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異色のテクノロジー番組『徳井バズる』は若手2人の“社内副業”で生まれた 思いを形にするコツは?

ITmedia ビジネスオンライン 8月19日(金)6時40分配信

 「遊べる学べるテクノロジー」――そんなフレーズを掲げて毎日放送(MBS)で始まった番組がある。お笑い芸人・チュートリアルの徳井義実さんをメインMCに据えた『徳井バズる』(全3回予定)だ。

【ゲストはスピードワゴンの小沢一敬さん】

 7月15日に放送された第1回は、ゲストにスピードワゴンの小沢一敬さんを招き、古民家でロボット「Pepper」とともに進行。会話ができるロボット「ロボホン」やスマートハウス、漫才ネタやCMを制作できる人工知能(AI)──などを特集。マジメにテクノロジーを取り上げる番組なのか……と思いきや、デリケートな部分をナデると反応してくれる等身大抱き枕なんてものも登場した。

 この番組、本気なのか、それともふざけているのか? 新番組を生んだのは、アラサー若手社員2人による“社内副業”だ。番組の狙いや経緯をMBSの営業マン、真田昌太郎さんとプロデューサー、亀井博司さんに話を聞いた。

●目指したのは“テクノロジーで大喜利”

 「『ドローンの活用』と言っても、興味がない人にはピンと来ない。でも、『ドローンでブラジャーのホックを外す』と言ったら、『なんだそれ!?』と引き付けられるんじゃないか」(亀井さん)

 お前は何をいっているんだ……と思わず言いたくなるが、亀井さんは真剣だ。もともと最新テクノロジーやアニメが大好きだった亀井さんは、テクノロジーを扱った番組にもどかしさを感じていたのだという。

 「バラエティー番組は『面白いけど中身がない』、一方でテクノロジー番組は『内容が充実しているけど難しい』となりがち。ベンチャーやテクノロジーは面白いもの。興味がない人にも分かりやすく楽しめて、興味がある人も『おっ』と思ってもらえる、テクノロジーで“大喜利”をするような番組作りができたら」(亀井さん)

 そこで考えたのが『徳井バズる』だ。「家電芸人」として有名でテクノロジーにも関心のある徳井さんをMCに立てて、バズる(ネットで話題になる)ようなトピックを紹介するバラエティー番組。

 「ゲストの小沢さんは普段あまりテクノロジーに親しんでいないので、視聴者と一緒に世界に導入していく役割を担ってもらっている。徳井さんと小沢さんはプライベートで同居していつもコミュニケーションをとっているので、2人の独特な世界観があってトークも面白い」(真田さん)

 好対照の2人に紹介してもらうテクノロジーは、見て分かりやすいもの、トンがっているもの。

 「スポンサーのトピックを中心に据えながら、関連するテクノロジーで面白いものをリサーチした。AIだったら、人工知能学会にコメントをもらいつつ、漫才するAIやニュースを作るAIを紹介。トータルで見て内容の濃い番組を目指した」(真田さん)

 視聴者の反応はというと、賛否両論だ。「めっちゃ面白い」「ロボホンかわいい!」といった肯定的な声もあれば、「才能の無駄遣い」といった反応も。

 「ネットでの評判に関しては、無名よりも悪名。どんなコメントであっても、ちょっとでも見てもらえた、情報が浸透しているという証だと思っている」(亀井さん)

●きっかけはハッカソン

 『徳井バズる』は、真田さんと亀井さんのほぼ2人だけで立ち上げた番組だ。企画書を亀井さんが書き、営業制作費を真田さんが集める――という役割分担。しかしもともと、2人はバラエティー番組の制作班ではない。真田さんは番組のスポンサー(CMの出稿クライアント)を募る営業担当で、亀井さんは「Rewrite」「食戟のソーマ 弐ノ皿」「DAYS」「七つの大罪 聖戦の予兆」などを担当するアニメのプロデューサーだ。

 以前所属していた部署、報道局ニュースセンターで先輩と後輩だった2人。しかし部署が離れ、仕事上の交流は少なくなっていた。そんな2人が再び出会ったのは「MBSハッカソン」。このハッカソンが、番組を作る直接のきっかけとなった。

 ハッカソンとは「ハック」と「マラソン」を掛け合わせたイベント。ソフトウェア開発者やIT技術者が一定期間、集中的に共同でコンテンツやサービスを開発し、そのスキルやアイデアを競う。亀井さんと真田さんは、メンターとスポンサー対応というそれぞれの立場で「MBSハッカソン」に参加していた。

 真田さんは、「ハッカソンは、エンジニアと一緒に何かを作ったり、エンジニアに知らないことを教えてもらうコミュニティーとしては素晴らしい」と考えている。その半面、せっかく知り合って仲良くなっても、お互いのビジネスにつながりづらいという面があるのが現状だ。

 「テレビ業界は、実はすごく閉じた世界。番組制作は実績のある制作会社としか付き合わないし、広告も予算的な面から大手企業や代理店ばかりと取引する傾向がある。付き合いが広いようでとても狭い。新しくワイワイできるコミュニティーを作りたいと思った」(真田さん)

 テクノロジー業界と、ベンチャー企業のつながりができて、テクノロジーがビジネスになるために、できることはなんだろう――そう考えた末に、「やっぱり、テレビ局である僕たちができることは番組を作ること」という答えにたどり着いたのだという。

●“社内副業”を成功させるコツは?

 いくらテレビ局の社員と言っても、2人はバラエティー番組制作の未経験者。社内では温かく受け入れられなかったのでは……と思うところだが、社内の反応は悪くなかった。「テクノロジーをバラエティーに落とし込む」というコンセプトに賛同してもらえ、「いい目のつけどころだ」という評価の声もあった。

 企画が通った大きな理由の1つは、企画だけではなく、ビジネスモデルまで考えたことだ。“スポンサー枠”を設け、番組内で製品を紹介してスポンサードを受けることで、局側の制作コストをゼロに押さえた。

 「多分、どちらか1人だけでは企画は通らなかった。営業の僕だけでは『もっと稼げ』と言われただろうし、プロデューサーの亀井だけだと『もっと面白くやれ』と言われただろう。2人だから、面白いし、ビジネスとしても成立する――というバランスを考えて番組作りができた」(真田さん)

 「僕たちは2人とも営業経験があるし、報道記者として取材経験もある。そういう意味で、コンテンツとお金のバランスはうまく取れたのではないか。MBSは人数がそう多くない会社なので、やりたいことがあって周囲を説得できるなら実現できる土壌がある」(亀井さん)

 ただし、条件はある。それは“本業”――つまり、『徳井バズる』以外の本来の業務、営業やアニメプロデューサーの仕事に支障をきたさないこと。時間はどうやって作っていたのだろう。

 「1日の仕事の時間が午前10時から午後6時までとして、ずっと仕事が埋まっているわけではない。空いているところに真田との相談やテック系の企業とのアポを入れ、集中的に打ち合わせた。あとは、プライベートでテック系の方が参加される夜の飲み会に参加したり、土日に遊びに行くイベントでも番組のセールスをしたり名刺を渡したりした」(亀井さん)

 それってむしろ、24時間が仕事なのでは……? と震えてしまうが、亀井さんは「やりたいからやっている。だからめっちゃ楽しい」と即答する。

 「『これが好きだ』『これがやりたい』と言い続けるのが大事。『こいつおかしいんちゃうか?』と思われても、情感を持って好きなものについて語れれば相手に伝わるし印象に残る。みんなに好かれることを目指すよりも、面白いなぁと関心を持ってもらったりシンパシーを感じてもらう。『そんなに言うんやったらやって見れば?』と返してもらえれば成功」(亀井さん)

 営業の真田さんは、本業のクライアントとのアポの合間をぬって『徳井バズる』に打ち込んだ。「言ってしまえば気合」と苦笑しつつ、「隙間時間を全力で使い、意識的に時間を作っていくイメージ」と語る。

 「ちょうど普段の仕事がうまく回り始めたタイミングだったのもよかった。“本業”がうまくいっていなければ、“副業”は良い目で見られない。『新しいことをやりたい』という気持ちに直属の上司が賛同してくれて、味方が増えていった。最終的には、腹をくくって背負えるかどうか」(真田さん)

 真田さんは7月から人事部に異動し、大阪勤務となるが、そちらでも引き続き『徳井バズる』に関わっていく。

 営業ノルマや面白さについて「できるか?」と聞かれたら、「絶対やります!」と言い切る。そのときに「できないかもしれないけど……」と返していたら、任せてもらえない――。時間調節と日ごろの行動、熱意をアピールすることが、社内副業に必須なポイントだ。そしてそのスキルは、新規プロジェクトや重要な案件の立ち上げにおいても重要なのかもしれない。

 『徳井バズる』は全3回の予定。8月26日の深夜1時25分から放送する第2回はVR(バーチャルリアリティー)や3Dプリンタを中心に取り上げる。3Dプリンタでは、「9人の女性を集めて、徳井さんと小沢さんに理想の太ももとヒップを選んでもらう。その人をハンド型のスキャナーでスキャンして、3Dプリンタで出力する」という企画を予定している。もちろん、伝えたいことは”3Dプリンタによる革新”という真面目なテーマだ。

 「テクノロジーを取り上げた番組はMBSでも初めての挑戦だったので、トライアルな部分が多くなると想定していた。『1回1時間の特番でいいのでは?』という声を抑えて全3回で立ち上げたのは、トライ&エラーを繰り返し、番組の方向を捉えたかったから」(真田さん)

 初回の視聴率は3.4%。深夜時間帯放送を考えると“まずまずの数字”とも、もっと上を目指せる数字ともいえる。2人が目指すのはレギュラー番組化だ。

最終更新:8月19日(金)14時54分

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