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ブロックチェーンを生かしたクラウドストレージの安全策

ITmedia エンタープライズ 8月17日(水)21時2分配信

 さて、前回説明したブロックチェーンの特徴を見て、「いったいクラウドストレージと何が違うの?」と思われた方もいるでしょう。今回はその理由を解き明かします。

 ブロックチェーンでは、トランザクションを記録する台帳が安全に分散保存され、一部の台帳のデータが改ざんされても、それ以外の台帳と比較することでそのデータが正しいかどうかを確認できるという特徴に触れました。クラウドストレージサービスにも分散ストレージがあります。本連載で何度かに分かって解説してきた「オブジェクトストレージ」です。

 ブロックチェーンの分散ストレージとしては、「StorJ」(ストレージと発音)があります。それでは、このStorJとオブジェクトストレージを比較してみましょう。

1.低コスト

 いずれも低コストが売りです。しかしオブジェクトストレージは、特定の企業内やクラウドサービスの内部に限定されるのに対し、StorJは個人がだれでもストレージ領域を提供でき、誰でもサービスを利用することができます。

 そのため、利用できるストレージの容量も、桁違いに大きくなる可能性もあり、コスト面で有利になると考えられます。

2.地球レベルの分散・拡張性

 オブジェクトストレージの特徴の一つのが「Geo Scale」です。「地球レベルでの分散」とも表現できるでしょう。これは、データを地球上の複数サイトに分散して、大規模な災害やネットワーク障害が発生してもデータが読み出せる仕組みです。同様に一番近いサイトからデータを読み出すこともできるので、読出し速度という意味でも効果的です。

 StorJの場合も、同じように世界中に分散してデータを配置できます。さらに特定のベンダーだけの設備だけでなく、StorJに参加してストレージを提供するクライアントの数を考えると、オブジェクトストレージやそれを利用したクラウドサービスと比較して、拡張性が格段に高いといえます。

 具体的な数字で見ると、世界中のクライアントのストレージ容量は25万ぺタバイトに達するといわれています。これが全部利用可能なストレージ容量だとすると、世界のクラウドストレージプロバイダートップ5の総容量を全て足しても、20倍以上の開きがあると推定されています。

 自分のストレージが他人に使われる?――ちょっと気持ち悪い気もしますが、電力自由化で電気が売れる時代、使わないときのクライアントPCのリソースやストレージを切り売りするというのは、もしかしたら今後一般化してくるのかもしれません。

3.堅牢性

 ここでいう「データの堅牢性」とは、データアクセスの中断がないことを表す「冗長性」とは少し違った意味で表されます。データの複製を大量に作り、分散配置することによって、いくつかのデータ保存先に障害が発生しても、データを正常に読み出せます。

 一般的にオブジェクトストレージは、「イレブンナインズ」(99.999999999%)の堅牢性をうたうものが多いのですが、StorJも基本的にはオブジェクトストレージで利用されているイレージャーコード技術を使うため、同様の堅牢性を実現できます。

4.セキュリティと信用性

 もともとビットコインというセキュリティの堅牢性を特徴として開発されたStorJと、一般的なクラウドストレージは原点が違います。

 StorJでは、暗号化をする場所が最初からユーザークライアント側を前提としているのに対して、一般的なクラウドストレージサービスでの暗号化は選択制、つまり、クラウド業者からは見えてしまうものも多いということです。またアクセスさえできれば、データの読み出し、消去、改ざんも可能になってしまいます。セキュリティとデータの信用性という点では、StorJが有利と考えても良いでしょう。

5.ブロックチェーン連携

 一見すると、これはストレージと直接関連性がないように思いますが、データの課金化を考えた時に、電子決済の仕組みを最初から実装しておくことはかなり有利と言えます。

 例えば、画像や動画、音楽などデータの売買は、従来はサービスを提供する特定の会社と契約を結ぶのが普通でした。今後はそのような契約をすることもなく、それらの作品を簡単に売買することができるようになるでしょうし、データのやり取りの記録が互いに監視されれば、著作権の保護にも活用できるかもしれません。無償でSNSに掲載していたアーティスティックな動画作品も、もしかしたら世界中から多くの買い手が現れるかもしれません。

 ビットコインもブロックチェーンも非常に有望なコンセプトです。ただ、ビットコインがまだ世界中で正式な通貨として認められていないのと同様に、StorJも実用化までにはかなりの時間がかかりそうです。当分は高いデータ堅牢性と拡張性、そして経済性を備えるオブジェクトストレージを活用していく必要があるでしょう。

●著者:井上陽治(いのうえ・ようじ)

日本ヒューレット・パッカード株式会社 ストレージテクノロジーエバンジェリスト。ストレージ技術の最先端を研究、開発を推進。IT業界でハード設計10年、HPでテープストレージスペシャリストを15年経験したのち、現在SDS(Software Defined Storage)スペシャリスト。次世代ストレージ基盤、特にSDSや大容量アーカイブの提案を行う。テープストレージ、LTFS 関連技術に精通し、JEITAのテープストレージ専門委員会副会長を務める。大容量データの長期保管が必要な放送 映像業界、学術研究分野の知識も豊富に有する。

最終更新:8月17日(水)21時2分

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