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元三井物産情シスの「挑戦男」が語る、AWS/情シスの役割/転職の理由

@IT 8月23日(火)6時10分配信

三井物産で、IT推進部の副部長およびチーフITアーキテクトを務めてきた黒田晴彦氏が転職した。@ITではこれまで数々の最新IT技術にチャレンジしてきた同氏に、情報システム部のあり方や、今後やろうとしていることについて聞いた。

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 黒田晴彦氏は、これまで36年間にわたり、三井物産のIT担当部署で活躍してきた。それはチャレンジの歴史といって過言ではない。Windows NTを活用したダウンサイジングに始まり、世界規模でのActive Directory構築およびExchange Serverの運用などを次々に実施。また、Amazon Web Services(AWS)にいち早く着目、AWS上にSAP環境を構築するプロジェクトも推進した。アジアで初めてAWSの顧客諮問委員会委員となり、日本のAWS企業ユーザー会「E-JAWS」の初代会長も務めた。

 その黒田氏が三井物産を退職し、2016年5月、デル日本法人の最高技術責任者に就任した。@ITではこれを機に、「行動する情シス」のロールモデルともいえる同氏に、三井物産をなぜ辞めたのか、情シスの役割をどう考えてきたのか、AWSをどう捉えているか、デルに転職したのはなぜか、これから何をやろうとしているのかといった点について、詳しく聞いた。

――三井物産を退職するというお知らせをいただき、大変驚きました。理由は何だったのでしょうか?

黒田氏 三井物産での仕事は実に面白かったです。若い時期からダウンサイジングをはじめとしたプロジェクトを任され、「全てを自分で決められる代わりに全責任を負う」という立ち位置で仕事をさせていただいたので、90年代以降、とてもスリリングでエキサイティングな経験を積むことになりました。最後は副部長およびチーフITアーキテクトとして技術面での全責任を負う立場でしたし、長期間、三井物産の情報戦略委員会のメンバーを務めました。上司や仲間にも恵まれ、こうした楽しい経験をしているうちに、かなりの時間が経過していました。

 「全てを自分で決められる代わりに全責任を負う」という経験を積むほど、自分の考えることの柱が太くなってきます。例えば、あまり保守的な考え方では、新しい技術を生かせません。一方で新しい技術が出たからといってすぐ使い、うまくいかなければ、その責任を負わなければなりません。

 一方、組織の今後を考えると、このように後ろに誰もいない状況で、自分がやっていることについて何がプラスなのかを考え、実行できる人がたくさん出てこなければなりません。幸い後進が十分に育ってきたので、安心して道を譲れると思うようになりました。

●黒田氏にとって、AWSとは何だったのか

――最近、一般的にいって企業におけるIT部門の役割、在り方が揺らいできていると思います。どういう方針でやっていけばいいのか、見えにくくなってきたと感じる方が増えています。「行動する情シス」の手本ともいえる黒田さんに、これに関連していくつか質問させてください。

 黒田さんはAmazon Web Services(AWS)についてもいち早く活用し、AWSの企業ユーザー会であるE-JAWSの初代会長として活動しましたが、そのころ何を考えていましたか?

 私がAWSを面白いと思ったのは2009年で、2010年には会社として使い始めましたが、何といっても魅力はスピードです。「ちょっとやってみよう」と思ったことがすぐにできる。当初、仲間と一緒に個人のクレジットカードで、「SAPをインストールできるのだろうか」とやってみると、できてしまう。とてもびっくりしました。

 SAPに聞いてみると、当時すでにAWSを使った自社製品のデモをイントラネットメニューに組み込んで活用していました。「これは使わないと損をしてしまうぞ」と改めて思いました。米国企業が皆使っているときに、日本企業が使わなかったら、競争力として負けてしまう。そこで、自社ではAWSを活用していましたが、社外の皆さんにも知らせたいと考えるようになりました。そうしているうちに、ユーザー会の話が持ち上がった。それで初代会長をやることになりました。

 当時は、大企業では「AWSなど使って大丈夫か」と言われがちでしたので、それなら企業ユーザーだけで、お互いに「こう使っているよ」「こんな風に会社の承認が取れた」など、情報交換をする場として始めました。

 AWSには非常に大きなインパクトがありました。世の中のITに対する考え方を変えるきっかけの一つになったことは間違いありません。

――ただ、AWSは「可用性や拡張性はアプリケーション側で担保してくれ」という考え方に基づいています。これまでのITインフラについての考え方に基づいて、一生懸命やってきたITエキスパートの方ほど、抵抗を感じがちなのではないかと思います。黒田さんはどう考えてきたのですか?

黒田氏 企業のシステム部署は、企業のビジネス目的を果たすためにあるわけですから、「そのためのITは何を選んだらいいか」を決める責任があります。私は、AWSがそれにうまくはまるのなら使えばいいですし、はまらないなら使わなければいいと思っています。

 AWSには三木さんがおっしゃったような哲学があり、それを公言しています。各企業のニーズに合わない部分も当然出てきます。でも、彼らは個別のカスタマイズはやりません。そこでインフラ担当者は、自分の物差しを持ち、条件に合うなら使うし、合わなければ使わない、あるいは3つでも4つでも、製品やサービスを組み合わせればいいと思います。

 AWSが有力な選択肢であることは間違いありません。有力ではありますが、1つの選択肢だと考えれば、それほど迷わなくて済みます。

●「新しいことだけクラウドを使う」は単純すぎる

――今のお話を、「従来の業務システムは今までのやり方でいい、新しいアプリケーションだけAWSのようなサービスを使えばいい」というメッセージと受け取る方がいると思います。そういうことではないですよね?

黒田氏 本質的に必要なものを抽象化して考えていくべきです。「自社に今必要なITでは、可用性、パフォーマンス、コスト低減のどれがどれくらい重要なのか」ということです。優先順位をつけて、現時点で使える選択肢を当てはめるとどれになるのか。

 これを決めるのは、ユーザー企業のシステム担当部署だと思います。その選択肢として、システムインテグレーターやデータセンター、パブリッククラウドなどがあります。選択肢が多いほうが健全です。

 全部丸投げで、「こちらは業務要件だけ言うから、あとは全部やってよ」ということだと、それがリーズナブルなコストかどうかを判断する基準がなくなってしまいます。

 例えばほとんどの企業は、自社のロジスティクスコストについては、全て把握していると思います。業務を社外に委託するとしても、どういう条件でどういうコストなのかは必ず見ているはずです。それはITでも同じです。

 オンプレミスだとしたら、データセンターの契約、スペース効率、電気料金、総所有コスト(TCO)はどうなっているか。一方、それぞれのシステムについては、業務ニーズに基づくシステム要件があります。これらを踏まえ、「何にどういう手段を適用するのか」を考えることは、システム担当部署の使命です。このことをしっかり認識することが原点だと思います。そこを外さなければ、ちゃんとした答えが出てくるのではないかと思います。

――一方、先ほどとは逆に、「オンプレミスでやると、5年に1度などのハードウェア更改のために、膨大な人件費と労力が掛かる。こうしたやり方はもう限界だ。それに比べればパブリッククラウドははるかに透明性が高く、コストは必ず低く済む」という人がいます。これについてどう考えますか?

黒田氏 それについても、自分たちのITインフラの運営に、どのコストがどれだけ掛かっているかを、詳細にわたってちゃんと言い切れるかどうかがポイントです。

 現実には、オンプレミスのシステムを、画一的に5年に1度などの頻度で更改するわけではありません。システムの要件に応じて、「ハードは何年まで使える」「OSのバージョンはいつまで保守が有効」といったことを、調達時に考えて決めます。では、各システムについて何年でコストを見るのか。経費と資産の両面で、詳細なコスト分析をすべきです。

 全てが経費化するという点では、確かにAWSは分かりやすいです。しかし、AWSに支払う以外のコストも掛かります。例えばセキュリティは共同責任モデルなので、ユーザー側でも一定の対策をしなければなりません。すると、自分たちでセキュリティの面倒を見るコストが掛かります。また、AWS上で可用性を高めたいと考えるユーザー組織は、コストを掛けて、仕組みを構築しています。また、ハードのリプレースはなくとも、ソフトウェアのバージョンアップ作業は残ります。こうしたことから、SEを含めた人件費は、結構かかります。

 繰り返しになりますが、システムごとに、自分たちの欲しい可用性やパフォーマンスを出すための、人件費も含めたトータルコストはいくらなのかをきめ細かく検討すべきです。

 以前調査した際、「AWSの方が、はるかにトータルコストが高い」という会社がありました。長期的に、安定したリソースを使うシステムが対象だからです。一方、利用リソース量が大きく振れるシステムの場合は、パブリッククラウドを使う方が得です。そういう利用形態を想定した上で比較をすべきで、どちらだけがいいとか、得ということではないのではないでしょうか。

●情シスとユーザー部門との関係をどう考えるべきか

――ユーザー部門との関係について悩む情シスの人たちは多いのではないかと思います。これからの「もうけるためのIT」は、ユーザー部門の発想やニーズがカギになるわけですが、情シスはそれに対して何ができるのでしょう?

黒田氏 ITは進化が速いです。この点で、IT担当部署は、他の部署とニュアンスが異なります。

 私が会社に入ったころから、法務や経理はずっとあり、その基本的な役割は変わっていません。一方、当時は通信部というのがありました。これは全国のテレックス、ファックス、電話について責任を持つ部署でした。総合商社にとって、テレックス網が生命線だと考えられていた時期がありました。ところが現在はもはや、通信部という部署はありません。その代わりに、システム部署があるわけです。

 IT担当部署の特殊性は、手段がどんどん変わるということなのだと思います。昔重要だった通信という手段は、機能として吸収されてしまいました。一方で、今はITとして、多様な新しい手段が出てきています。すると、企業の経営者や事業責任者は、ビジネスのために、いったいどんな手段を使えばいいのか、誰に聞けばいいのかすら分かりません。

 やはり、社内に専門家が必要なのです。ITがどんどん変わるからこそ、自分の会社に必要なITは何かを判断する人や役割は必須だと思います。経営の観点でのIT責任者はCIOですから、CIOの役割はますます重要です。

 「オンプレミスかパブリッククラウドか」の判断以前に、どんどん変わっていくIT技術の中で、今何を採用すると、自分の会社にとって得なのかを判断する役割が必要です。その役割を担っているのは、明らかに情報システム部です。こうした部署名がずっと残るかどうかは分かりません。オンプレミスがずっと残るかどうかも分かりません。何が残るか分かりませんが、進化が激しい中で、「飛行機が飛ぶ時代に馬で走っている」のでは、戦いに負けます。

 最近では、「デジタル・トランスフォーメーション」といった言葉が使われるようになってきていますが、情報システム部は、「自社における経営の強みを最大化するためのITとは何か」を考え、これを実現する重要な役割を担っていると私は思っています。ITは急速に変化しています。その中身を見極めて、自社にとって本当に有益なものを推進する。これこそが情報システム部の役割です。

 シャドーITがいくらあってもいいと思います。シャドーITの大半は、少なくとも手軽に自分の仕事に役立つということでやっています。今、情シスの人たちが気にするべきなのは、「自社の本業そのものが危うくなるかもしれない、それくらいのITの大波が今来ている」ということです。その大波を、本当の意味で経営の中に取り込むということを、必死にできるのは、情報システム部をおいて他にありません。ですから、情シスの人たちには、「ITに関わってきてよかったですよね、活躍できるのはこれからですよ」と言いたいのです。

 企業のIT部門とユーザー部門は、二人三脚の関係にあります。システム部署が全てのソリューションを出せるわけではありません。ですが、少なくとも、会社の中では誰よりも、「何をすべきか、どういう技術があるのか」を知っていなければなりません。一方、製造や営業など、ビジネスをやっている部門が求めているものは何か、それをどうしたらいいのかを一緒に議論するときがきたと思います。IT部門は現場と連携して、何をすべきなのかを議論できる、そういう部署でなければなりません。

 自社のコアコンピタンスを知った上で、世の中で起こっている技術革命は何かを踏まえ、自らが最善だと考える解決策を、常に会社に提案する。採用されるなら、必死になってそれを成功させる。そういうサイクルが回るようになれば、使命はこれまでと同じだけれど、やることは自ずと変わっていくのだろうと思います。つまり、オンプレミスやパブリッククラウドといった手段ではなく、何を実現するかが重要です。

 ITベンダーやシステムインテグレーターについても同じことです。「情シス不要論」とともに、システムインテグレーターには未来がないと主張する人がいますが、そんなことはありません。先ほど申し上げたような、企業の情報システム部の活動をサポートできます。こうした人たちは、顧客企業のコアコンピタンスこそ分かりませんが、自社の経験と想像力を生かして提案し、採用されれば実現を全力でサポートする。やりがいのある仕事です。

 ITが企業を変え、社会を変える。そこに関わっていけるのがIT産業です。IT産業にいるあらゆる人たちにとって、エキサイティングな時代がやってきたと言えます。

●なぜ、デル日本法人の最高技術責任者になったのか

――デルに転職した理由は何なのでしょう?

黒田氏 2015年にデルの本社を訪問した際、そこで見たことと、デルの日本におけるイメージとのギャップに、大変驚きました。デルは面白い会社だなと思いました。他の米国IT企業の本社を訪れたことは何度もありますが、ここまでのギャップを感じたことはありません。

 これまで、私はサーバにOSを載せて動かしてみると、思った通りに動かないという経験を、たくさんしてきました。これはソフトとハードの境界の問題であるため、ユーザーが自らの責任で、自ら納得のいくまで事前検証を重ねるしかないと思っていました。

 ところがデル本社で見たことは、「Windows Serverが確実に動き、高いパフォーマンスを発揮するためにはどうしたらいいか、そのためのハードウェア、BIOS、ドライバはどうしたらいいか」を、担当者から幹部レベルまで、長年マイクロソフトと一緒になって、非常に丁寧にやっている。「最終ユーザーにとってプラスになることは何か」を議論しているわけです。マイクロソフトとだけではなく、他のOSベンダーとも同じようなことをやっています。そこで、「ハードウェアベンダーが、これほどまでにユーザーのメリットを考えてやっている」ということが、非常に面白いと思って帰ってきました。

 日本では、デルがこうした努力を重ねていることが、全く知られていません。

 その後、話を聞くほど、マイケル・デルと、彼の経営するデルは面白いと思うようになりました。デルが上場を廃止した理由も、四半期ごとの結果よりも、5年後、10年後に会社としての価値を高めることを目的とした経営のためです。トップから現場まで、顧客にとって何がいいのかを考えて実行し、それによって評価される会社になろうと真剣にやっています。

 面白いと感じるほど、「日本で知られていないことがもったいない」と思うようになりました。日本のユーザーはこれで損をしているのではないか、そうであれば、「選択肢の1つとして、デルという企業があるのだ」ということを、知ってもらう役割を果たす人が必要なのではないかと考えるに至りました。

 一方、米デルの幹部に「日本企業と一緒に新しい価値を生んでいるようなケースはあるか」と聞くと、「あまり聞いたことがない」と言われました。つまり、せっかくグローバルに展開しているデルのような組織があるのに、日本企業がこれを活用できていないのではないかと考えるようになりました。

 日本企業では、ユーザー企業もITベンダーも、今後グローバルな活動がますます重要になってきます。それなのに、「ここでつくったものが、世界中で使えるぞ」「こうしたら自分の商品を世界中に展開できるぞ」「新しい価値が出せるぞ」ということが、パブリッククラウド以外ではできていません。

 米デルの幹部と話していて、「面白いことは一緒にやろうよ」という強い姿勢を感じました。デルはグローバルにスケールのあることはやるが、個別の部分はパートナーと組んで、「私たちのプラットフォームの上にソリューションをつくってもらいたい、あるいは一緒につくりたい」という、エコシステムを重視する企業だということが分かってきました。そこで、「これは日本の企業がデルの製品を買う、買わないということだけではなく、デルの上に載せて、世界中でビジネスができる」と思いました。

 日本のITベンダーも、米国企業と競争するところは競争しながら、協力できるところは協力したら面白いのではないか。日本対米国ではなく、いかにエコシステムをうまく組むか。強いところをお互い利用して、新しい価値をつくろうと。そんなことをお手伝いできたら面白いな。デルが日本であまり知られていないだけに、やりがいがあるのではないかと考え、そういう仕事を任せてもらえるということでしたので、デルに入りました。

 私の役割は、まずデルの姿を知ってもらうことです。すると、顧客にとって何らかのヒントがあるのではないか。デルと話すことで「なるほどそういう視点もあるのか」と気が付いてもらうというのが最初ですね。

 顧客は、デルがどういう会社なのかを知ると、きっと何か言いたくなるだろうと思います。「そんなことを言っているけれど、こういうところが課題ではないか」ということを言ってもらって、日本の視点に基づく意見をぶつけてもらいたい。最終的に、顧客の思いと、デルのグローバルなスケールおよび技術力を合わせて、新しい価値を生み出せればいいなということを、先日マイケル・デルと話しました。

●「単なるITベンダー」が面白い理由

――黒田さんが、なぜそれほどまでにデルが面白いと感じたのか、具体的に説明していただけますか? 「デルはハードウェア中心のITインフラ製品ベンダーに過ぎない」とも言えると思いますが。

黒田氏 「顧客の声を聞いています」という企業はたくさんあります。しかし、デルの場合はレベルが違うと思っています。

 例えばストレージ装置については、EMC以前の話として、ストレージベンダーの買収により、小・中・大規模環境用の3つの製品ラインを持っています。その上で、アレイコントローラのソフトウェアの統一を、3年もかけてやっています。デル自身にとっては、開発チームを統合できるメリットがありますが、ユーザーは製品ライン間でレプリケーションや自動階層化管理といった機能を統一的に利用でき、記憶媒体も高速SSDから安価なハードディスクドライブまで柔軟に選択できます。また、デルにはソフトウェアストレージもあります。ハードウェアストレージと異なる方式を採用していますが、両者の間でAPIの共通化を進めています。

 アレイコントローラのソフトウェア統一により、顧客はその時々のニーズに応じて柔軟に製品を選択しながら、運用がばらばらにならず、統合的に行えるようになります。要するに、品ぞろえをするだけでなく、買収を基に、顧客が喜ぶものを作り出そうとしています。どうすれば顧客にとって便利になるのかを考えてやっているわけです。

 そもそも、マイケル・デル自身が、顧客の声を聞いて回っています。それが、アレイコントローラの共通化のような話として戻ってきます。これが、現場のプログラマーの活動にまでつながっています。全てのエンジニアリングラインで、プログラムのソース1行に至るまで、1つのコンセプトで、「お客さまが欲しいものを提供するためにどうしたらいいか考えようじゃないか」と。ですから彼らはみな、議論が好きですよ。しかも決めたらやり切る。ここもすごい。

 自社の製品を理解し、これに対する顧客の声を聞き、顧客が欲しいものを作り出すというサイクルが、トップから現場まで、従業員数11万人の大会社なのに回っている。これができている企業はなかなかないと思います。

――日本のユーザー企業やITベンダーと協力して、新しい価値を作り上げたいという話ですが、どのように実現できるのでしょう?

黒田氏 例えば、デルは、「ブループリント(青写真)」という名称で、業種別アプリケーションについて、ハードとソフトの最適な構成を考えて検証し、稼働を保証しています。それもただ動くというのではなく、OS、さらにはSDKにこだわったチューニングを徹底的にやった上で、動くことをコミットしています。

 用途に特化したサーバを開発するわけではありません。サーバの開発コストではスケールメリットを出して、単価を下げる。その上で、業界ごとにこのソフトを動かすにはこうしたほうがいいということがあれば、パートナーと協力し、一生懸命チューニングをかけています。

 このブループリントは、米国で作っています。しかし、日本で考えたブループリントが、デルのプラットフォームを通して、世界中で提供できるチャンスがあるのではないかと思います。そこまでいくと、日本のIT企業にとっても面白い。また、日本のユーザー企業も、「このアプリケーションを、世界中ですぐに動かしたい」と思うと、それができます。

 AWSのようなパブリッククラウドでもできるわけですが、全世界、全ての用途をクラウドでカバーできるわけではありません。さまざまな理由で、やはりサーバを置かなければならない。その時に、デルのソリューションであれば、世界中で立ち上げやすくなります。システムインテグレーターが、自社のソリューションを載せれば、同じソリューションを全世界で同様に提供できます。

 これまで日本の企業にとって、世界中でソリューションを提供していくのは大変でした。これをプラットフォームについてはデルが協力して、一緒に世界で展開していけるということになれば面白いのではないかと思っています。

――最後に、日本の一般企業の情報システム部、およびITベンダーに、今一番伝えたいことは何ですか?

黒田氏 昔、ピーター・ドラッカーが「まだIT技術は印刷技術ほど世の中を変えていない」と言いましたが、これはついに適切な表現でなくなりました。ITは印刷技術以上に世界を変え、国家体制にも影響を与えるような存在になってきています。今後、企業がビジネスをやっていく上で、ITをいかにうまく使うかを考え続けなければなりません。その重要性を理解せずに行動しないうちに、企業がまるごとなくなってしまう。ついに、こういうことが起こり得る時代になりました。

 従って、そこにはピンチとチャンスがあります。自社が今強いからといって、明日も強いとは限りません。今苦労しているところも、それを逆手にとって逆転ホームランを打てるかもしれません。さらに今世界中で、IT技術が一握りの人のものではなく、誰でもいろいろなところで、工夫することによって使えるようになってきました。クラウドもデバイスもソフトもそうです。比較的簡単に手に入れて、やれる時代になりました。

 先ほどの情シスの在り方の話とも関係しますが、「こんなことをやりたい」と思ったら、すぐ試せる時代です。試すことは明らかに必要になっています。このため、本当に勝ち抜くためには、私は一握りの天才よりも、一生懸命汗を流しながら考える人、そして「自分だけ良ければ」ではなく、メリットベースで仲間と一緒にやっていこうという考えが求められます。

 こうしたときに、日本企業は、日本の良さを生かしながら、グローバルな企業とうまく連携してエコシステムを築き、この大変革の時期を乗り切っていくべきなのではないか。私はこれに力を注ぎたいと思っています。

 今ITに関わっている方々にとって、こんなにエキサイティングな時期はないです。これはもう、やめられませんよ。皆さんと一緒に頑張りたいと思います。

[三木 泉,@IT]

最終更新:8月23日(火)6時10分

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