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ソニー電池事業買収――村田製作所の4つの勝算

EE Times Japan 8月18日(木)12時43分配信

 「スマートフォン依存度が高いことは問題だとは決して思わないが、スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題だ」

 こう語るのは、村田製作所取締役常務執行役員の中島規巨氏だ。スマートフォン向けの電子部品/通信モジュールで業績を伸ばす村田製作所は今、スマートフォン向けビジネスに続く成長領域での事業強化を進めている。成長領域とは、自動車、医療、そしてエネルギーだ。

 2016年7月には、エネルギー事業の強化の一環として、ソニーの業務用電池事業を2017年3月末をメドに買収すると発表した。1991年に世界に先駆けてリチウムイオン電池を商品化するなど、歴史、実績のあるソニーの電池事業だが、近年は赤字に苦しんできた。競争の激しい世界電池市場で、電子部品メーカーの村田製作所が、苦戦続きの電池事業をよみがえらせることができるのだろうか。

 通信・センサー事業とともに、電池を含むエネルギー事業を統括する中島氏に、ソニー電池事業買収の狙いを中心に、スマートフォン以外の成長事業に関する事業戦略を聞いた。

■自動車では、レーダー、11p、超音波センサーに重点

EE Times Japan(以下、EETJ) 「スマートフォン以外の注力用途でのプレゼンスが上がっていないことが問題」ということですが、スマートフォン以外の注力事業の状況を教えてください。まず、車向けビジネスの状況、今後の展開予定をお聞かせください。

中島規巨氏 車はインフォテインメント向けのWi-Fiモジュールはかなりシェアが高い。ここでシェアを獲得できているのは、スマホでの実績からスマホとつながるモジュールとして認められている部分と、車載向けは全て国内生産しているという信頼面でシェアが獲得できていると思う。加えて、パートナー企業であるユビキタスとともにMiracast用ソフトウェアを提供している点も、採用を伸ばしている理由だと思う。どちらかと言えば、使い勝手の面で評価を得ているといえる。そういう面では、スマートフォンとは少し異なるビジネスモデルになっている。

 これからは、自動運転につながるADAS(先進運転支援システム)など向けの技術、具体的には衝突防止用ミリ波(60GHz)レーダー、車車間通信用無線(IEEE 802.11p)、超音波センサーの展開を強化していく。

EETJ 車向けは、売り上げが計上できるまで時間がかかります。

中島氏 投資に対する回収の考え方を変えていかなければならない。幸い今は、投資から回収までの時間を待つだけの体力が今はある。今のうちに、何とか仕掛けをしていきたい。

■バッテリー、蓄電技術を外部に頼るのは得策ではない

EETJ 投資といえば、ソニーの業務用リチウムイオン電池事業を買収することで合意されました。

中島氏 これまでエネルギー事業として、DC-DCコンバーターやAC-DCコンバーターの電源モジュールを主に展開してきたが、これらの事業は、いわゆるスマイルカーブの底に位置する。組み立て部品として取り組んでも、事業の継続は望みにくかった。

 そこで、エネルギー市場のスマイルカーブの川上/川下で収益を上げられる事業を手掛ける必要があった。1つは、効率性の良い半導体デバイスを開発するところ。ここでは、2014年にPeregrine Semiconductorを買収し、デバイスの強みを打ち出した高効率のDC-DCコンバーターを作って行こうとしている。これは従来のムラタのビジネスの方向性に近いものだ。

 もう1つスマイルカーブで収益を上げられるのが、BEMSやHEMSといったエネルギーマネジメントの部分でソリューションを提供することだ。そのソリューションの構成要素の1つとして、インバーターやコンバーターといった電源がある。こうした電源については、小さく、高効率に作ることができるようになった。そして、電源以上に大きな構成要素がバッテリーだ。このバッテリー、蓄電技術を外部に頼るのは得策ではないと考えていた。

■「生産実績」と「インフラ」

EETJ 村田製作所としてもこれまで、リチウム電池の開発を進めてきました。

中島氏 2006年からリチウム電池の開発を主に車向けとして開発し、ようやく2017年から民生機器や蓄電機器向けにようやく出荷できるところまで来ていた。しかし、1年前にエネルギー事業を担当し始めたときから、ムラタの電池事業としては、本格的なモノづくりから遠く、5年、10年の時間がかかるという印象を受けた。

 そこで今回、縁あって、ソニーの事業を買収することになった。買収の理由は、4つあるのだが、そのうち1つは市場で認められている“生産実績のあるプレーヤー”であることだった。ある程度、技術的には、ムラタ内部で構築できたものの、やはりリチウム電池は危険なデバイスであり、市場では生産実績が重視されるからだ。

 建物を含む“インフラを持つプレーヤー”である点も4つの理由のうちの1つだ。電池の製造設備は防爆設備を導入する必要もあり、高コストになる。

 要するに、当初から、生産実績、インフラのあるプレーヤーと一緒にやっていく必要性を感じていた。そうでなければ、われわれだけで実績を残すには、5~10年の時間と、巨額な投資を費やさなければならなかった。

■「ボリューム」

EETJ 残りの2つの買収理由も教えてください。

中島氏 ムラタがこれまで開発してきた電池は、セラミックコンデンサーで培った積層技術を生かした少しニッチな電池だった。しかし、ニッチなエリアだけでは、材料コストはなかなか下がらず、トータルのボリューム、量産規模が必要になる。だから“ボリュームを持っているプレーヤー”と一緒にやるということが必要不可欠だった。これが3つ目の理由だ。言ってしまえば、特長のあるニッチな製品で利益を生み出す。そして、ボリュームを狙う製品では、さすがに赤字はダメだが……、ある程度の利益を狙う……、というビジネスモデルを採ることができるようになる。

■黒字化は、あまり難しいとは思わない

EETJ 利益面を考えると、買収する事業はこれまで収益面で苦しんできたわけですが、収益性改善、黒字化の見通しをお聞かせください。

中島氏 まあ、黒字を目標にしても面白くないけれど、黒字を目標にするならば、簡単ではないが、あまり難しいとも思っていない。

 バッテリー事業は作り方や材料などの面で、ソニーの事業としては、特殊な事業だったといえる。だから、バッテリー事業に関わる技術開発は全てバッテリー事業部門が自前でする必要があった。

 けれど、ムラタの中に入ってくれば、セラミックコンデンサー事業など他の事業部門と多層技術や材料技術、モノづくりなどを共有できる。(買収する事業の)限界利益率もそれほど低くはないので、黒字にすることはあまり難しくない。

 10年先の技術開発でも、ソニーであれば、バッテリー事業だけのための開発になるが、ムラタであれば、いろいろな事業と共に開発でき、負担を軽くすることもできる。間接費の見方、モノづくりのやり方が大きく変わるはずだ。

 (ソニーの)バッテリー製造ラインを見たが、われわれが見て「珍しい」と思うような装置はほとんどなかった。粉をこねる装置だったり、シートを敷く装置だったり、コンデンサーの製造ラインで見ている製造装置が並んでいた。同時に、われわれであれば「もう少し工夫するのになあ」という部分もあった。コンデンサーのこれまでの合理化の過程であったり、セラミック多層の合理化の過程であったり、生産を効率化するアイデアはいくつもある。

 黒字化よりも、あくまで事業をどう成長させるかに主眼を置いている。

■「全固体電池技術」

EETJ 成長に向けた戦略は、どのようなものですか。

中島氏 モバイル機器向けは、残念ながら市場が成熟しているが、容量や充放電レートを他社に先んじてアップさせ、シェアを上げていくことが必要だと考えている。

 あとは、ムラタもソニーも手掛けてきたオリビン系正極材を使ったハイパワーな電池があるので、工作機器などの産業用途向けでも伸ばしたい。パワー系電池は、UPSやアイドリングストップなどでも必要であり、需要は伸びる。パワー系では、勝てると思っている。

 リチウムイオン電池で見た場合、われわれは世界シェア5位となるが、1位までちょっと距離がある。さすがに「リチウムイオン電池シェア1位」は難しいと思っている。そこで、近いうちに、全固体電池に入れ替えていく。

 全固体電池開発については、これまで社内でも行ってきたが、かなりソニーが先行し、開発が進んでいる。全固体になれば、ますます、電池の作り方は、積層セラミックコンデンサーと同じになり、いかに薄く、いかにたくさん積むかの世界になる。そこは、ムラタの得意分野だ。

EETJ 全固体電池で、世界シェア首位を目指していくのですね。

中島氏 そういうことになる。実は、この“全固体電池技術を持っているプレーヤー”であることが、4つ目の買収理由だ。

■2018年、全固体電池を製品化へ

EETJ 全固体電池の事業化時期はいつ頃を計画していますか。

中島氏 2018年に製品を市場に出したいと思っている。

EETJ 用途はまず、どこから見込んでいますか。

中島氏 特性としては、ほぼリチウム電池と同じであり、モバイル機器なども用途に含まれるだろうが、最初は、コストが見合う用途からになるだろう。リチウム電池と特性と同じでも、安全性が極めて高いなどの特長が生かせる用途だと思う。

EETJ 自動車向けへの展開は。

中島氏 もちろんあるが、当初は車載以外の容量の小さいところから、経験を積む必要があるだろう。

最終更新:8月18日(木)12時43分

EE Times Japan