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TPPに赤信号、中国の経済覇権に抗せるか

ニュースソクラ 8月24日(水)12時40分配信

米大統領選、クリントン、トランプ両候補とも反対表明

 TPP(環太平洋経済連携協定)に赤信号だ。米大統領選キャンペーンで、ヒラリー・クリントン民主党候補が先週、「大統領になってもTPPに反対する」と明言した。第1期オバマ政権の国務長官で推進派だった人の“ちゃぶ台返し”発言。協定が白紙化するかはともかく、早期発効は難しくなった。

 波紋は、アベノミクスの成長戦略の柱が消えそう、というレベルに止まらない。アジア・太平洋経済圏を律する諸ルールが、米国主導で決まるのか、中国有利に傾くのか、という地政学的選択に関わるのだ。

 もともとTPPは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの中小4カ国で10年前ささやかに発足した。不釣り合いな超大国、米国が後から参加を表明し、外交政策の「ピボット(基軸)をアジアに移す」としたオバマ政権の目玉政策に昇格した。

 これが呼び水になり、豪州、ベトナム、ペルー、マレーシア、米国の隣組のカナダとメキシコ、さらに日本の計12カ国が拡大交渉に加わり、昨秋に大筋合意、今年2月協定署名。あとは各国が持ち帰り批准手続きのはずが、米大統領選という伏兵に阻まれた。

 トランプ共和党候補は「TPP絶対反対」を鮮明にしている。自由貿易が米国民の雇用を奪う、という論法は、この15年ほど実質所得が減り続けた米国の中流以下の世帯には、強い説得力を持つ。

 「票」を意識すれば、クリントンも反対せざるを得ず、反対の度合いも切り上げざるを得ず、先週の発言になった。言った以上、大統領になっても急に手の平を返せまい。

 協定発効は参加国GDPの85%かつ6カ国以上の批准が条件で、GDPの6割を占める米国(米議会)の批准が不可欠だ。仮に再交渉ともなれば、発効は大幅に遅れ、米国の「アジア基軸」戦略も足踏みする。

 日本では、農産品の関税撤廃問題にわい小化されがちなTPPだが、実態はモノや関税に止まらず、サービス、投資、知的所有権、電子商取引、国有企業の規律、環境など、広範囲な域内経済ルールの設定だ。

 そこに中国の経済覇権を牽制する意図が埋め込まれているのは公然の秘密だろう。国有企業依存度が高く、環境後進国で、言論の自由や法の支配に難がある中国には、TPPは敷居が高すぎるのだ。

 中国もTPPは日米主導の中国包囲網と受け止める。「一帯一路」政策や、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)設立など、独自の経済秩序作りに挑む中国が優先するのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国に日、中、韓、インド、豪州、ニュージーランドを加えたRCEP(東アジア包括的経済連携)の実現だ。

 さらに、その先にAPEC(アジア太平洋経済協力)21カ国・地域で検討されている。FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想がある。

 世界GDPの6割を包含するFTAAPの土台になるのは、中国不在のTPPなのか、米国不在のRCEPなのか、という先陣争いが始まっている。「ちゃぶ台返し発言」のクリントン氏の真意の程が知りたい。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:8月24日(水)12時40分

ニュースソクラ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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