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日銀は緩和効果をより強くする方法に踏み出せるか?後半

ZUU online 8月18日(木)13時50分配信

9月20・21日の政策決定会合での総括的な検証では、新たなスタンスへの転換が予想される。デフレ完全脱却を目指し、財政政策、成長戦略と構造改革による、企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートする、というスタンスだ。

■物価と名目GDP成長率を合わせた、ハイブリッド目標への動きになるのか

金融政策においてネットの資金需要の役割は、これまでほとんど意識されてこなかった。財政を含めた何らかの資金需要を、ヘリコプターマネーのような直接的にではなく、間接的なマネタイズを躊躇しないことは、これまでの日銀の政策スタンスまたは哲学から、大きく転換することになる。政府との協働をより強くするための枠組みとして、物価と名目GDP成長率を合わせたハイブリッド目標への動きもあるかもしれない。

内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、経済再生ケースで安定的な名目GDP成長率は3.5%-4.0%となっている。日銀がコミットメントする2%の物価目標と、政府がコミットメントする+1.5%の実質GDP成長率を合わせて、+3.5%程度の名目GDP成長率を目指す目標が、加わってもおかしくはない。

ポリシーミックスを意識した政府・日銀の共同目標として、日銀単独で物価目標を達成しようとする、これまでの金融緩和策の効果の限界を払拭する有効な方法となろう。日銀は現行の金融緩和策を粘り強く継続していき、政府は短期的には財政拡大で、中長期的には成長戦略と構造改革による潜在成長率の引き上げで、そのハイブリッド目標を目指すことになる。

■単純な物価目標よりも名目GDP成長率が海外投資家からも望まれる

2%の物価が困難でも、成長率が予想以上に加速すれば政策目標は、達成にしっかり向かっていると考えることができる。原油価格が下落し物価が下がっても、交易条件改善は名目GDP成長率の押し上げ効果があるため、原油価格の下落に悩まされることもない。

名目GDPを縮小から拡大に転換させたのが、アベノミクスの最大の成果であり、骨太の方針の表題が「600兆円経済への道筋」とされ、名目GDPの拡大が政府の最重要課題であることと整合的だ。名目GDP(=総賃金)の拡大へのコミットメントが弱く見える中、政策により物価だけ押し上げて家計に余計な負荷をかける、というインフレ政策が不人気である側面も是正することができる。

海外投資家からみても、日銀のみで実現が疑われている単純な物価目標より、重要視される成長戦略の効果が見える名目GDP成長率の方が、日本経済・マーケットを評価する基準として使いやすいだろう。政策決定会合には内閣府と財務省からの参加者もいるため、これまでのような形式的な論評ではなく、より深い議論ができる枠組みは既にある。

■不評のマイナス金利がもたらすものとは

金融政策に過度に依存した結果として、行き着いたマイナス金利政策への評判は、金融機関だけではなく、国民の間でも芳しくない。マイナス金利政策が金融機関の体力を低下させ、貸出や投資に消極的になってしまえば、景気刺激を目指した日銀の意図に逆行する。

実際に、マイナス金利政策による長期金利の低下幅は、日銀の予想を上回るものであっただろうし、イールドカーブが大きくフラットニングしてしまったのは誤算だっただろう。マイナス金利政策が景気刺激効果があり、インフレ期待を上昇させ2%の物価目標をより容易に、そして早期に達成することを可能にするものであれば、理論的にはイールドカーブはスティープニングするはずだ。

イールドカーブのフラットニングは、金融機関の収益を更に圧迫してしまうことになる。しかし、国債不足の中、イールドを求める金融機関の行動を考えれば、日銀の国債買い入れオペには負荷がかかり続け、日銀にはイールドカーブをスティープニングさせる力はない。名目GDP成長率目標のもとでの政府の財政拡大は、インフレ・成長期待を持ち上げ、長めの国債の発行も増えれば、それを可能にする。それでも長めの金利の上昇幅は、日銀の力により、インフレ期待の上昇幅以下にとどまるだろうから、長期の実質金利の低下は続き、景気・マーケットには更なる刺激効果があるはずだ。

■政府・日銀の物価と成長へのコミットメントをマーケットが意識するか

更に、原油価格の上昇などでテクニカルに物価が2%に上昇しても、名目GDP成長率が弱ければ、マーケットが日銀の早期引き締めを警戒することもなくなる。または2%の物価目標を達成した後も、潜在成長率が上昇しておらず、名目GDP成長率の上昇が不十分で持続的でないのであれば、金融政策が緩和的な状況は継続することになる。

結果として、緩和政策の長期化による時間軸効果が作り出せることになろう。政府・日銀の物価と成長へのコミットメントがより強く、長期にわたることをマーケットが認識すれば、インフレ期待を刺激したり、それによる実質金利の更なる低下が企業を刺激することができよう。その企業活動の活性化がイノベーションへの投資につながり、実際に生産性の向上による潜在成長率の上昇を可能にし、日本経済の好循環を引き出すことができるかもしれない。

今回の総括的な検証が、「量」・「質」・「金利」の現行の枠組みでの単純な追加金融緩和に直接的につながるこはないだろう。政府・日銀が協働して、物価目標と名目GDP成長率目標を合わせたハイブリッド目標の導入など、金融緩和の効果をより強くする方法に踏み出せるのかが注目である。

■ヘリコプターマネー期待をコントロールできるか

もちろん、物価と成長にコミットメントした政府と日銀の協働がしっかりしていれば、現行の金融政策の枠組みで十分であり、返済不要な永久国債を日銀が引き受けるなど、極端なヘリコプターマネーの政策が実現することはないだろうし、必要もないだろう。

目先の財政再建に拘るあまり、これまでのような緊縮財政が継続してしまえば、ネットの資金需要が復活せず、円高とデフレ完全脱却へのモメンタムが弱い状況が続き、日銀に更なる負荷がかかる恐れがある。そうなってしまうと、マーケットで日銀の直接的な財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)への期待が、コントロールが効かないほどに膨張し、実際に日銀が追い込まれるリスクとなるだろう。

政府支出が日銀のファイナンスでまかなわれれば、税という概念自体が希薄となり、予算は、歳出と歳入の編成ではなく、単純な必要経費の会計的な処理になってしまうだろう。歯止めが利かない歳出の膨張につながり、財政規律は失われてしまう。現在、目先の財政再建に拘ると、中長期的な財政規律と安定感が失われてしまうというねじれた状態にあるようだ。

■ETF買い入れ増額効果が出れば、追加緩和の可能性は下がる

10月31日・11月1日の金融政策決定会合で、日銀は展望レポートを見直すが、追加金融緩和が行われるかは、その時の景気・物価動向次第となる。日本も米国も、経済指標には上昇の強さはないが、底打ちの形になってきていること、そして政府の経済対策と7月の日銀のETF買い入れ増額による、株価の下支えの効果が出てくることを考えると、追加金融緩和を日銀が必要と判断するような状況にはならないだろう。

「2年」という物価目標が中長期的なものとなれば、これまでのように物価目標の達成時期の日銀の予想(現在は「2017年度中」)が、先延ばしになる状況にあっても、それがすぐに追加金融緩和につながることはなくなる。

もし年末まで経済活動の停滞が続くのであれば、経済対策は十分でなかったことになり、来年1月の通常国会における補正予算で、時間の制約のあった今回の経済対策で、具体化が間に合わなかったものを積み増すことを中心に、再び大規模な経済対策を実施する必要が、出てくることになる。そうなった場合には、政府は赤字国債を発行してファイナンスしなければらなず、日銀にも追加金融緩和圧力がかかり、来年1月の展望レポートの見直しのタイミングで、ポリシーミックスとして「量」を中心とした追加金融緩和が実施される可能性が出てくることになろう。

■量的金融緩和のテーパリングは消費増税後のGDP回復を確認してから

しかし、2017年に入り、経済対策の効果がしっかり現れることにより、日本の景気の持ち直しも明らかとなるだろうし、米国景気のしっかりとした拡大がFEDの利上げの進展につながり、円高圧力は自然に減じていくだろう。グローバルな景気・マーケットの不安定感を各国の政策対応で乗り越え、先進国の堅調の成長がなんとか持続している間に、その好影響が波及して新興国が減速した状態から脱していけば、輸出と生産のサイクルも持ち直していく。

海外景気の持ち直しとともに、政府・日銀の政策効果などによりアベノミクスが再稼動したという認識が、企業とマーケットにも浸透し、総賃金の強い拡大がデフレ完全脱却への動きを再加速させていくシナリオになると考える。日銀の追加金融緩和はメインシナリオではなく、この7月の追加金融緩和が、最後になる可能性が高いと考える。物価目標の達成時期に拘らない枠組みでは、景気拡大が強い中で、日銀が買い入れる国債が不足する可能性が高くなれば、2%の物価目標が達成される前に、量的金融緩和のテーパリング(資産買い入れ額の減額)が起きる可能性がある。

2019年10月の消費税率引き上げ後、実質GDP成長率がプラスに回復したことを確認した後、実施は2020年7月になろう。しかし、日銀のバランスシートの残高を減少させることはなく、政策金利は目標達成までマイナスで据え置かれるだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

最終更新:8月18日(木)13時50分

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