ここから本文です

日本通信はなぜ個人向けMVNO事業を手放すのか

ITmedia Mobile 8月20日(土)6時25分配信

 MVNOの老舗である日本通信が、U-NEXTに個人向けMVNO事業を譲渡すると発表した。今後は、日本通信がMVNEとして接続などの技術面を受け持ち、U-NEXTがMVNOとしてユーザーの窓口となる見込みだ。現時点では、交渉を始めた段階とのことで、「既存事業をどのように継承するかは、これから交渉する」(U-NEXT広報部)。「既存のユーザーにご迷惑をおかけすることはしないが、b-mobileのブランドがどうなるかも含め、協業が決まった段階」(日本通信広報部)と、詳細は今後、徐々に詰められていくようだ。

【日本通信の契約数】

●MVNEへと戦略を大きく転換させた日本通信

 この事業継承は、2016年1月に発表した日本通信の戦略に沿ったものだという。同社の福田尚久社長は、記者会見の場で「b-mobileの面倒を見てもらう方向もある」と語っていた。このときから、MVNO事業を他社に受け渡し、自らはMVNEに専念する道を模索していたことがうかがえる発言だ。コンシューマー向けに事業を行ってきたのは、「直接やらないと分からないことが多い」(同)ため。一方で、「そのノウハウは十分なところにきている」とも述べていた。

 確かに日本通信は、他社に先駆け、一般ユーザー向けの取り組みを行ってきた会社といえる。MVNO向けのスマートフォンがなかった時代には、Huaweiの「IDEOS(アイディオス)」を調達し、セットで販売。一般ユーザーが気軽に契約できる窓口としてイオンと協業し、LGエレクトロニクス製の「Nexus 4」をセットで販売したのも日本通信だった。VAIOらしさに欠けると批判を集めた「VAIO Phone」も、振り返ってみれば、こうした取り組みの延長線上にあるものだ。料金プランの面でも、単に安いだけでなく、データ通信料が段階制になる「おかわりSIM」を発売し、その後、同様のプランはFREETELやSo-netなどにも広がっている。

 現在では当たり前になった、大手キャリアとの「相互接続」が実現したのも、日本通信の功績が大きい。接続料の算定を巡っては、当時ドコモと激しくぶつかり、総務大臣に裁定を求めるまでに至った。ドコモ関係者の中には、「乱暴だ」と日本通信の手法を批判する向きもあったが、結果として、こうした戦いがなければ、接続料がここまで低下することはなかったかもしれない。相互接続という形が実現しておらず、接続料が高止まりし続けていれば、MVNOの料金プランは、今よりもっと高くなっていたはずだ。

 一方で、コンシューマー向けのMVNOは急速に「レッドオーシャン化が進んでいる」(関係者)市場でもある。事業者の数は200を超え、競合がひしめき合う状況だ。NTTコミュニケーションズやIIJといった大手MVNOの契約数は、既に100万を突破している一方で、業界関係者でも名前を聞いたことがないような会社も存在する。サブブランドとして、ソフトバンクの「Y!mobile」や、UQコミュニケーションズの「UQ mobile」が勢いを増す中、勝ち残るためには“宣伝力”や“ブランド力”も以前より重要性を増している。

 そのあおりを受け、日本通信のMVNO事業も、伸び悩みを見せていた。MVNOがまだ一部のコアユーザーにしか知られていなかったころは、シェアも高かったが、その後は後発の会社に抜かれていく。調査会社・MM総研のデータを見ると、2012年度末にはシェア1位を誇っていた日本通信だが、2013年度末にはNTTコミュニケーションズやIIJに抜かれ、3位に転落。2015年には4位になり、その後は「その他」でくくられるようになってしまった。

 日本通信が決算で発表している資料によると、データSIMの契約者数が7万弱、音声SIMの契約者数が4万弱と、ポストペイドの契約者数は、11万を下回っている。2014年2月をピークに、その後、契約者数は漸減している状況だった。また、VAIO Phoneを自らが主導で開発したことがあだになり、2016年1月には在庫の評価減を迫られ、営業損益マイナス15億円と大幅な下方修正を発表していた。

 こうした状況の中、苦手とする一般ユーザー向けの事業を他社に譲り、MVNEに専念するというのは、生き残りをかけた戦略としても間違ってはいないだろう。自社でネットワークを直接持たないU-NEXTとは、相互補完の関係は築きやすい。MVNEとしてU-NEXTを支えていけば、そこから収益を得ることもできる。一般ユーザーに対する派手な広告宣伝や端末の調達などをしなければ、それだけ利益も出しやすくなるはずだ。

●複数のMVNEを束ねるMVNOになったU-NEXT

 では、日本通信のMVNOを受け継ぐU-NEXTにとっては、どのようなメリットがあるのか。1つ目としては、ユーザーの数を増やし、規模の拡大を狙える。まだ交渉のテーブルに着いたところで、どのような形になるのかは決まっていないが、少なくとも、U-NEXTとして抱えるユーザーの数は、10万以上増えることになる。

 U-NEXTのシェアは、2016年3月末時点で第4位(MM総研調べ)。3位の楽天モバイルに抜かれはしたが、回線数は肉薄している。ポストペイドの回線数は、同社の決算資料によると、2016年6月末時点で43万6000となる。仮に現時点でb-mobile分を加えたとすると、再び楽天モバイルを抜き、3位に再浮上する格好だ。

 もともとU-NEXTは、自社で直接ドコモとネットワークを接続せず、MVNEを活用していた。事業開始当初はフリービットがMVNEの役割を担っていたが、6月にはIIJからネットワークを調達することを発表。7月1日から、「U-mobile PREMIUM」と銘打ったサービスを行っている。U-NEXTによると、フリービットを外してIIJに変えたというわけではなく、ユーザーに対し、選択肢を提示するために、このようなプランを導入したそうだ。

 実際、既存のユーザーにはそのままフリービットから調達した回線を使っており、契約が自動的にU-mobile PREMIUMに変更されるわけではない。U-NEXTは容量の制限がない「LTE使い放題」というプランが話題を集めていたが、これを「U-mobile PREMIUM」に移行した格好だ。現時点では、フリービットをMVNEとするLTE使い放題プランにはWebからの新規申し込みができないようになっており、加入するにはパッケージを店頭で購入しなければならない。一方で、3GBプランや5GBプランに加え、2段階制の「ダブルフィックス」はそのままの形で残している。U-mobile PREMIUMにはLTE使い放題しかなく、こことのバッティングを避けた格好だ。別の見方をすれば、料金プランに応じて、MVNEを使い分けているともいえるだろう。

 日本通信から事業を継承した際には、フリービット、IIJに加え、新たに3社目のMVNEを活用する形になる。U-NEXTも、「MVNEの選択肢を、1つ増やすことになる」とコメントしており、意識的に複数のMVNEを使い分けていることがうかがえる。通常ではMVNOとMVNEは1対1の関係を結ぶことが多いが、複数の会社を使い分ければ、MVNE同士の競争を促進できる。IIJの「バースト転送」ように、最新技術をいち早く取り入られる会社もあるため、料金以外でのプランごとの差を出しやすくなるかもしれない。U-NEXTがIIJのネットワークに対し、「PREMIUM」と名付けているように、プランに応じた品質の違いもアピールでき、より高価格な値づけもしやすくなる。

●撤退するMVNOのユーザーをどうケアしていくべきか

 今回のケースは、まず日本通信がMVNEへ転換を本格化させ、自社で抱えている必要がなくなりつつあったMVNOをU-NEXTが引き受けるという構図だ。ただ、日本通信のように、ネットワークを持たない会社が同様の事態に陥ったときのことは、念頭に置いておく必要があるかもしれない。先に述べたように、MVNOの数は既に200を超えている。MM総研のデータによると、NTTコミュニケーションズ、IIJ、楽天、U-NEXT、ビッグローブ、ケイ・オプティコムの上位6社に、全体の6割のユーザーが集中しているという。

 逆にいえば、残り4割のパイを、200に近い事業者で奪い合っているという状況だ。この4割には日本通信も含まれているが、同社の事業規模は大きい方だ。3月末で、MM総研が独自SIM型と定義するMVNOの契約者数は、全体で539.4万回線。単純計算でいえば、その4割が215.76万回線で、事業者数の200で割ると、1社あたり1万強という数字が出てくる。日本通信のように、「その他」に属する会社の中にも10万回線を超えているMVNOがあるため、契約者数が1万にも満たない会社も多いということだ。

 もちろん、中には自社のサービスや端末に付随するネットワークを提供する目的でMVNOになっている会社もあるため、一概にはいえないが、MVNOも簡単にもうかるビジネスではないことが分かる。格安スマホブームを受け、見込みを誤り参入した会社の中には、事業を停止してしまうところも出てくるだろう。このようなとき、ユーザーをどう保護するのかはまだ決まっていない。

 過去の事例では、KDDIから回線を借り、「JALマイルフォン」や「ECナビケータイ」が、事業を続けられなくなったことがある。このときの原因は、MVNEとしてJALやECナビとKDDIの間に入っていたインフォニクスの経営が破綻したためで、結果として、ユーザーはKDDIが引き受ける形になった。

 とはいえ、このときは相互接続という形ではなく、端末もauのものがほぼそのまま販売されていた。今のMVNOと、その形は大きく異なっている。同じようなことが起きたとき、料金プランもまったく違うドコモがユーザーを引き受けるのは困難になるはずだ。ユーザーの規模によっては、他のMVNOに事業を譲渡することができないケースも出てくるだろう。総務省には、今後、こうした事態を想定したユーザー保護の指針作りが求められるようになるはずだ。

最終更新:8月20日(土)23時47分

ITmedia Mobile