中国などのLTE端末はまだハイエンドほどにはモジュール化されていない。LTEに対応していないミドルエンド、ローエンドはなおさらだ。部品をかき集めて、基板に直接実装している。こうしたハイエンド以外のモデルでのモジュール化が進めば、通信モジュール事業としては成長要因の1つになる。

EETJ 通信モジュール事業としての今後の売り上げ成長見込みを教えてください。

中島氏 フィルターなど部品個々の員数自体は数十%成長でまだまだ伸びている。しかし、モジュールの売り上げ成長は、直感的だが、少し鈍るかと思う。個々の部品をパッケージング化したモジュールでは、なかなか、モジュールに搭載するコンテンツの数が増えても、価格として認めてもらいにくいと思うからだ。

■スマートフォン依存度が高いことは「問題ではない」

EETJ スマートフォン以外の用途へのビジネスを強化する部品メーカーが多い中で、村田製作所は“脱スマートフォン”の必要性はないようですね。

中島氏 業績発表数値を見てもらえれば分かるが、当社のスマートフォン依存度は高い。とはいえ、スマートフォン依存度が高いことは問題だとは決して思わないが、スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題だと認識している。車載であったり、エネルギーであったり、医療であったり、注力市場で、まだまだ存在感が高まっていない。

 好業績を支えているのは、スマートフォン向けであり、今後、3~5年は、スマートフォンで業績を支えることはできるだろう。ただ、他の市場での売り上げは上がっているが、大きくはポジションはアップしていない。スマートフォンと同じ取り組みでは、ダメだ。スマートフォンの場合は、良い特性のものをより安く、小さく作るということが価値として認められてきた。しかし、車や医療やエネルギーは価値の基準が違う、ビジネスのスピードが違う。ビジネスの在り方を変えていかないと、各市場でのポジションは上がってこない。

最終更新:8月17日(水)13時34分

EE Times Japan