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【オーストラリア】【有為転変】第104回 パプアニューギニアの悲哀

NNA 8月19日(金)8時30分配信

 初めて訪れたパプアニューギニア(パプア)の首都ポートモレスビーの町は、貧しいが一見平和な町に見えた。滞在したホテルから1キロほど先に、ホホラ市場(Hohola Market)があるのを見つけ、夕方6時頃にぶらりと訪れると、多くの市民が集まり、農産物などを広げていた。だが、しなびた野菜や果物をわずかに並べている程度で、買っている人はほとんどいない。市場どころか、難民収容所という雰囲気さえある。
 翌日、ホホラよりやや大きなコキ市場(Koki Market)にも足を運んでみたところ、ここはやや整然としていたが、やはり地元住民が食料品を調達する市場という雰囲気はなく、怪しげな雰囲気さえ漂う。驚いたのは、ひと握りの黒ずんだ古いピーナツが1キナ(約32円)などと、農産物価格がとても高いことだった。
 ホテルに戻り、ホホラ市場に行ってきたと男性従業員に言うと目を丸くして驚き、他の従業員と話題にしていた。現地に住むビジネスマンらにも話すと、皆一様に青い顔になって絶句し、それら2つの市場は外国人には極めて危険な場所として有名だと呆れられた。盗品取引場にもなっており、「襲われなかったのが奇跡ですよ」とまで言う。彼らのひとりも町で身ぐるみをはがされたことがあり、夕方以降は外を出歩かないと言うのに、わざわざワニがうようよいる川に飛び込んだわが愚行には、目を覆わんばかりだったのだろう。
 
 ■オニオン・クライシス
 
 現地関係者らによると、ポートモレスビーの治安の悪さはともかく、農産物価格が高いのは理由があるようだ。昨年から今年にかけて、パプアで「オニオン・クライシス(タマネギ危機)」と呼ばれる騒動が起きたことだ。それは、パプア政府が昨年8月に突然、タマネギやジャガイモなどの野菜や果物のほか、酪農製品の海外からの輸入を全面的に禁止したことだ。
 トムスコール農業相は公式的には、あくまでも食品検閲管理上の問題と、国内の農業を保護するのが目的だと説明した。主な野菜輸入元だったオーストラリアのクイーンズランド(QLD)州からは、年間320万豪ドル(約2億5,000万円)相当の野菜輸入が止まったという。
 だがこの政策は、輸入農産物に頼り切っていたパプア国民の食生活を大混乱に陥れた。不運にも、エルニーニョ現象による干ばつがパプアを襲ったため、国内農業保護策は実を結ばず、農産物の生産高はほとんど増えなかった。
 国内のスーパーで売られる食料価格はわずか数カ月で25%も上昇し、政府は輸入規制を11月に緩和せざるを得なくなった。世界食糧機関の最新リポートによると、パプアではいまだに20万人以上が食料支援を必要とする状態にあるという。
 
 ■オーストラリア依存からの脱却
 
 オニール首相は、政治的にも経済的にもオーストラリア依存から脱却したい意向で、今回の輸入禁止措置は、その意思表示のひとつとみられている。
 パプア国民の中にも、オーストラリアに対する、ナショナリズムが入り交じった複雑な劣等意識の存在を指摘する声は識者らの中で多い。
 
 パプアは1975年に独立するまでオーストラリアの統治下にあり、政治行政システムも同じ体制を共有している。いまだに行政機関にはオーストラリア人が何人もいるし、外国企業もオーストラリア人が中枢を占めている。オーストラリアだけに、豪ドルの対キナ相場は特別レートを提供されているというまことしやかな話まであるほどだ。
 昨年度のオーストラリア政府のパプアに対する政府開発援助(ODA)は5億5,000万豪ドルに上り、民間合わせた総投資額は180億豪ドルに達している。
 パプアの農業が発展して痛手を受ける国があるとすると、当然オーストラリアである。農産物の多くはQLD州から出荷されているほか、全売上高の3分の1を、パプアへの輸出や同国事業から得ているオーストラリア最大のコメ生産組合サンライスなどが打撃を受けるはずだ。
 
 ■オーストラリアが背後に?
 
 かつて統治していた国が発展するのはいいとしても、旧宗主国にすれば、自国の産業を脅かすようには発展してほしくないものだろう。その意味で、農業大国であるオーストラリアが、パプアの農業発展をどこまで寛容に見ていられるのか、というのは興味深いところだ。
 くしくもオーストラリアは8月、キース・ピット貿易次官をパプアに派遣し、オーストラリア主導で進めている経済連携構想である「太平洋諸国経済協力会議(PACER)」への協力を呼びかけたが、パプアはけんもほろろに袖にしている。
 パプアでは今年5月、オニール首相退陣を求めた学生暴動が拡大し、大きな社会問題になっていた。
 「オーストラリア政府が入ってきて介入し、オーストラリアの影響力を拡大させるべきだ」――。豪公共放送ABCはその際、反政府運動を主導する学生リーダーの声を声高に紹介していた。
 <NNA豪州編集長・西原哲也>

最終更新:8月19日(金)8時30分

NNA

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。