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「在庫は資産」を成立させる半導体商社がいた

EE Times Japan 8月19日(金)12時39分配信

 2015年、半導体業界にはM&Aの嵐が吹き荒れる1年となった――。

 その勢いは2016年になっても収まる気配がなく、ソフトバンクによるARM買収、Analog DevicesによるLinear Technology買収と、業界を揺るがす話題が相次いでいる。この業界再編は、半導体商社にとっても変革期を迎えたことを意味するだろう。

【写真:最大の特長は“在庫は資産”を掲げていること】

 そこで、EE Times Japanは、「業界再編の波に、半導体商社はどう立ち向かうのか」と題して、各社トップへのインタビューを進めている。今回は、Future Electronicsの日本法人フューチャーエレクトロニクスで社長を務める徳永郁子氏だ。在庫をなるべく抱えたくないのが一般的な半導体商社。しかし、同社は“在庫は資産”の理念を掲げる。

■Avnet、Arrow、WPGに続き世界4位の規模

 Future Electronicsは1968年に創立し、カナダのモントリオールに本社を置く。2016年8月現在、169拠点49カ国に展開する半導体商社だ。従業員数5000人、顧客は300社を超える規模だが、株式非公開のプライベートカンパニーであり、売上高などの業績は非公開となっている。

 米国業界紙「TOP Distributors 2016」によると、電子部品ディストリビューター売り上げ規模では、Avnet、Arrow、WPGに続き世界4位である。TOP Distributors 2016では、Future Electronicsの売上は50億と予測されているが、徳永氏は「ほとんどの社員も、正確な業績数値を知らされていない」と語る。

 日本法人の組織体系としては、照明器具メーカーを対象としたLEDソリューションを提供する「FLS」、半導体・電子部品を提供する「FAI」事業部の2つが主軸である。グローバルでみるとFAIの売り上げが多いが、国内は照明のLED化が早く進んでいるため、FLSの売り上げが主力になっている。FAI、FLSの事業とは別に、他の電子部品・半導体商社との協業を行う「BPP(ビジネスパートナープログラム)」と呼ぶ事業も展開している。

 また、イギリスとシンガポールにも本社機能があり、それぞれ倉庫・配送センターを持つ。在庫状況は、全世界をカバーするシステムでリアルタイムに把握でき、もしシンガポールに在庫がなかったとしても、モントリオールから調達するといった方法を選択可能だ。約300人のエンジニアを世界中に配置し、設計サポートも展開している。

「在庫は本当の意味での資産だ」

 冒頭にも述べた通り、同社の特長は“在庫は資産”を掲げていることにある。その例として、「BIM(Bonded Inventory Management)」と呼ぶプログラムがある。

 BIMは追加料金なく、顧客が出した生産計画に対して、3カ月分の在庫を常時確保するというサービスだ。こうしたサービスは、他の商社ではあまり見受けられない。なぜなら、商社にとって“在庫は資産”というよりも、“在庫は経営を圧迫するリスク”という側面が強いからだ。在庫は量が増えると、キャッシュフローを悪化させる上、売れ残り不良在庫となるリスクも増大する。

 一般的な半導体商社の在庫回転期間は、1~1.5カ月だ。見通しが甘くなりがちな顧客の生産計画をうのみにして、3カ月分も在庫を商社が抱えてしまったら、不良在庫のリスクは相当に高くなる。それにもかかわらず、Future Electronicsは、カスタム品にこそ制約を設けるものの、顧客の生産計画に沿い3カ月分の在庫を常時確保するというのだ。

 国内半導体商社での勤務経験が長い徳永氏は「“持つことは悪”とされる在庫を3カ月分以上も持っていることに驚き、戸惑った。これまでの経験上、あり得ない在庫の量だった。だが、商社が在庫を多く持つことは、顧客側にとって利点でしかなく、この点がFuture Electronicsの大きな強みになっている。当社が大事にしているのは、“在庫は本当の意味でアセット(資産)”であること。こうした思い切ったことができるのも、全てはキャッシュフローを気にしなくて済むプライベートカンパニーだからこそ」と語る。

■自由に販売できる在庫は60%以上

 また、一般的な商社は、1~1.5カ月分の在庫である上、「その在庫のほとんどは、あらかじめ販売先が決まっているものが多く、自由に販売できる在庫量は15%未満程度」という。それに対し、Future Electronicsは、顧客にひも付けされていない自由に販売できる在庫は60%以上を占めるとする。これにより、EMSや産業機器だけでなく、少量多品種を求める顧客にも対応が可能となっている。

 徳永氏は、「グローバルに顧客を持ち、仮に1社の生産計画量が大きく減っても、他の顧客に販売できる環境がある。こうした点も、当社がBIMを提供できる要因。生産計画が変動しやすいEMS(電子機器受託製造サービス)企業に特に好評なサービスで、少量多品種生産で在庫管理が煩雑な産業機器を扱う顧客にも浸透しつつある」と語る。

■日本独特の商習慣に大きな壁

 同社の日本法人は1997年5月に設立した。2016年8月現在、東京と大阪に拠点を持ち、従業員数は44人。徳永氏はPALTEK元取締役、ゼネラルマネジャーとして海外支店管轄を経て、2015年6月に同社日本法人の社長に就任している。就任から1年、徳永氏は「国内で土俵に立つインフラ作りを進めてきた」とする。大きな壁になったのは、契約書や支払いの手形、口座といった日本独特の商習慣を本社に理解してもらうことだ。

 「北米の弁護士が国内顧客の契約書を読むと、“無制限の保証”をさせられると勘違いする。飲食店で熱いコーヒーを飲んでやけどをしたら、数百億円請求されてしまうような感覚に陥いるらしい。私は、必死で何回も『そうではない』と説明した。これらの特殊な商習慣を理解してもらわなければ、国内でのビジネス拡大は難しい」(徳永氏)

 また、営業を中心に採用を強化し、約10人の従業員が加わった。品質管理担当部門も新設し、ドキュメントの整備や製品解析などを国内でも対応できるようにしたとする。

■「日本はラストフロンティア」

 徳永氏によると、グローバルのディストリビューターを含め、国内市場は“ラストフロンティア”の位置付けにあるという。つまり、ある程度の市場規模が期待でき、手付かずの状態として残っているのが国内のみであることを意味する。

 徳永氏は、「サプライチェーンしての強みと、技術サポート力を生かして、国内企業がグローバルで価格競争力のある製品を展開する手助けをしていきたい。そのためにも、当社の認知度やブランド力を知ってもらう施策を行っていく」と語った。

最終更新:8月19日(金)12時39分

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