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【千葉魂】 「1軍で投げられる幸せ」 南、クビ覚悟から飛躍

千葉日報オンライン 8/23(火) 14:44配信

 3人の若手投手が一つのグループにまとめられていた。昨秋に行われた千葉県鴨川市での秋季キャンプ。南昌輝投手、川満寛弥投手、二木康太投手はいつも同じグループでの練習を義務づけられていた。それは首脳陣の来季、飛躍してほしいという期待の表れだった。そしてこのチャンスを誰よりも生かそうと燃えていたのが南だった。

 「去年は一度も1軍に上がることがなかった。だから昨シーズンから1軍投手コーチになった落合コーチ、小林コーチにあのキャンプで自分のピッチングを見せたいと思っていた。この機会に絶対、アピールしようと思っていた」

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 与えられた練習メニューはハードだった。単調な作業が延々と続くメニューもあれば、肉体を酷使する練習もあった。その一つ一つを南はアピールの場だと思い、歯を食いしばって取り組んだ。今でも語り継がれる練習がある。午後のメニューとして1時から始まったノックはいつまでも続いた。南、川満、二木のうち誰か一人でもミスをすると振り出しに戻り、延々と続くノック。2時間、3時間続いたが終わることはなかった。「もう、やめるか?諦めるか?」。落合英二投手コーチの誘惑の声に、負けじ魂を燃やした。4時間後の5時。真っ暗になったグラウンドに3人は立ち尽くしていた。ようやくノルマをこなした若者の目は充実感にあふれていた。

 「あのノックは下半身の強化などの意味合いもあったと思いますが、自分の中ではメンタルを強化できたと思っています。あの秋のキャンプを乗り越えたことが一つの自信になった」

 課せられた練習メニューを終えると一人、ブルペンに足を運び、同じ作業を繰り返した。それはカーブの習得。投げる時に腕が縮む欠点を修正すべく連日、ブルペンで黙々と投げた。そんな影の努力とこのキャンプに懸ける意気込みを誰よりも感じ取っていたのが落合投手コーチだった。この時点で、来季の新たな戦力候補として頭に強くインプットした。

 「彼らから耐える心、我慢をする心を感じました。それをあの子からは強く感じました。長いシーズンになると疲れることや、結果が出なくて苦しい時があります。そういう時にそういう心のある選手が大事になってきます。私はきっと南は次のシーズンで大きな力になると秋のキャンプでの姿を見て思っていました」

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 投手コーチの期待通りのシーズンとなった。1軍に抜てきされた春季キャンプでアピールをすると開幕1軍入り。試合に負けている場面などでの登板が多かったが、そこで結果を出した。そして主力セットアッパー陣が続々と離脱する夏場。救世主のごとく、投球を見せ続けた。勢いのあるストレートとフォーク。効果的だったのはあの秋のキャンプで覚えたカーブだった。

 「カーブを、自信を持って投げられるようになったのは自分にとっても大きい。それと偶然の副産物なのですが、カーブをしっかりと投げられるようになってからストレートも良くなった」

 大学4年次に右肩を痛め、プロ1年目はほとんど投げることすらできなかった。2軍戦での登板すらできなかったリハビリの日々。5年目の昨年は1軍に呼ばれることは一度もなくシーズンが終わった。8月頃、一人、覚悟を決めた。「正直、クビになると思っていました。覚悟をしていました」。それでも腐ることなく練習に励み、2軍で結果を出し続けた。その背水の思いが、首脳陣に伝わった。来季契約だけではなく、1軍戦力として期待をかけられた。南もまた秋季キャンプでの小さなチャンスをものにし今、マリーンズには欠かせないセットアッパーとして大きく羽ばたいている。

 「今は1イニングを必死に抑えようという思いだけでやっている。それがチームの勝ちに貢献できたら幸せ。今年は本当に毎日、試合が終わってからの疲労感が違う。でもそれは充実した疲労感。1軍で投げることができる幸せを感じている」

 南は投げる前にマウンド付近でホームに背を向けて少し、しゃがみ込む。そこで深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。昨年、一度は野球人生が終わるかもしれないと思ったあの時の悲壮感を思い出す。するとどんなピンチの局面もプレッシャーにも負けない強い気持ちが生まれる。南は耐える心、我慢をする心、そして地獄を見た男にしか分からない野球ができる幸せを知っている。だからそのボールには魂が込められている。安定した投球でマリーンズを勝利に導く。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

最終更新:8/23(火) 14:44

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