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“他にないスライス技術”がSiCウエハーの生産効率を4倍へ

EE Times Japan 8月22日(月)11時53分配信

■今までにないインゴットスライス手法

 産業界に貢献する、SiCならではのスライス技術を発見した――。

【写真:「KABRA」プロセスのフロー】

 ダイヤモンドの次に硬質といわれているSiC(炭化ケイ素)。次世代のパワー半導体の材料として期待されているが、硬質で加工に時間がかかるとともに、切断部分の素材ロスの多さからインゴット1本あたりの取り枚数が少ないといった課題がある。そのため、ウエハー量産のために多数台のワイヤソーが必要で、デバイスのコストが非常に高い。

 それらの課題解決を大きく後押しするかもしれない技術が登場した。半導体製造装置メーカーであるディスコは2016年8月、今までにない手法を用いたレーザー加工によるインゴットスライス手法「KABRA(カブラ)」プロセスを開発したと発表した。ウエハー生産の高速化、取り枚数増を実現し、生産性を4倍向上させることが可能になるという。

■SiCはとにかく硬い

 現行のSiCインゴットからウエハーを切り出す方法は、ダイヤモンドワイヤソーが主流である。しかし、同社によると、4インチの加工には2~3日、6インチだと5~6日掛かるのが現状という。ウエハーを成長させたとしても、加工するのに1週間を要するのだ。

 ワイヤ加工の場合、ウエハー表面に生じる約50μmのうねりを除去するためのラップ研削も必要になる。4インチで厚さ20mmのSiCインゴットから、厚さ350μmのウエハーを生産する場合だと、ラップ研削にかかるのは16時間。また、切断部分の素材ロス(カーフロス)が、ウエハー1枚当たり200μm生じるといった課題もある。

 ディスコの担当者は、「ウエハーメーカーは需要が増えているSiCに対して、ワイヤソーへの設備投資をとにかく行って、生産を進めている。『毎年、ワイヤソーを購入する稟議(りんぎ)を書かなければならない』といった声を聞いたこともあった。SiC市場が拡大するにつれて、ウエハーメーカーの工場は、ワイヤソーだらけになる状況に陥ってしまう。このような課題を解決するために、KABRAプロセスを開発した」と語る。

■光よく吸収する加工痕

 KABRAプロセスは、SiCインゴットの上面からレーザーを連続的に垂直照射し、光吸収する分離層(以下、KABRA層)を水平に形成する。KABRA層を起点に剥離、ウエハー化するというスライス加工方法である。レーザー照射により形成される加工痕は、原理的に縦長に伸びる。そのため、レーザー加工はスライス用途に向かないのが一般的である。

 同社は今回、レーザーによってSiCが分解され、アモルファス状態のSi(シリコン)とC(カーボン)に分離する現象に着目した。同社によると、分離した材料は、アモルファスカーボンの影響で真っ黒になるため、光をよく吸収する。その光吸収係数は、SiCの約10万倍だ。同社は、光をよく吸収する加工痕に、光を照射させる方法を試したところ、単発で照射するよりも大きな加工痕を形成でき、効率を非常に高めることに成功した。これにより、レーザー入射方向と垂直方向にKABRA層を形成できたとする。

 レーザーは、KABRA層専用を使用しており、波長や種類などは非公開としている。

■切り出しの時間を約18時間まで短縮

 先ほども述べたように、4インチのSiCインゴットからウエハーを切り出すまでの時間は、1インゴット当たり2~3日を要している。しかし、KABRAプロセスでは、約18時間まで短縮。剥離後のウエハーのうねりを抑制できるため、ラップ研削も不要だ。

 また、カーフロスも100μm程度に抑えられため、1インゴット当たりのウエハー取り枚数は、従来比約1.5倍となる44枚を実現している。これにより、従来の加工時間で30枚しか生産できなかったSiCウエハーが、KABRAプロセスでは114枚加工できるようになる。つまり、「従来と比較して、生産効率は約4倍になった」(同社)としている。

 「より性能を良くするための細かい課題はあるが、今回発表したスペックを満たすレベルには達成した。具体的な課題としては、インゴットの研削時間とカーフロスの抑制が考えられる。プロセス自体が新しいため、従来では考えられないインゴットの研削を行う。そのため、既存の装置を改良、新しく開発することが次のステップになる。カーフロスに関しては数年以内に、50μmくらいまで抑えられるだろう」(担当者)

■SEMICON Japan 2016で専用機を展示

 同社は既に、顧客とKABRAプロセスの検証を始めており、今後も量産化に向けた検証を進めていく予定。テストカットおよび有償加工は、同社のR&Dセンターで随時受付中である。KABRAプロセスの専用機は今回見せてもらえなかったが、2016年12月14~16日に東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan 2016」で展示されるようだ。

 なお、SiC市場の動向については、「直近のビッグマーケットは、自動車市場になる。中でも欧州車と日本車が多くを占めており、KABRAプロセスもそれらに関係するサプライヤーでの需要が期待できる。しかし、ウエハーメイキングという視点で見ると、Infineon TechnologiesがCreeのSiCウエハー製造事業/SiCデバイス事業を買収したように、米国が得意という印象が強い。そのため、デバイスは日本や欧州で開発し、ウエハーメイキングは米国で行うことも考えられる。いずれにせよ、自動車での採用が進むと出荷数が違うため、SiC市場全体が盛り上がっていくだろう」(担当者)とした。

最終更新:8月22日(月)11時53分

EE Times Japan