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“つまらない”ボクサー細川貴之が見せた最高の試合

デイリースポーツ 8月19日(金)11時0分配信

 “試合がつまらないボクサー”が苦難の末、ついに覚醒したかもしれない。7月31日、大阪・住吉区民センターで行われた東洋太平洋スーパーウエルター級王座12回戦。王者・細川貴之(31)=六島=が同級2位の挑戦者・斉藤幸伸丸(37)=輪島功一スポーツ=を相手に2度のダウンを喫しながら、執念の判定ドローに持ち込み、初防衛を果たした。

 戦績は28勝(9KO)10敗5分け。一発豪打があるわけではなく、サウスポーから相手を幻惑するトリッキーな動きが持ち味。常に際どい判定決着をものにし、タフに生き残ってきたベテランだ。

 今春、MBS「明石家電視台」の収録に参加した際、司会の明石家さんまから、細川の紹介を求められた元世界2階級王者の長谷川穂積(35)=真正=は一瞬、言葉に詰まった。そして、「試合がおもしろくないんですよね」と苦笑い。会場に集まっていたボクサー50人は思わず笑った。

 そんな細川史上、斉藤戦は「最高だった」と関係者は口をそろえた。2回、踏み込んだところに右フックを合わされ、ダウンを奪われた。中盤以降、何とか盛り返したが8回、今度は左フックを合わされ、膝を付いた。

 8回を終わり途中採点は3人のジャッジともに74-76とリードされた。崖っぷちで「倒さな勝たれへん」と尻に火が付いた。いい意味で“ぶち切れた”。

 左右フックは全弾フルスイング。相手の懐に入って被弾もおかまいしなしに乱れ打ち。「来い来い」のジェスチャーに絶叫。斉藤をロープに追い詰めた。中量級の打ち合いはド迫力。会場の盛り上がりはもちろん細川史上、最高潮に達した。終盤にポイントを重ね、ジャッジ2人が113-113のドローを付け、薄氷で王座陥落を回避した。

 細川は14年に悲願の日本王座を獲得したが、右目網膜裂孔のため返上。昨年11月に東洋太平洋王座を奪い2冠に輝いたが、この試合でアゴを骨折し、長期離脱。9カ月ぶりの復帰戦は最悪のコンディションだった。

 二人三脚で歩んできた枝川孝会長から見放された。ジム頭としての役割を果たさず、指示された仕事をすっぽかして知らんぷり。そんな態度に会長も激怒し、「人間として許せない。もう知らん」と師弟の縁を切られた。

 試合1カ月前、丸刈りにして全面的に謝罪。許されたわけではないものの、試合のために再タッグ。当然、コミュニケーションはなく、練習で綿密な作戦は立てられなかった。

 さらに試合3日前に39度の発熱もあった。「スタミナが全然持たなかった。足が動かなかった」と12回、持ったのが信じられなかった。「会長に怒られて、まともに自分を見てもらえなかったことが苦しい試合につながった」。心身ともに絶対絶命を乗り越えたことが今後の糧になる。

 自らを「何の才能もないボクサー」と細川は言う。注目もされず地道に平凡に積み上げてきたボクサー人生で現在、IBF世界3位にランクされる。人気も実力も世界の怪物王者がひしめくこの階級で世界挑戦となれば、誰にも“つまらない”とは言わせない。(デイリースポーツ・荒木 司)

最終更新:8月19日(金)11時32分

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