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機能ばかり見ていると、セルフBIの導入は必ず失敗する

ITmedia エンタープライズ 8月24日(水)8時30分配信

 企業のデータ活用において「セルフサービスBI」を導入するケースが増えてきているが、その成否は二分しているのが現状だ。その理由はどこにあるのかをガートナー ジャパンの堀内秀明氏に聞く本インタビュー。後編は、セルフサービスBI導入時に気を付けるポイントやBIツールの今後について聞いた。

【画像:データ活用にもルールと審判が必要だ】

 比較表を作ってマルバツをつければいいというわけではない――。堀内氏はBIツールの選定について、次期の情報活用基盤や情報活用の体制と合わせて考えるべきだと話す。

 現場がデータ活用するというときに、どんな情報をどう活用する可能性があるのか。そして、情報システム部門が一元的かつ最低限提供する必要があるものは何か、それはどのようにして提供するのか。これを整理することがツール選定の第一歩だという。

 「現場のマネジメント層やパワーユーザーが直接データに触れる必要があると判断したときにはじめて、セルフサービスBIが候補になるでしょう。そして、利用人数によっても向くツールは異なります。分析結果を多くの人に共有する場合、ベンダーのプラットフォームで共有するのか、データ項目だけを引き継いで、一元集中型のBIで再度レポートを作るのがいいのか。

 1つの利用シーンだけを見ると、これこれの機能があって……といったように機能にフォーカスしがちですが、データ活用の戦略全体から見たときに『セルフサービスBI』をどう位置付けるか、誰がどこまで面倒を見るのかを考える必要があるのです」(堀内氏)

●誰が「セルフサービスBI」活用の面倒を見るのか?

 セルフサービスBIを導入する際は、どのようなサポート体制を作れるかも成否を分けるカギになるという。「セルフ」という言葉からは“業務部門に勝手にやってもらえる”という印象を受けがちだが、決してそのようなことはない。各種機能の使い方やデータの見方など、相応のリテラシーが求められるのが実情だ。

 そういったリテラシーが高い人が、社内に満遍なくいる企業はごくまれで、基本的には誰かがサポートをしなくてはならない。しかし、専任の部署や役職を置いているケースは少ないという。

 「大企業であれば、情報システム部門と業務部門の間に情報活用推進グループみたいな部署があるケースもありますが、ないならば新規で部署を作るよう経営層に進言するなり、既存の部署がその役目を担うしかありません。サポート体制がないと、ちょっとデキる人が悪知恵を働かせて『われわれの計算だとこうだ』と、数字をごまかすような話も本当にありました。単に業務部門に任せただけではカオスな状況に陥ってしまうのです」(堀内氏)

 セルフサービスBIを導入したものの、違うデータが複数部門から出てきてしまえば、経営陣もその数字を信用できなくなる。結局このケースでは、経営トップからセルフBI禁止を言い渡されてしまったそうだ。

●データ活用の普及には“審判”が必要

 セルフサービスBIツールの面倒を見る、というと難しい仕事に思えるかもしれないが、その役割はスポーツの審判に例えると分かりやすいというのが、堀内氏の見方だ。

 「スポーツをする上では、必ずルールが必要です。そしてルールを守る上では審判が要る。私たちはそのジャッジを行う人間を“スチュワード”と呼んでいます。このデータはこう使う、あるいはこの人たちはデータをここまで使って良い――という感じです。チーム内では自由に加工していいデータも、役員会議でそれをやっては大変なことになる。一元管理型のBIなどを使ってオフィシャルなデータを作るのも、1つの方法でしょう」(堀内氏)

 こうした役割をどこが責任を持って進めるのかという点は、各企業で悩むポイントかもしれない。しかし、これはツールやベンダーが助けてくれるわけではない。企業自らが決めなければならないのだ。業務部門が勝手にツールを導入して活用する様子を放置していると、いずれどこかでデータが“間違った”形で使われてしまうリスクが出てくる。

 「2015年までは、セルフサービスBIそのものや使い方に注目が集まっていましたが、リスクに目が向き始めたのが2016年の変化と言えます。リスクに対して声を上げられるのは情報システム部門ですし、その必要性はあるでしょう。データ活用の結果として情報漏えいなどが起きたら大変ですし。ただ、業務部門からすればスピードが命。『何でもいいから早くデータちょうだいよ』ということになるわけです。このバランスをどう取るのかが、恐らく全ての企業の課題になりつつあるのではないかと思っています」(堀内氏)

 日本企業の多くは、ビジネスチャンスと漏えいリスクを比べたときにリスク回避を選びがちだ。しかし、それで競争に負けてしまえば、結局企業はなくなってしまう。経営陣からすれば、安全でありつつも攻められるデータ活用が理想だが、安全を担う人とスピードを出す人が同じであるケースは少ない。だからこそ、情報システム部門と業務部門が“協業”する必要がある。

 「情報システム部門と業務部門、どちらが相手に手を差し伸べるのかというのは難しいところです。われわれは情報システム部門が手を差し伸べるべきだとメッセージを出していますが、これが違う媒体、例えばマーケティングや販売などを扱う媒体なら、その部門がITに働きかけなさいと言うでしょうね。両方の動きがかみ合えばハッピーかなと思います」(堀内氏)

●本気で業務部門とコミュニケーションが取れるか?

 とはいえ、データ活用について情報システム部門から業務部門に働きかけるのは簡単な話ではない。働きかける際に必要な知見やコツはあるのだろうか。堀内氏によれば「積極性」がカギになるという。待っていても業務部門の課題は分からない。“何か困ってそうな”業務部門のところに行かないといけないためだ。

 日々の依頼を受けているだけでいっぱいいっぱいになり、業務部門とのコミュニケーションまで手が回らないこともあるだろう。しかし、業務が忙しいのは皆同じで、どれだけ本気になって取り組めるかで差が出てくるという。

 「データ活用の好事例を出されている方々の話を聞くと、大体皆さん『ビジネスとの積極的なコミュニケーションが重要』と言います。一方で情報システム部門にアンケートを取ると、今一番足りてないのは“ビジネスとITの連携”などと出てくる。足りてないことは分かっている。ただ、分かっていても行動に移せない。ダイエットと似ていますね。食事制限をしたくても、付き合いの飲み会は断れないんだと言い訳するような(笑)。

 ダイエットのたとえ話をすると、最近よく聞く“結果にコミットする”というフレーズもありますが、データ活用において、情報システム部門は結果にコミットしちゃダメなんです。インフラを整えたり、データの使い方をアドバイスできるかもしれませんが、ビジネス上の効果を左右するほどの権限はない。結果にコミットした人を探し、その人をサポートするのが役割と言えます」(堀内氏)

●情シスが企業内コンサルになるチャンスに

 ビジネスとITをまたぐ企業のデータ活用は、その影響範囲が大きい分、ボトムアップよりもトップダウンのアプローチの方が上手くいきやすいという。堀内氏も、ボトムアップアプローチだけで成功した事例は、まだ見たことがないそうだ。

 「ゲリラ的にボトムアップをやっているケースはたくさんありますが、それだとこれまで言ってきたようにカオスになります。企業全体として継続的に価値を出し続けるならば、トップダウンアプローチは必要です。仮にこの記事を読んでいる人がミドルだったとしても、上に打診すればいいのです」(堀内氏)

 業務部門との対話やサポートの積み重ねが、システム構成のヒントとなっていく。さまざまなところで似た課題があれば、それを巻き取る形で次期システムの機能にしてしまうのもアリだ。

 「情報システム部門は企業内コンサルになるべきだと、本当に私が駆け出しだった20年くらい前から言っていますが、データ活用への動きを通して、そういうことができるようになる、1つのきっかけになるのではないかと期待しています」(堀内氏)

最終更新:8月24日(水)8時30分

ITmedia エンタープライズ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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