ここから本文です

【漢字トリビア】「涙」の成り立ち物語

TOKYO FM+ 8/19(金) 12:00配信

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「涙」、「感涙」「涙腺」の「涙(ルイ)」。亡き人をしのぶお盆、平和を願う祈念の日。そんな季節に、「涙」という漢字をひもといてみましょう。今回は「涙」に込められた物語を紹介します。

甲骨文字の「涙」という漢字は、目から涙が垂れている様子を描いた象形文字。
瞳からぽたぽたと落ちる大粒の涙には、言葉にならず澱のようにたまった想いが溶けだしていきます。
厳しい自然に翻弄されるやるせなさ。
閉鎖的な社会に対する憤り。
守りきれなかった命を送る悲しみ。
いにしえの人々は、涙を流した理由を決して忘れまいと、泣き濡れた瞳の様子を、力強く刻みつけたのです。

焼け残った家の広間や疎開先の母屋にしつらえたラジオで、日本が戦争に負けたことを知らされた、夏の日の正午。
お国のためにすべてを犠牲にし、歯を食いしばって生きてきた人々は、正座をしたまま肩をふるわせていました。
これまで封印してきたさまざまな感情が解き放たれ、涙になってとめどなくあふれ出す大人たち。
そして、その異様な光景を乾いた目に焼き付けた子どもたち。
あれから七十年の月日がたち、あの日を体験した人々は、流れた涙にこめられた想いを語り継ぎ、平和への願いを私たちに託すのです。

ではここで、もう一度「涙」という字を感じてみてください。

永六輔さんが作詞した「上を向いて歩こう」は、安保闘争に参加して挫折した自らの体験がもとになっているといわれています。
平和な世の中を実現するために、涙をこらえてやりぬくべきことがある。
でも、どうしても超えられない壁にぶつかって、ひとり涙を流すこともある。
そんなときは泣いてもいい、ふたたび歩き出すために。
この歌のもつやさしさに触れた人々は、涙を流すことを赦されるのです。
心を動かされて流す「情動の涙」は、人間だけがもつ特権。
その涙は緊張を解き、心身をゆるめてくれるといいます。
涙という字はさんずいに「戻る」と書きますが、本当の自分に戻る機会を与えてくれるのも、涙がもたらす効果です。
やがて涙が乾く頃、真実をみきわめる目を取り戻したら、前を向いて毅然と歩き出す力が、わいてきます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『子どもたちの8月15日』(岩波新書編集部/編 岩波新書)
『脳からストレスを消す技術』(有田秀穂/著 サンマーク文庫)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2016年8月13日放送より)

最終更新:8/19(金) 12:00

TOKYO FM+