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40年前から教育にICTを活用 人口増にも貢献するつくば市の実践とは?

ITmedia ビジネスオンライン 8月25日(木)6時47分配信

 「消滅可能性都市」――。

 この言葉を耳にしたことのある読者は多いだろう。これは少子化や人口流出などによって将来的に消えてしまう可能性のある自治体を指し、全国の市町村のほぼ半分が指定されている。

【つくば市の人口推移】

 “消滅”までには至らないにせよ、各自治体の人口減少に歯止めが効かないのが現状だ。総務省が先月発表した2016年1月1日時点の「住民基本台帳に基づく人口動態調査」によると、実に41道府県で人口減、秋田や青森では減少率が1%を超えた。国内全体でも、日本人の人口は1億2589万1742人と7年連続で減少、前年からの減少幅は調査開始以来で最大の27万1834人に上った。

 そんな世の中の流れに逆行して、人口が増え続けている自治体がある。茨城県つくば市だ。

 同市はこの10年間で約14%も人口増加し、今後も緩やかに人口が増えていくと推計されている。その要因として、2005年に「つくばエクスプレス(TX)」が開通したことで、東京(秋葉原)~つくば間が約45分でつながり、都心で働く通勤者向けの住宅地開発が進んだことなどがあるが、それとともに「つくばの学校に子どもを通わせたい」と移住する世帯が後を絶たないということがある。例えば、市立春日学園義務教育学校は、2012年の開校時から児童・生徒数が約2倍の1800人になったという。

 元々、つくば市は研究学園都市としてできた背景があり、国や民間企業の研究所の集積拠点だった。それに伴って筑波大学をはじめとする教育機関が誕生、今では「教育都市」としてのイメージが定着した。2012年度からは市内すべての小・中学校53校15学園において小中一貫教育を実施するなど、教育都市としての変革の歩を止めない。

●40年前からICT教育を実践

 そのつくば市が今、全国の教育関係者などから熱い視線を集めているのが「ICT教育」である。

 学校の教育現場にPCやタブレット端末、ビデオ会議システムといったITツールを持ち込んで、学習効率を高めようなどとする取り組みで、文部科学省も2020年代に向けた教育の情報化を推し進めたり、全国の小・中学校にデジタル教科書の導入を検討したりしている。そうした国の取り組みに対してアドバイスする立ち位置につくば市はあるのだ。

 つくば市は2015年11月、ICT教育などの教育水準の向上と魅力あるまちづくりを推進するべく「ICT教育全国首長サミットつくば宣言」を採択。それを基に、つくば市長の市原健一氏が発起人代表を務める「全国ICT教育首長協議会」を発足した。設立発表会が開かれた2016年8月3日時点で、発起人である10自治体の首長と、全国94市区町村が趣旨賛同自治体として協議会に参加する。この取り組みには文科省をはじめとする国も強い関心を寄せており、「今後も国との連携を強めていきたい」と市原市長は話す。

 なぜつくば市はICT教育分野の中心にいるのだろうか。ICT教育と言うと、まだまだ最近のことのように思われるが、実はつくば市は40年前から取り組んでいるのだ。1976年に全国に先駆けてPCを導入、個別教育を実践した。そこから脈々と継続してきた結果である。

 現在、つくば市では、電子黒板を全小中学校の普通教室に設置し、デジタル教科書は小学校全学年の国語、算数、理科、社会で、中学校は全教科で活用。加えて、すべての小中学校で同時接続できるテレビ会議システムを導入している。

 学外からインターネットを使って学習できるシステム「つくばチャレンジングスタディ」も導入。これによって、例えば、入院中などで通学できない小中学生でも、それぞれの学力に応じて独習することが可能になる。「どこでも、いつでも自由に学習できるこのシステムは、学力向上にも役立っているし、子どもたちのモチベーションアップにもつながっています」と市原市長は説明する。

●つくば市の「4C学習」

 つくば市のICT教育の特徴は「4C学習」だ。これは「Community(協働力)」「Communication(言語力)」「Cognition(思考・判断力)」「Comprehension(知識・理解力)」を養うことに主眼を置いている。

 例えば、言語力については、電子黒板などを活用して互いの考えの共通点や相違点を整理しながら伝えることを1~4年生で学び、5~7年生では互いの立場や意図をはっきりさせながら伝え合う、そして8~9年生では議論してお互いの考えを深めたり、推論を用いて思考して伝え合ったりすることを目標にする。

 こうした4Cを育成するためにICTを効果的に活用する。ただし、誤解してはいけないのは、ICTはあくまで教育のためのツールなのだという。

 「ICTは1つのツールにすぎない。子どもたちが自ら課題を見つけて、その解決のためにICTをどう活用するか、そういう発想を常日ごろから持ってもらうような教育をすることが大切です。単にICT機器をポンと渡しても意味がありません」(市原市長)

 実際、全児童・生徒にタブレット端末を配布して、その後まったく学習に生かしていない、まさに“宝の持ち腐れ”といった学校は多い。

 そしてまた、子どもたちの自発性を育てるためには、教員のスキルを高めることも不可欠だとする。「どのようにICTを使うかは、先生も一緒に考えるべきです。そういう場を作っていかないといけないし、その点でつくば市はうまくやっていると思います」と市原市長は胸を張る。

●個々の能力を伸ばす教育を

 このようなつくば市の取り組みは既に成果を生み出している。

 学力面では、「全国学力学習状況調査」(全国学力テスト)において、春日学園9年生が全国トップレベルの成績を上げた。特に応用力を問う試験で高い点数を獲得している。

 ただし、単に学力の高低ではなく、それ以外の面での教育がより重要だとする。つくば市教育委員会の柿沼宜夫教育長は「昔のような一斉指導が通用する時代ではなくなりました。個々の能力を伸ばすための教育が今求められています。また、グローバルで通用する人材を育てるためにも、プレゼンテーション能力や思考力の強化が必要なのです」と強調する。

 時代とともに教育のあり方は変わっている。そうした流れについていけない学校教育は、果たしていかほどの価値があるのだろうか。教育が今、大きな転換期を迎えているのは間違いない。

(伏見学)

最終更新:8月25日(木)6時47分

ITmedia ビジネスオンライン

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