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見えないものを作る職業、上野耕平 若きサクソフォン奏者の信念/インタビュー

MusicVoice 8月18日(木)14時9分配信

 若きサクソフォン奏者の上野耕平が8月24日に、自身2枚目となるアルバム『Listen to...』をリリースする。数々のコンクールでの受賞歴があり、クラシック・サクソフォン界において若手ナンバーワンとも謳われながら、『題名のない音楽会』や『報道ステーション』など数多くのメディアに出演するなど、シーンの内外で注目を集めている。その一方で、大の鉄道好きで、遠方の移動には敢えて寝台車を使うほど。そんな彼の夢は「タモリ倶楽部」に出ること。サクソフォンにおいては、既存の枠を超えてその魅力をもっと一般にも浸透させたい、それを実現するための一つの試みがアルバムだ。「クラシカル・サクソフォンとはこういうもの」を掲示した1枚目アルバム『アドルフに告ぐ』に対し、今作は、有名楽曲を「サクソフォンで吹くとまた別の魅力になる」という応用編だ。「普段音楽を聴かない人にぜひ聴いてもらいたい」と語る上野耕平にクラシック・サクソフォンの楽しみ方やルーツ、鉄道の話などを聞いた。

【写真】インタビューカット

歳を重ねていないからこそできる音楽もある

――私のような素人からすると簡単に吹いているように見えますが、実際には難しいと思うのです。吹いている唇も相当、圧力がかかっていそうですし、痛いだろうなと。

 口は痛くなります。歯で下唇を巻いてグッと力を入れるので。歯をちょっと噛むようにプレスし、上の歯はそのままマウスピースにくっつけます。

――サクソフォンの素材は真鍮で、なかには銀を使ったものもあるとか。素材によって音色は変わりますか?

 全然違います! アドルフ・サックス(編注=1800年代に活躍したベルギーの楽器製作者)という方が作ったものですが、彼はベルギーのディナンという小さい街の生まれでして、そのディナンという街は真鍮細工で有名で。ですので、楽器職人がたくさんいます。アドルフ・サックスのお父さんも楽器職人でした。

――アドルフ・サックスは1840年代当時にサクソフォンという万能楽器を作ったことで同業者から煙たがれたという話を聞いた事があります。これまでの楽器が使われなくなってしまうと危惧したとか。

 ライバルメーカーから自分の工房に火を点けられたりとか、裁判を仕掛けられたりとか、本当に大変だったみたいです。サクソフォンの音色がすごく魅力的だったので、政治的に利用されたら困るという事で“サクソフォン禁止”という国もあったとか。

――オーケストラの中にも入れてもらえず、という話も。

 そうですね。あるとしても数曲くらいです。ボレロが一番有名です。

――軍にも使われたりと。

 音も大きいから外でも使えますし、とても便利なんです。木管楽器のメカニズムなので細かい音符も大きい音で吹けるという、木管楽器と金管楽器の“良いとこ取り”です。木管楽器は細かい動きがたくさん出来ますが、金管楽器に比べると音量が少し足りない。金管楽器は音量があってすごく華やかですが、ピストン3つで操っている楽器なのでそこまで小回りがきかない。サクソフォンはその両方の良いとこ取りした楽器ですので、僕は世界一良い楽器だと思っています。

――息を吹き込んで音を奏でる点においては、吹く人の思いが伝わりやすく、その人のキャリアや人生がそのまま反映されると思います。

 僕もそのように思います。

――上野さんの演奏はとても綺麗で、且つすごく情熱的で、感情を自由自在に乗せられているという印象です。しかも24歳と若い。年齢を重ねるという事と、重ねていないという事のそれぞれにアドバンテージがあると思いますが、どのようにお考えですか。

 歳を重ねたからこそ出来る音楽と、歳を重ねてないからこそ出来る音楽、というのは絶対あると思います。僕は24歳ですが、やっぱり30歳、40歳の方達には人生経験では全く敵わない訳です。しかし、知らないからこそ出来る事と言いますか、そういうのがあると思うのです。自分でも、数年前の演奏を聴いて「今は出来ないし、こうしようとも思わないよな…」というふうに思います。だからCDなどは、言い方は良いかどうか分かりませんが、その時その時の記念撮影みたいなところもあるのではないかと思うのです。その時の様子が刻まれるといいますか。

――逆に振り返った時に恥ずかしい点などはありませんか? それも含めて誇れるものですか?

 いや…どうでしょうか(笑)。やっぱりちょっと恥ずかしいでしょうね。あまり自分の演奏は聴きたくないので(笑)。

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最終更新:8月18日(木)14時9分

MusicVoice