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無料配信とも読み放題とも違う――自分だけのジャンプを作れる「Myジャンプ」の狙い

ITmedia Mobile 8月19日(金)6時25分配信

 集英社が8月8日にから提供している「Myジャンプ」は、『週刊少年ジャンプ』で掲載された作品をユーザーが自由に選んで毎週配信できる、新しいタイプの電子雑誌だ。例えば70年代に連載された『プレイボール』と、現在連載中の『ONE PIECE』を同じ雑誌に掲載できる。料金は10作品が月額480円(税込)、20作品が月額840円(税込)。

【「ジャンプ再生紙モード」も搭載】

 さらに、各作品のお気に入りのエピソードだけをまとめた世界で1冊だけのジャンプを制作できる「MyジャンプBEST」機能も用意。アプリ上で公開したり、他ユーザーのMyジャンプBESTを購入したりできる。

 Myジャンプはどのような狙いで開発されたのか。デジタル事業課の森通治氏と、週刊少年ジャンプ編集部 副編集長/少年ジャンプ+担当の細野修平氏に聞いた。

●新しい“作品との出会いの場”を作りたい

―― まずは、「Myジャンプ」を開発した背景を教えてください。

森氏 今、新しい電子書籍の読まれ方が広がっています。弊社ではLINEさんやKDDIさんとパートナーシップを組ませていただいて、5~6話のおすすめ作品を無料で配信しています。それがきっかけで電子書籍を購入いただいたり、2~3割の方は紙の単行本も買っていただいたりしています。「少年ジャンプ+(以下、ジャンプ+)」でもリコメンド連載をやっています。たくさん人が集まる場で、マンガを5~6話ぐらい読んで、作品を知っていただき、購読につながるパターンがここ2、3年でできています。

 もう1つ、読み放題のモデルが雑誌の中心になりつつありますが、われわれとしては、マンガは違う軸で戦えると思っています。読み放題ではないけど、ジャンプだからこそできることを1つやってみたい。

 加えて、1人1人に合ったコンテンツをおすすめする仕組みが確立できています。ジャンプ+では作品を生み出して、「ジャンプBOOKストア!」ではコミックス化されたものを売る。その間にある“作品に出会える場”をもう1つ作ると、2つのアプリの相互補完にもなり、作品のプロモーションになります。

―― Myジャンプでは、ユーザー自らが編集長になり、掲載作品を選べるのが面白いですね。このようなスタイルにした理由を教えてください。

森氏 僕らもいろいろな取り組みをやってきました。読み放題も期間限定でやりましたが、たくさん量があっても、必ずしも(好きな)作品と出会えるわけではありません。たくさん並べられると、どれを選んでいいか分からないし、読み放題だと「後で読んでもいいだろう」となります。

 であれば、あえてお客さまに選んでいただく形にして、自分の好きなものを組み合わせる仕組みがいいと考えました。リコメンデーションエンジンの会社とも提携していて、Myジャンプで選んだ作品から他の作品を勧める仕組みもあります。そうすることで、作品との出会いも広がります。

―― そこで勧められた作品に、途中で変更することはできるのでしょうか?

森氏 (Myジャンプの)ラインアップは毎週変えられます。(紙のジャンプで)ここで読むのをやめたな、という作品があれば、そこから読んでもらってもいいです。必ず第1話から選ばないといけないわけではありません。

―― リリース後の反響はいかがですか。

森氏 Twitterやネットでは、8割ほどがポジティブな意見ですね。ありがたいことに、ジャンプを愛していただいている方に支持いただけているのかなと。一方で、これはもくろみ通りではありますが、「毎週読むのはじれったいから、電子書店で買う」「漫画喫茶で読む」という意見もありました。週刊誌に慣れ親しんだ人が、ジャンプを懐かしいと思って読んでいただけるところを狙っているので、そういう方はいるだろうと想定はしていましたが、思ったよりも少ないという感触です。

―― Myジャンプが売れすぎて、単行本の売り上げが減る恐れもあります。

森氏 やってみないと分かりませんが、そうはならないと予想しています。実は「(1週間待つ)じれったさ」は大事で、「何となく知っていたので読んだら面白かったので、単行本を買っちゃった」という流れは狙っています。MyジャンプからジャンプBOOKストア!に送客できる仕組みも用意しています。

―― 1週間を待たずに、次号を購入することもできるのですか?

森氏 はい。10作品250円(税込)、20作品400円(税込)で単価は上がりますが、先読み機能を付けています。ご自身のペースに合わせて、1号多く読んだり、週1にしたりできます。

●メインターゲットは20代後半~40代男性

―― Myジャンプで想定しているユーザー層や年代を教えてください。

森氏 ずばり、20代後半~40代男性です。大人になってジャンプを離れてしまった方もいらっしゃるでしょうし、電子書店では30代ぐらいの方々がメインユーザーなので、そこを狙っていきたいです。その世代に響くよう、鳥山先生にマスコットキャラクターを描いていただきました。

―― それもすごい。アプリ向けにイラストを描いていただけるのは珍しいですよね。あらためて、鳥山先生にお願いをした経緯を教えてください。

森氏 30~40代男性なら「ドラゴンボール」や「Dr.スランプ」を愛読している方が多いだろうと。“ジャンプの顔”として誰もが異論を挟まない作家さんということで、ダメ元で鳥山先生にお願いをしたら、ご快諾いただけました。

―― メインのキャラクターが女の子ですね。

森氏 このアプリがそもそも分かりづらいというのは僕らも思っていて、実際にお客さまからも指摘があります。日頃の使い方をサポートしてくれるキャラクターは絶対必要だねと。Myジャンプでは作品との出会いを演出したいので、機械的におすすめされるよりも、キャラクターを通しておすすめしてくれる方が親近感が湧きます。

 先ほど男性を狙うと言いましたが、男の編集部員が付いてもうれしくないけど(笑)、かわいい秘書の子がマスコット的にいたらいいなと。女性にも好感を持ってもらえるよう、秘書だけど元気な女の子にしていただけました。鳥山先生いわく「スーパーアシスタント」です。

―― ホンボットも鳥山先生らしいロボットのキャラクターですね。

森氏 デジタル雑誌は実際には印刷されないけれど、毎回表紙をカスタマイズして届けるので、印刷する過程を疑似的に再現したいと思っていました。印刷するプリンターも含めて、ちょっとポンコツ感があるけど親しみのあるロボットをお願いしました。

●ジャンプの作品は全て配信したい

―― リリース当初は約230作品が配信されていますが、今後はどれぐらいのペースで作品を増やしていくのでしょうか。メジャーな作品では「北斗の拳」「シティーハンター」「聖闘士星矢」などはまだ配信されていません。

森氏 皆さんが本当によくご存じのメジャーな作品も含めて、実は数10作品ほどは既に許諾をいただいています。月10~20は増やしていけるペースですね。

 この企画では、ジャンプの全作品を配信したいと思っていますし、30~40年前の作品もそろえたい。権利は作家さんにあるので、1つ1つ説明をして許諾をもらえるよう働きかけています。何百人という作家さんがいらっしゃるので、全ての方々にはまだご説明に上がれていないのですが、まずは2000年以降の作品を中心に許諾をいただいています。今回の企画を機に、60作品ほどがデジタル化されました。

―― 10週で終わってしまったような作品も配信されるのでしょうか。

森氏 ジャンプに載るということは、すごい作品なので、どんな作品でも載せていきたいですね。ジャンプの作品は全て打診させていただきたいと思っています。

―― 新しい作品が配信されたら、アプリ上で何らか告知はされるのでしょうか。

森氏 していこうと思います。何の作品が配信されているのかが分かりづらいという声はいただいていて、どういう場で紹介するかは検討しています。

●友達から面白いと言われた方が興味を持てる

―― 他のユーザーが公開したジャンプのラインアップを見て、購入できるのも、アプリならではの取り組みですね。

森氏 マス広告は有効な施策ですけど、けっこうお金はかかります。一方で、ネットはソーシャルの広がりが強く、友達(他の読者)から「この作品面白いよ」と言われる方が興味を持ってもらえます。

 世界で1冊のジャンプを発行できる「MyジャンプBEST」を作るのは、相当面倒なんですよ。作品を選んで、さらに何百話から話を選んで、それを10または20作品分繰り返すので。でも、アプリのリリースから数時間でドカドカドカッと作られて。僕らからすると、よく作れたなと(笑)。正直、1週間で数冊ぐらいかなと思っていたんですけど、想定以上に作られました。

―― MyジャンプBESTのランキング上位を見ると、「乳首券発行済み作品」がしばらくトップをキープしています(笑)。

森氏 (笑)題名は過激なんですけど、実際に読んでみるとけっこう面白いんですよ。ああ、なるほどな~と。

―― ランキングはどういう基準で決まるのでしょうか。

森氏 読んでいただいた数ですね。(ランキングの)ロジックは調整しているので、はっきりとは申し上げられないのですが。電子書籍では巻数が多いものがランキング上位に来ますけど、ここでは巻数が少ない作品もランクインしていて、1つの手応えを感じています。

●「少年ジャンプ+」への好影響も期待

―― ジャンプ+にとって、Myジャンプはどんな存在ですか。どんな影響があると考えていますか。

細野氏 ジャンプ+では無料で読んでいただく形、ジャンプBOOKストア!では単行本を買っていただく形を提案してきました。Myジャンプは読み放題的なところもありながら、自分で選べる、新しい読み方を提案できたと思っています。これまでも、読者にとってどんな形がいいかを実験してきたところがあるので、Myジャンプもそういう意味では1つの実験だと思っています。

―― Myジャンプからジャンプ+への導線はあるのでしょうか?

細野氏 今のところはありませんが、ジャンプのことを語ってくれる人はこれで増えるだろうと思っています。それはジャンプ+にとっても大きくプラスになると思います。あとは、これまでのジャンプ系アプリの中でも、Myジャンプはユーザー動向を測れる最も優れたアプリなので、そこからのフィードバックは期待しています。

 例えば、Myジャンプで人気があった作品をジャンプ+でレコメンド連載するという単純なことから始まって、(Myジャンプで)今も読まれる懐かしいマンガがあるなら、それを元に(ジャンプ+で)新しいマンガを作るという新企画にもつながります。

―― ジャンプ+の作品をMyジャンプで配信することは検討していないのでしょうか? ジャンプ+にも本誌に載っていてもおかしくないほど面白い作品があると感じています。

森氏 そのような声は既にいただいているので、前向きに検討しています。

―― ジャンプ+のダウンロード数など、現状を教えてください

細野氏 ダウンロード数は550万で、想定以上に伸びています。1000万を目標にしていますが、ダウンロード数よりもアクティブユーザー数を増やしたいと思っています。4~5月の新連載の成果で、毎週のアクティブユーザーが110万から130万に伸ばしました。その起爆剤になったのが、「ファイアパンチ」と「終末のハーレム」です。

―― 2作品とも過激な描写が多いので、本誌での掲載は難しそうですよね。ジャンプ+とジャンプ本誌に掲載する作品は、どのように切り分けているのでしょうか。

細野氏 ジャンプ編集部の考えとして、本誌もジャンプ+も、編集者に「こういう方針で作品を持ってこい」とは言わないんですよ。「面白いものを持ってこい。以上」みたいな感じで。編集者が出し分けを考えています。

―― ジャンプ+向けの作品はあるのでしょうか?

細野氏 本誌では試しづらそうなものをやってみよう、というところはあります。本誌で連載が始まった「約束のネバーランド」の作家さんは、もともと読み切りをジャンプ+で試していたんですよ。本誌だと少し方向性が違うところがあるので、そこを足掛かりにして、本誌にステップアップできました。ジャンプ+は、刺激が強いものや、短期的に話題があるものが受けると思っています。

●無駄かもしれない機能をあえて搭載した

―― 他のユーザーが公開したMyジャンプBESTに、コメントを付けられる機能を追加する予定はありますか?

森氏 あり得るとは思いますが、コメントは運営側の視点だと難しいんですよね。誹謗中傷や公序良俗に反しているかを管理せざるを得ないのですが、ユーザーさんは、あまり管理されたくないと思うんですよ。なので、今はまだ難しいかなと思っています。

―― 他に、今後追加したい機能や企画はありますか?

森氏 僕らからおすすめ作品をピックアップする取り組みはやっていますが、ユーザーさんの声を集めた企画はやってみたいとは思っています。例えばジャンプにまつわる思い出を語ってもらったり、座談会をやったりですね。

―― 表紙とアオリ文は自動で生成されますが、自分で作りたいというニーズもあるのでは?

森氏 そういうご意見があるのはごもっともなんですが、ただでさえ(配信作品と話を決めるのが)面倒なので、さすがに表紙まではやってくれないだろうと。例えば「ジャンプカメラ!!」アプリと連携する方法もありますが、技術的なハードルもあります。

 どこまで許すのかという問題もあります。例えば少年マンガの主人公の顔を女性のスカートの中に入れることもできてしまいます。アオリ文もある程度カスタマイズ性を出すことも考えましたが、どこまで許すべきかのルールができていません。とはいえ、表紙の表現は、まだ広げられる余地はありますね。

―― マンガのビュワーもこだわったそうですね。

森氏 外部の会社と共同開発をして、かなりこだわって作りました。例えば、「目次」を押すと作品の絵と話数が出たり、目次から作品を選んですぐに飛べたりできます。これらは既存のビュワーだとできないんですよ。「ジャンプ再生紙モード」という機能も入れて、当時の紙を疑似的に再現しています。僕らは“ジャンプ”を読んでもらいたいので、無駄かもしれない機能もあえて入れました。

―― 目標のダウンロード数はありますか?

森氏 Myジャンプでは、ダウンロード数は指標にしていません。何人の方に読んでもらったか、ジャンプBOOKストア!やジャンプ+にどう送客するか、全体がどう盛り上がるのかがキーになるので、ダウンロード数が適するアプリではないですね。まずは定期購読者数を積み上げていくことに注力していきます。

最終更新:8月22日(月)14時2分

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