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情シスが“女子高生AI”の使い手になれば、会社の利益が上がる!? そのからくりは

ITmedia エンタープライズ 8月23日(火)14時38分配信

 テクノロジーが人々の行動を変える――。この夏の「Pokemon GO」フィーバーで、あらためてそう実感した人も多いのではないだろうか? これはエンターテインメントの世界だけの話ではなく、企業における人々の働き方もテクノロジーによって大きく変わり始めている。

【画像】女子高生AIりんなとの会話。今どきのAIは下手な人間よりよっぽど面白いことをいったりするので侮れない

 クラウドやAI、IoTなど、次々と新たな技術が登場する時代の変革期に、情報システム部門にはどんな役割が求められるのだろうか。マイクロソフトの西脇資哲氏、NTTソフトウエアの安田航氏の両エバンジェリストに聞いてみた。

●業務システムは、もっとラクで楽しいものになっていい

安田氏 「Pokemon GO」、やってますか? あのゲームは、「AR(拡張現実)ってこういうものなんだ」ということを、一瞬で理解させてくれましたね。

西脇氏 年齢も性別も関係なく、みんなが楽しめるところがよくできていますよね。今後、飽きさせないためにどんな戦略を取っていくかが課題ではありますが、どこにでもスマホを持っていく私たちのライフスタイルには、すごくフィットしたゲームですね。

安田氏 これからは、仕事も“歩いている途中のちょっとした時間でできる”ような時代が来るんじゃないでしょうか。今までは、「キーボードで何かを入力する」のに抵抗感があって、システムをうまく使えない人たちがいたと思うんです。でも、歩きながらスマホアプリでボットと話すだけで入力が完了したり、必要な情報を得られるような仕組みが実現すれば、心理的な障壁なくシステムを利用できますよね。

 今、ボットや人工知能を使ってシステムと人との間のインタフェースを変えていくような話も出てきていますが、西脇さんはこうした技術がワークスタイルをどう変えていくと思いますか?

西脇氏 マイクロソフトも、「Cortana」や「女子高生AI りんな」のような人工知能を使って、何ができるか日々、試行錯誤しています。Cortanaもりんなも、入り口は音声やテキストを理解し、後ろに控えている大きな人工知能の力を借りて会話を進めていくというものです。

 こういうものを(業務の入力インタフェースとして)使えば、確かに私たちの作業はラクになるでしょう。実は、ラクになるだけではなく、「楽しくなる」のも大きなポイント。今のITって「ラク」と「楽しい」の両方が成立しないと、使い続けてもらうのは難しいと思うんです。

 古めかしい情報システムにキーボードを使って入力するのが嫌な理由って、「つまらない」からですよね。経費精算のようなものすごくつまらない作業を、わざわざキーボードを使ってやるの、誰だってイヤでしょう? だったら楽しくできるようにすればいいんです。

 あと、コンピュータで行う事務作業って昔から「転記」なんですよ。1度紙に書いたことや、さっきお客さんと話したことをあらためて入力するといったような。二度手間だし、面倒ですよね。これを、自然な会話や行動でできればいいですよね。そのために、対話型のAIやボットがすごく役に立つと思います。転記しなくていいし、何より楽しいですからね。

安田氏 なるほど。ラクにするだけじゃなくて楽しいものにすると。

西脇氏 ただこの場合、対話相手のAIは、自分より上の立場の人じゃだめなんですね。誰だって部長と会話なんかしたくないじゃないですか(笑)。

安田氏 いちいち敬語を使わなければいけないAIなんて、面倒ですものね(笑)。

西脇氏 経費精算のときに、部長より女子高生から「おつかれさま」って言われる方がいいですよね。ちょっと不純ですけど、そういう要素がけっこう重要なんです。女子高生AIと今日の訪問先についておしゃべりしているうちに経費精算やCRMの入力が終わったら面白いでしょう?

 りんなは、そういう使い方を想定して、“会話を先に続ける努力をする”ように作られています。いわゆる「マルチターン」ですね。普通のAIは「明日の天気は?」と聞くと「晴れ」と返しますが、りんなは「明日、どっか出掛けるの?」と返すんですね。「東京まで」と言うと、「新幹線で?」と聞いてきて、「新幹線だよ」と答えると、「だったら晴れで良かったね」というふうに会話を進めるんです。そうすると、自然に詳しい情報がインプットされていくんです。こうして深い会話を続けることで、どんどん学習していくんですね。

安田氏 そうか、会話をしているうちに、CRMや経費精算システムの入力に必要なことを全部答えていたりするわけですね!

西脇氏 営業から戻ったら「どうだった? いくらぐらいもうかりそう?」と聞いてきて、「うん、うまくいったよ。2億円の案件で……」と返すと、「じゃあ、目標2億2千万に積み増ししちゃうね!」といわれて「が、頑張る!」みたいなね(笑)。

●ビジネスやワークスタイルはITで誘導できる

西脇氏 りんなで考えるとちょっとふざけているみたいですが、少なくとも会話でビジネスを進めていく、つまりマルチターンで深層を探っていくUIとインプットの方法で、裏に人工知能があるシステムというのは、かなり現実的な話だと思いますよ。

安田氏 かなり早い段階で実現しそうですか?

西脇氏 Cortanaはマルチターンができ、Windows上で動くので、Windowsマシンに入っているたくさんの営業資料やスケジュール、メールの内容などを使って会話の要素を深くしていくことができます。つまり環境が整っているわけです。その点では、実現は間もなくといえるでしょう。ただ難しいのは、日本語の解析です。例えば「いい」というのが「良い」なのか「要らない」なのかといったことを理解するのが、日本語の場合は難しいんです。

安田氏 日本語という課題はあるもの、実現すると面白いですね。今までの情報システムでは、1回入れたデータは二度と入力しなくていいようにデータ連携で工夫するとか、そういう方向の努力はありましたけど、なるべくたくさんの情報をインプットしたくなるような仕掛けってなかったですよね。それができるようになると、仕事のやりかたはすごく変わるでしょうね。

西脇氏 そうなんです。AIにはワークスタイルをラクにしてくれるような提案を期待したいですね。

 私は情報システムの世界に20年くらいいますけど、メインフレームの時代も、“クラサバ”時代も、JavaがきてWeb3階層の時代になっても、作っているのは常に顧客管理システムでした。クライアントがスマホになって、グラフィカルなデータ集計ができるようになっても、やっぱり作っているのは顧客管理システム(笑)。でも、そろそろ仕事をラクにして、収益の向上をサポートしてくれるようなシステムが出てきてほしいですよね。AIを始めとするテクノロジーは、それを実現するエンジンになると確信しています。

安田氏 そういうシステムって、企業独自の強みや戦略を学習していかないといけないでしょうから、SIerが設計するのは難しいかもしれないですね。

西脇氏 確かに。そこはまさに、情シスの出番といえそうですね。ただ、今までの企業の情報システム部は、主に汎用的な仕事をしていたんですよね。他の会社でもやっていることを自社でもやるという状態。でも今後は、「どうやったらうちの会社はもうかるのか」「どうやったらうちの社員がニコニコしながらシステムを使えるだろうか」といったような、非常に個性的な活動をしていく必要がありますね。

安田氏 情報システム部って、会社の中で唯一“ITでビジネスを変えられる”ポジションにいますよね。ITをうまく使って、新しくシフトしたい方のシステムを使いやすくして、ちょっと意地悪して過去のシステムはすごく入力しづらくする、くらいのことはできちゃう。その発想でいくと、「こっちの方が仕事がラクになるから、うまく売り込んでみよう」となりますよね。経営企画部などがトップダウンで言ってもなかなか変わらないことはありますが、システムの良しあしは「ラクか面倒か」という人間的な感覚にダイレクトに関わるところなので、直接的に人の行動を変える力を持ってるんです。

西脇氏 昔はPCの画面とキーボードしかなかったから限界があったかもしれないけど、今はスマートフォン、タブレット、ペン、音声入力などが登場したので、“誘導する”チャンスがふんだんにあるわけですね。

●求められるのは、「新技術のワクワク感を伝え、ビジネスを変えていく力」

安田氏 ただ最近は、SaaSの登場などで、情シスを介さずに現場でクラウドサービスを導入することも簡単にできてしまう。だから情シスの仕事は「基幹システムのお守りくらいだ」と考えてしまう人もいると思うんです。会社のセキュリティポリシーを握っているのは情シスだということに着目すれば、より積極的に関わっていけるはずだと思います。

西脇氏 そうですね。あと、情シスの人がテクノロジーを面白がっているかどうかも大事ですね。モノを作るのって本質的に楽しいことですし、今はいろんなツールがあってモノづくりがやりやすい環境にあるはずですから、有効に活用したいですよね。

安田氏 SIerに丸投げだと、楽しいところを味わいにくいかもしれませんね。実際、業績を伸ばしている企業の中には、内製化を進める企業も増えていますから。

 それと、今はコンシューマーの方が新しいテクノロジーを先に使っていて、その後で企業に入ってくるという流れがあります。スマホも企業に入り始めるのに5年くらいかかりましたし、AIにしても、今はSiriやりんなで一般の人が慣れるフェーズなんでしょうね。みんながその便利さを理解して、ビジネスにも使おうという機運が高まったときに、うまく乗れるかどうかが大事です。

 実際には、新しいテクノロジーに関して、経営層から言われて情シスが動くというパターンが多いようですが、そこを変えていけるといいでしょうね。

西脇氏 最近は私の講演でも、経営層の方々から「AIやディープラーニングについて教えてください」という話が多いですね。「役員会で出ちゃって……」と(笑)。情シスが活性化していれば、逆にボトムアップで「やろう」という話になると思うんです。本来、そうあって欲しいところですね。

安田氏 新しいテクノロジーの良さって使ってみないと分からないので、若い世代が良いと思っているものを、上の人たちもまず使ってみる、使う前に否定しないという姿勢も大事ですよね。

西脇氏 そうですね。そして、これからの情シス部門を担う人たちには、自分が得た楽しい気持ちや成功体験をうまく伝えられる“エバンジェリスト的な能力”を持ってほしいと思います。それができれば、周りも「そんなに楽しいなら俺もやってみよう」ということになりますから。

安田氏 今後、AIやロボットに人の仕事が代替されていくと、最終的に残る人間の仕事って「人をワクワクさせる」ことだと思うんです。今の話でいうと、これからの情シスに求められるのは、“ワクワクを伝達して人を動かす”仕事ということですね。

西脇氏 それってAIやロボットにはできませんから、情シスはなくならないですよ。日々刻々とテクノロジーが進化する今の時代、情シスにできることはどんどん増えていくわけで、こんなに楽しい仕事はないじゃないですか!

安田氏 りんなを使うだけなら情シスじゃなくてもできますが、基幹システムとつなぎ込むことは情シスしかできない。そういうところまでやって、テクノロジーを駆使したビジネスモデルの変革をすることが、成長企業における情シスに求められることとなるでしょう。

最終更新:8月23日(火)14時38分

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