ここから本文です

ITの“カンブリア大爆発”とは?

ITmedia エンタープライズ 8月24日(水)8時32分配信

「歴史を振り返れば、変化のなかった時代など、かつてなかった」

 誰の言葉かは忘れましたが、好きな言葉の1つです。

【画像:歴史から振り返るITのトレンド】

 だからこそ、変化に向き合うことが成長につながるのでしょう。ビジネスもまた、変化に向き合い、適応していくことで生き延びてきたともいえます。そして、この言葉は、これからも同様に真理であり続けるはずです。

 この変化は、「劇的な変化」と「持続的な変化」が、交互に起こります。

 「劇的な変化」とは、ある大きな出来事がきっかけとなって、これまでの非常識を常識に変えてしまうきっかけとなる変化です。この段階では、変化はエポックメイキングな出来事であって、多くの人々に知られ、「きっと世の中が変わってしまうかもしれない」と人々が気付き始めます。しかし現実は過去の常識と混在し、その落ち着きどころを模索している時期でもあります。

 「持続的な変化」とは、その新しい常識が世の中に定着していく過程です。改良や改善を加えられ、もはや誰もが常識を受け入れ、適応して行く時期です。

 これをITのトレンドに当てはめて考えると、今の時代は、この2つの変化が大きく入り組んで混在し、複雑な変化を生み出している時代といえるかもしれません。

 私は、ITという言葉がまだなく、「コンピュータ」が全てだった時代からこの世界に身を置き、はや33年がたちましたが、このような「変化」はこれまでに経験したことがなかったものです。この複雑さが、ビジネスの将来を先読みすることを難しくしているのではないかと考えています。

 次に、ITビジネスに関わる歴史を簡単に振り返ってみましょう。

1964年~ メインフレーム

 1964年、IBMがSystem/360というメインフレームを世に出し、ビジネスでコンピュータが普及するきっかけをつくりました。

 1978年~ ダウンサイジングとクライアントサーバ

 1978年に登場したDECのVAX-11/780の登場は絶対神メインフレーム(ホストコンピュータ)の信仰を崩し、1981年のIBM Personal Computer 5150の登場はPCがビジネスの標準ツールになるきっかけを作りました。

 1980年代も半ばを過ぎるころには、小型コンピュータやPCに役割を分担するダウンサイズの時代へと移っていきます。それと並行して、個人で使用するPCと複数ユーザーが共用するサーバコンピュータが、それぞれに互いの役割を分担し合う「クライアントサーバ」の時代を迎えます。1889年に登場し、多くの企業で採用されたLotus Notesは、そんな時代の象徴ともいえるでしょう。

1995年~ Web時代の幕開け

 1995年に、Windows 95(正確には、直後にリリースされたMicrosoft Plus! for Windows95)の登場とともに同梱されたInternet Explorer 1.0 は、ブラウザ時代の幕開けとなります。「インターネット」の普及とともに、ネットワークやITの民主化が進んだ時代です。

 これにより、ITは、企業利用だけではなく、個人利用という新たなユーザー領域を切り開きました。この新しいユーザーを対象とした「コンシュマーIT」という新たな進化の系統が生まれたともいえます。当初「インターネット」は、電子メールやチャットなどのコミュニケーション手段として、あるいは、Webページを閲覧する情報収集の手段として普及していきましたが、これがクラウドへとつながっていくのです。

2004年~ クラウド時代の到来

 「インターネット」に新たな役割が加えられるようになりました。それは、「いつでもどこでも、インターネットにつながれば、望むサービスを受けられるようになる」という仕組みの登場です。2004年にGoogleが始めたGmail(β版)は、そんな時代の先駆けとなるものでした。「クラウドコンピューティング」時代の幕開けともいえるでしょう。

 続く2006年のAmazon EC2と2008年のWindows Azure Platformの登場は、クラウドを企業システムと結び付けました。Googleはその対象が一般の人たちであったのに対して、両者は企業ユーザーを対象にするものでした。

 また、同じ2004年にはFacebookが、2006年にはTwitterが誕生しています。クラウド時代の幕開けは同時にソーシャル時代の幕開けでもあったのです。

2007年~ モバイルと人工知能の登場

 2007年のiPhoneの登場は、モバイルという利用形態を普及させ、ITに関わるユーザーの裾野や用途を大きく広げるきっかけを作りました。これによりモバイルネットワークのコスト低下、センサーを組み込んだデバイス、インターネットへの接続といったIoTの下地が作られていったのです。また、モバイルはソーシャルを爆発的に普及させるプラットフォームともなりました。

 同じ年の2007年、IBMのスーパーコンピュータDeep Blueがチェスの世界チャンピオンを破り、2011年にIBMの質問応答システム、Watsonが米国の人気クイズ番組で優勝、2012年には人工知能の新たなアルゴリズムであるDeep Learningがコンテストで2位を圧倒的に引き離す好成績をたたき出したことで、人工知能への注目が急速に高まりました。

●テクノロジーの進化とITビジネスの行方は……

 モバイルと人工知能の組み合せは、音声認識やジェスチャー入力といったモバイルのユーザーインタフェースをより使いやすい形に変えていくでしょう。また、人工知能はロボットと組み合わされ、人と機械との関わり方や役割分担を変えていくでしょう。

 あらためて今の時代を俯瞰すると、「クラウド」「ソーシャル」「モバイル」「人工知能」が混在し、お互いに影響を及ぼし合っている、そんな複雑な時代といえるでしょう。分かりやすいパラダイムの変化といえるものがないのです。かつてのような、メインフレームからの小型コンピュータへのダウンサイジング、集中処理から分散処理/クライアントサーバといった企業システムにおける処理形態の変化のような単純さはありません。日常生活や社会活動に広く深く関わり、ビジネスのあり方や価値観、政治や経済にも、ITがこれまでになく影響を与えつつあります。これを単純な図式で表せないことが、ITビジネスを難しくしています。

「テクノロジーは、生物界と同様に、自律的に成長し、進化していく」

 US版『WIRED』の創刊編集長であったケヴィン・ケリーの著書『テクニウム』にはこのようなことが書かれています。つまり、本来、人間の意志で生まれ、人間によってコントロールされていると考えがちなテクノロジーは、実際はテクノロジー自身が自律的な意志を持って進化しているのだと彼はいっているのです。

 もしそうだとすれば、およそ5億5000万年前に、それまで数十数種しかなかった生物が突如として1万種にも爆発的に増加した「カンブリア大爆発」が、ITの世界に起きてもおかしくはありません。「カンブリア大爆発」により、さまざまな形態を持った生物が生まれ、食うか食われるかの競争と淘汰(とうた)を繰り返しながら生物の多様性が育まれ、生態系が築かれていきました。

 ITの世界でも、この大爆発のような複雑な混沌が支配し、これまでの常識とは大きく逸脱した新しい常識が生まれつつあります。これは、これまでとは明らかに異なるIT活用の新たな可能性が生み出されつつあるともいえます。そして、競争と淘汰を繰り返し、ITの新たなエコシステム=生態系を形成していくことになるのかもしれません。

 今の時代が、ITの「カンブリア大爆発」かどうかは歴史の評価にゆだねるしかありません。しかし、これまでにはない、常識の転換が進みつつあることはだけは確かなように思います。

 こういう時代を理解するためには、原理原則にあらためて立ち返り、テクノロジーの本源を理解する努力が必要になるでしょう。表面的な現象として現れるキーワードに惑わされるべきではありません。それらがもたらす価値や意義をしっかりと理解することです。歴史を学ぶことで、その理解を助けてくれるはずです。

 ケヴィン・ケリーが語るように、テクノロジーが自律的に進化するのであれば、われわれ人間に残された道は「適応」しかないのです。

「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」

 進化論を唱えたダーウィンの言葉だとの説もあります。

・この変化を正しく理解する努力
・どう適応するかの知恵と工夫
・行動し、失敗し、成功を選択するプロセス

 ITビジネスは、いまこんな時代に向き合っているのかもしれません。

最終更新:8月24日(水)8時32分

ITmedia エンタープライズ