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PCデポの「初動対応」が、炎上した理由

ITmedia ビジネスオンライン 8月23日(火)8時12分配信

 先週、PCデポが大炎上した。

 発端は8月14日18時ごろ、独居で暮らしている80歳男性の息子さんが投稿した以下のようなツイートだった。

【PCデポからのお知らせ】

 『80過ぎの独居老人である父が、PCデポに毎月1万5千円の高額サポート契約を結ばされてました。解約に行ったら、なんと10万円もの契約解除料を支払いさせられました!!とんだ悪徳業者です』

 息子さん曰く、『ファミリーワイドプランというのを軸に様々なオプションをセットされ』ており、『その中にipadair16g本体』も含まれていたそうで、このもろもろのオプションをすべて解約したところ、『当初20万円の契約解除料を請求され、ゴネたら10万円』になったそうだ。

 8月16日にPCデポ本社より、『不愉快な思いをさせたことは謝罪する。・契約には正当性がある。・解約料も適正。・消費税も適正。・IPADは渡してある。父が使用したログも残っている』という連絡を受けてその後、話し合いの場を設けたが、交渉は決裂したようだ。息子さんは『PCデポ社の不誠実な対応には本当にあきれました。今後はメディアを通して世に問いたいと考えております』と徹底抗戦の構えをみせている。

 もちろん、上場企業である以上、PCデポ側も黙ってやられているわけにはいかないだろう。「契約には正当性がある」というのなら、それなりのカウンターを繰り出すはずだ。ここは心ゆくまで殴り合って、高齢者ビジネスの有り様を考えるためにも、ぜひ白黒ハッキリつけていただきたいと思う。

 ただ、そんな両者の対決より、個人的には気になることが別にある。それはPCデポの「初動対応」だ。

 14日夜の炎上を受けて、PCデポが公式Twitterに「声明」を出したのは15日17時、公式サイトに同じ文面で取締役管理本部長名義のものを出したのは16日と、およそ1日が経過してからとなっている。これは昨今のSNS対応のセオリーからすると、驚くほど遅い。

 SNS炎上を未然に食い止め、「神対応」などと称賛される企業というのは、発生後数時間以内になにかしらの対応をとっていることが多い。これは企業として誠意をもって問題にあたっているという姿勢をネットユーザーに示すとともに、なによりも一方的な主張や事実誤認の拡散を防ぐという意味があるのだ。

●事態が悪化した理由

 今回、PCデポはどういうわけかそれをまったくやらなかった。

 実は炎上後も、「サービスの手厚さを考えたら適正なのでは」「この情報だけでは判断できない」という反応をみせたネットユーザーもそれなりにいた。そんな擁護・中立派が、「クソ企業、死ね」「潰れてしまえ」という声に呑み込まれていくのを、PCデポは丸1日ただ指をくわえて見ていたのだ。

 さらに、事態を悪化させたのは、「声明」の中身である。

 『この度は、弊社のサービスに関しインターネット上をお騒がせし申し訳ありません。ご契約者様とご家族の皆様には、ご理解・ご納得いただけるよう働きかけをしてまいる所存です。またお客様、特に高齢者のお客様に弊社のサービスをより十分ご理解いただきご契約いただけるよう改善策を検討して参ります』

 多くの人が指摘するように、かなり「上から目線」の印象を与える声明だ。また、行間からは、「我々はちゃんとやってますが、どうにもアレ的な人がいて困っちゃって」というメッセージが伝わってくるが、契約や説明方法が適切だったという根拠が示されていないため、言い逃れにしか聞こえない。

 個人の契約内容は明かせないため、この程度の表現しかできないんだよ、という意見もあるかもしれないが、個別のケースではなく、一般的な高齢者との契約を交わす際、どのような点に留意をしているのか、従業員教育を行っているのかなど、平時の取り組みなどを述べることだってできる。

 実際、8月16日夕方には、弁護士ドットコムの取材に対して、「サービスの契約の際は、重要事項にマーカーを引きながら説明するなど、ルールに則って対応している」と自社の正当性を訴えている。また、翌17日に出した「改善策」の中には、『現在は75歳以上のお客様が新規にご加入される際、加入後1カ月以内のコース変更及び契約の解除を無償にて承っております』と、現時点でも高齢者との契約に一定の配慮をしていることを匂わす説明が含まれている。

●お粗末な第一声になった背景

 なぜこういうカードを早く切らず、あのようなお粗末な第一声になってしまったのか。なぜメディア側から問われるまで、自分たちの取り組みを社会に対してしっかり説明しようとしなかったのか。ひとつの理由としては、この会社に「広報」という視点が欠如していたからだと思っている。

 8月17日に改善策としてリリースした「弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ」の問い合わせ先は、取締役・社長室長の松尾裕子氏。これまでの商品サービスリリースを見ても、問い合わせ先は社長室。つまり、PCデポには「広報」というものが存在しないのだ。

 「社長室が広報を兼務するのは珍しい話ではない、そんなことはちっぽけな問題だ」という声が聞こえてきそうだが、企業のリスク対応という点ではこれはかなり大きな問題だ。

 社長室がどんなに広報業務を行おうが、それはあくまで片手間であって、主たる業務は経営者の補佐。つまり、最も顔色をうかがわなくてはいけない相手は経営者となる。

 だが、企業広報はそれでは務まらない。メディアやネット世論など「外部」からどのように見られているのかということを分析したうえで、「経営側の論理・主張」と社会が衝突しないように「調整」しなければいけないのだ。

 今回、PCデポの対応からは、そのような「広報的視点」はまったく感じられない。とりあえず株価下落に歯止めをかけたい「IR的視点」から、市場を納得させるために「改善策」を示したようにしか見えない。

 もちろん、対応のまずさのすべてを「広報がない」ということで説明するつもりはない。ここまでの炎上案件を丸1日放置し、ザックリとした釈明だけでやり過ごそうとしたのは、PCデポの「企業体質」も大きいと思っている。

 今回の炎上後、同様の高齢者トラブルや、2014年にアルバイト従業員を名乗る者がTwitterで顧客のクレジットカード情報を不正取得したことをにおわす投稿、さらに顧客に優良誤認をさせてしまう恐れのあるような広告まで、雨後のタケノコのように問題が出てきた。

●なんとなくうまくやり過ごしてきた組織

 また、PCデポは適格消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」から2015年10月に、「スマートフォンのサポートサービス契約における解約金条項」、2016年6月には「機種変更時に表示された料金ですべてのサポートサービスが受けられると誤認させる料金表示」を問題として指摘されている。これを受けて、PCデポは8月を目処に規約を改定するなどの改善をする予定だと回答していた。

 さらにもっと過去に遡(さかのぼ)れば、PCデポの野島隆久代表取締役社長がかつて勤務し、兄が社長を務めるノジマ電気も2011年10月に、通信サービス契約とセット販売していたPCの価格を「1円」にしていたことが景品表示法違反(有利誤認)にあたると、適格消費者団体「消費者機構日本」が改善を申し入れしたこともある。

 要するに、今回の炎上案件以前にも、PCデポの経営層というのは数多の消費者トラブルを経験しており、その中にはまさに現在進行形で対応にあたっていたものもあったのだ。

 これは裏を返せば、PCデポは消費者団体などから問題視されても、大きな社会的制裁を受けることなく、なんとなくうまくやり過ごしてきた組織ともいえる。

 企業広報のアドバイスを仕事にしていると、こういう「トラブル慣れした企業」に限って、顧客をバカにしたような対応をしてしまう場面をよく見る。トラブルが多ければ、反省して真摯(しんし)に対応をするようになるんじゃないの、と思うかもしれないが現実は逆だ。

 三菱自動車の不正隠しなどは典型的なケースで、大きなトラブルを乗り越えるたびに、消費者に対する恐れが薄れてしまう。あれが大丈夫だったんだから、これもイケるだろと企業モラルのハードルも下がっていき、その結果、消費者の怒りに鈍感になってしまうのだ。

●小売業の感覚をいまだにひきずっている

 PCデポも同様の問題はなかったか。

 息子さんの投稿に即座に反応しなかったのも、なんの根拠もなく、「上から目線」のコメントを出したのも、これまでの過去の事例から考えても、本件がここまで深刻な事態に発展しないと高をくくっていたのではないか。

 『世界に誇れる「ITコンシェルジュ」』をうたうPCデポはもはや物販というより、サービス業へと転身を果たし、3期連続の最高益を叩き出している。

 ならば、理屈としては、クレームに関しても、コンシェルジュのようなきめ細かい対応をしなくてはいけない。少なくとも、ホテルのようなサービス業らしく振舞うべきだろう。

 しかし、現実はそうなっていない。「契約の正当性」押しでゴリゴリ進むその姿は、格安スマホやタブレットに光ファイバー契約をのっけてとにかく契約を結ばせちまえばこっちのもんよ、という小売業の感覚をいまだにひきずっているように見えてしまう。

 Webサイトで野島社長は、CSR活動として、『店舗を通じて地域のお客様の情報格差(デジタルデバイド)解消』を掲げていらっしゃる。

 この素晴らしい理念を実現していくためにも、まずは広報部でも設置して、自社の論理と、世間の感覚の格差解消に取り組んでみてはいかがだろうか。

(窪田順生)

最終更新:8月23日(火)8時12分

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