ここから本文です

アグネスが里帰りで感じた 「雨傘運動」に沈黙する人々

ニュースソクラ 8月17日(水)11時50分配信

【アグネスのなぜいま(5)】香港は中国から独立すべきなのか? 議論なき迷走

 香港に里帰りをし、書籍展のイベントに参加してきました。

 $10ドルの入場料で、7日間にのべ100万人が来場すると言います。確かに行ってみると、会場の外には長い列が出来、熱気満々でした。

「景気がいいですね」と私が言うと、「イヤここだけですよ、物が売れなくて、困っている人が沢山います」と出版社の人が首を横に振りました。

 その晩の食事の席でも「最近香港の市場に元気がない」と親戚や友人は口を揃えます。

「香港政府の愚策のせいだよ!」とネイザンロードに店を構えている商店主の友人。「政府が中国人は一週間に一回しか香港に来てはいけないという法律を作ったために客足がいきなり減ってしまいました」と、不満顔でした。

 開業医の姉は「中国人は一人、粉ミルク2缶しか買ってはいけないという法律ができて、中国から来る人は買いたくても買えなくて、困っています」と言います。

「香港は少子化なのに、中国の人が香港に来て出産することは禁じられているので、人口の老化が早まり、未来が見えない」と大学の経済学の教授も顔を曇らせます。政府が明確なビジョンもなくその場しのぎで法律を作ることで、余計に景気が停滞しみんながとまどっているように見えました。

 2014年の「雨傘運動」以来、香港の一部の市民は中国に敵意を持つようになり、中国指導部も香港に警戒感を持つようになりました。雨傘運動の代表の一人は、香港の立法局の選挙に立候補をして「香港の独立」を訴え、全市民投票をする事を公約しています。

「独立したら、私は倒産してしまう!」と商店主の友人。
「例え独立しても、香港は自立ができないでしょう」と大学教授。
「一国両制度を維持して、中国が民主的になるのを待つ」「中国の一部になっているのは事実なので、一緒によくなっていきたい」と様々な意見の中で、唯一、若者の大学生が「独立して、やってみてもいいと思う。できなかったら、戻ればいい」と独立賛成派。結局、話は平行線で結論は出ませんでした。

 翌日、書展の晩餐会に招かれ、たまたま政府高官や、大学の学長、著名な作家やジャーナリストと同席しました。政府高官は、「香港は国際都市だから、底力がある。確かに問題はあるけれど、状況は安定していて、問題は小さい」と話しました。

 私が雨傘運動についてみんなの意見を聞くと、しばらく沈黙が続いた後、
「この話題はみんな意見が違うのです。家庭内でも分裂が多い。反中の若者と、親中の親と喧嘩別れをして、子どもが家を出てしまった家庭もあります」と大学の学長が話してくれました。

 そして「このような社交の場では、できるだけこの話題は避けなければなりませんよ」とたしなめられました。この話題はそれほど微妙だったのです。

 結局この集まりでは、香港の人々が何を望んでいるのか、聞くことはできませんでした。

 香港の将来のためには、歩むべき道標を探すための絶え間ない議論が必要だと私は思っています。しかし、今の香港の人々は自分の本心を言ったり、他人の本心を聞いたりする勇気さえ、なくしてしまったようです。

 難しい問題だからと言って話し合う勇気がないと、一部の扇動的なプロパガンダに振り回されたり、成り行きに身を任せたりして、本当の民主主義は成り立たなくなります。

 たとえ意見が違っても、お互いを認めるのが民主主義の基本です。しかし今の香港ではそれが行われていないように思います。

 香港では今年9月に立法局の選挙が行われます。そして来年は行政長官の選挙があります。有力な行政長官候補が今のところ現れていないので、梁振英氏の現役続投の可能性が高いようです。

 しかし、経済の停滞を打開したい人々にとって、現状維持は憂つの元です。それでも人々はまるで金縛りに合っているように、ただただ黙っているだけです。香港の人々は今どうしたら良いか分らずに、迷走中。迷路の出口は、まだ見当たりません。

■Agnes M Chan(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使も兼務。

最終更新:8月17日(水)11時50分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

斬首動画が何百万回も再生されてしまう理由
昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。