ここから本文です

クラウド導入する際の注意点、お金と使い方の関係

ITmedia エンタープライズ 8月23日(火)8時15分配信

 企業がITインフラを検討する際、「クラウドファースト」と「使うIT」を検討することが一般的になりました。クラウドでは、Amazon Web Service(AWS)やMicrosoft Azureなど大手の他にもさまざまなクラウドサービスプロバイダー(CSP)がサービスを展開しています。

【画像:データセンターへのデータの預け方や利用方法の違い】

 今回は「持つIT」との比較として、第13回で紹介したクラウドとして提供されるサービスの中でもIaaSを利用すると、データを扱う基盤としてどう違うのか、どこに気を付けないといけないのかを説明します。なお、特定用途となるPaaSやSaaSといった機能を提供するクラウドの場合は、比較対象がアプリケーションになりますので、本稿では扱いません。

●「クラウド=安い」では(必ずしも)ない

 ユーザー企業の方と話をしていると、クラウドを検討するときに「安い」というイメージが先行していることがよくあります。実際には、「持つIT」としてオンプレミスで購入する時と同じで、単に「コストが安い」ということは必ずしも正しくはありません。正確には、「コストパフォーマンスがよい」ということになります。

 この「コストパフォーマンスがよい」とは、どういうことでしょうか。まずは、ITインフラのリソースの面から説明します。

 例えば、購入する場合と比べたメリットに、「使った分だけ払う」があります。サーバ(CPU)であれば、起動している時間分だけ払えばよく、シャットダウンしたら費用は掛かりません。ディスクについても、使っている容量分だけ払えばよく、ディスク装置全体を支払う必要はありません。不要なら削除をすれば、費用は掛かりません。

 これは同じ月額支払いになるリースとは異なり、使っていなければ払う必要がないわけですから、ムダがなくせるという面ではコストを安くできると言えます。また、必要なCPUやメモリ、ディスク容量といった構成の変更が自由に、作業費用といった追加コスト無く実現できることも、クラウドのメリットになります。

 その一方で、購入する場合にはあまり意識しない点で注意が必要になるものもあります。例えば、常時稼働が前提のシステムなら、購入する場合は電気代と空調代程度のものではありますが、クラウドではCPUなどの費用が継続してかかります。この場合、使い方や規模にもよりますが、通常のサーバを購入した場合と比べて、2年~4年程度で支払い総額が上回ることもよくあり、「結果的に安くない」ということがあります。

 また、ネットワークを介した通信量への課金にも注意が必要です。一般的なクラウドでは、クラウド上の同一テナント内部での通信には費用がかかりませんが、外部との通信は別です。ある程度の規模のユーザー企業なら、全てのシステムをクラウドに置くことは必ずしも適切ではなく、オンプレミスとクラウドの併用が発生します。

 この場合の通信費用は、どれだけのデータ量を送受信したか(クラウドによってはクラウドからの送信データ量のみに課金されるところもあります)になりますが、データの送受信量を意識するユーザー企業は少なく、この点は予算化や見積りが難しい理由になっています。

 購入する場合でも、ネットワークスイッチなどの装置にかかる費用や回線費用など、実際には費用が掛かっていますので、これまでに全く支払っていなかったものではありません。ただ、社内での通信であれば設置以後はほぼ使い放題であったところが、クラウドでは考えないといけない、というわけです。

 ですので、クラウドサービスは結果として「コストが安い」ということもありますが、対価を支払う以上、同じ使い方では同じ金額がかかるものとして、「単純に安いわけではない」と理解する必要があります。要は、「使うIT」にしていくほど、使い方ひとつで、コストや使い勝手が大きく変わるということです。

 以上に説明した通り、クラウドの特徴は「リソースが自由に使える、変更できる」「使わなければ費用が発生しない」ということです。これを生かして、例えば、CPUなどなどのリソースが多過ぎれば減らす、使わないときは止める、といった「運用」をクラウドに合わせて検討し、使いながらチューニングしていくことで、コストパフォーマンスを改善していけます。

 「持つIT」では、リソースをどう有効活用するのかを「導入前」に検討し、設計します。導入後は、効率化を図りながら利用を続けます。効果測定は次回の更改時の参考にします。

 それに対して「使うIT」のクラウドでは、ある程度の事前設計は必要ですが、注目すべきは「導入後」になります。利用状況を測定して検討、変更を継続するということがが、クラウド活用に必要なアプローチ方法です。

なお、このアプローチを「持つIT」に活用すると、プライベートクラウドになります。プライベートクラウドでは、第4回や第5回で紹介した「SDI」「SDS」といったソフトウェア定義インフラの活用で、クラウドと同様のメリットを実現できます。主に大企業向けですが、昔はデータセンターでしかできなかった効果がユーザー企業でも実現できるということは、覚えておいて損のない情報です。

●データをクラウド上に展開すること自体が大きな課題に

 クラウドについて、リソースとしては使い方を考えて活用することで、コストパフォーマンスをよくしていけると説明しました。それでは「データ管理」という観点から、もう少し掘り下げてみます。

 システムを完全に新規でクラウド上へ構築する場合は、注意すべき点が少ないのですが、ある程度の規模になると、今あるシステムからの移行を考えなければいけなくなります。

 Webサーバや各種業務システムのフロントサーバなど、CPUや通信などリソースを使うもののデータ量が少ないシステムであれば、ネットワークの転送遅延以外はあまり問題がありません。またアーカイブデータのように、いったん作成されたら後は更新がないものなら送信してしまえばいいだけなので、クラウドに持っていくにしろ、活用するにしろ、前述のネットワーク転送量のコストを除けば問題は少ないでしょう。

 一方、業務アプリケーションの一部で動作するデータベースやBI、解析といった、データ量が多く、かつ、更新があるシステムの場合、データのやりとりが問題になります。

 まず、今ある環境からクラウドに移行する場合、クラウド上にコピーされるデータは、アプリケーションとして静止点が取れている必要があります。そのデータでないと、システムは動きません。そうなると、まず業務を停止してデータをコピーすることになりますが、データ量が多いと転送に時間がかかり、ひいては業務停止時間が長くなります。

 この点については第1回で紹介したデータ種別の図でいえば、右上に行くほどクラウドに向きにくい、という傾向にあります。

 また、移行した先のクラウドでシステムが問題なく動作できるかの確認も重要ですが、その都度コピーするとなるとテストも簡単にはできず、結果としてシステム移行が頓挫しかねません。

 こういったシステムは、オンプレミスで利用するということも一つの手ではありますが、クラウドを活用する場合は、これらの課題を解決しなければいけません。そのため、移行にあたっては、いかに「オンラインのままデータが転送・同期できるか」と、「テスト利用が簡単にできる仕組み」を重視する必要があります。

 日本でも最近になってクラウドへの移行用ツールやサービスが提供され始めていますが、データ量が多い場合に対応できないものが多くあります。これは、データ量が多いシステムがクラウド向きではないことが多いためで、そういったツールやサービスのメインターゲットになっていなかったことが主な理由です。ただし最近は、ちょっとしたシステムでも数百Gバイトを超えるデータを持つことも多く、明確な課題として急速に表面化してきています。

 これはクラウドに限った話ではなく、「持つIT」でもデータセンターの変更などで発生するものですが、システム更改のタイミングだけで発生するので、あまり意識に上りにくい課題です。クラウドを活用すると、その柔軟性からこれまでより頻繁にシステムの移動が発生しやすくなります。今、自社のシステムの容量が少なくても、真剣に課題として考えておくことを強くお勧めします。

 ちなみに、転送にかかる時間を計算する際には、回線の太さだけを見ても実際の速度は分かりません。距離によって転送遅延が発生するので、遠くなればなるほど、FTPといった単純なコピー機能だけでは回線の帯域を全て生かし切れず、例えば、東京から北海道へは単純なコピーツールを使っても1日に10Gバイト程度しか送信できません。

 クラウドでは実際の送信先がより遠方にあることも多く、こういった点からも専用のツールやサービスを活用すべきです。

 今回は、まずクラウドを使い始めるにあって注意すべきところを説明しました。次回は、クラウドを使い始めてからの注意点とその回避方法を説明します。

最終更新:8月23日(火)8時15分

ITmedia エンタープライズ