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アムロにガンダムを持ち出された地球連邦みたいならないための機密情報管理術(後編)

ITmedia エンタープライズ 8月25日(木)8時27分配信

 前回は、「機動戦士ガンダム」の主人公アムロが、地球連邦政府の最新機密であるガンダムを持ち出せてしまった背景やその対策について述べた。しかし、そもそも連邦政府のガンダムの管理が“ずさん”だったのは明確な理由があったのだ。それは、ガンダム自身が機密情報と見なされてなかったことだ。これは、第一話で敵に攻撃を受けた際の対応がお粗末だったからだけではなく、その後もかなりの期間、放置され続けたことから推察することができる。

【画像:機動戦士ガンダムの「一年戦争」における地球とスペースコロニーの関係】

 もし、その情報が重要な機密情報として管理されており、その情報が敵に捕捉されて攻撃を受けたとなれば、それを守るために直ちに援護部隊を投入するはずだ。しかし実際には、ガンダムを積んだホワイトベースは襲撃を受け避難民となった民間人を移送するというハンデを背負わされ、自力で故郷の「サイド7」から(離れた味方の拠点であるルナツーまで)脱出しなければならなかったのだ。

 しかもその間、アムロは戦闘訓練を受けた軍人がほとんどいない状況で戦わないといけなくなる。連邦政府は、その名が知れていた「赤い彗星のシャア」が全力で追撃している状況をつかんでも、アムロらに満足な支援を提供しなかった。そして、何とか連邦軍の拠点にたどり着いても、アムロが敵からガンダムやその他の最新モビルスーツを守ったことも評価されない。しかも、その後の地球への航行にも、一切の護衛がついていない冷遇ぶりである。

 アムロたちはその後も機密を守る役目どころか、すぐに連邦軍の拠点などを追い払われてしまう有り様だ。むしろ地球連邦政府がアムロを無用な厄介者として扱う描写も多い。弾薬の補給など最低限の支援以外は、ストーリーの半ばを過ぎた第二十三話に届けられた新兵器「Gパーツ」の到着を待たなければならない。

 さらに、第一話で亡くなったと思われていたアムロの父親でガンダムの設計者、ティム・レイの連邦政府からの扱いもそのことを裏付けている。アムロの父は最新兵器を開発する技師で士官でもあったが、第一話での戦闘の際に宇宙空間に放り出され、酸素欠乏症が起因すると思われる障害を抱える。その後、アムロは父と再会するが、その時の父親は連邦政府から何の保護や管理も受けることなく、非常に粗末なアパートで独り暮らしをしていたのだ。これは圧倒的な性能を持つ最新兵器を完成させた功労者の扱いとはとてもいえない。さらに、敵がこの技術者を拉致して機密情報を盗まれるというリスクも全く考慮していなかったことも、併せて示しているのだ。

 つまり、ガンダムは連邦政府にとって重要機密ではなかった。ガンダムの重要性が認識されたのは、敵がガンダムに対して最重要のターゲットとして扱っていることが判明した後だ。ただし、その頃には既にガンダムが圧倒的な戦果を挙げており、もはや機密を通り越して、重要な戦力であることも併せて認識されていたはずである。

 敵からの情報と戦果という実績の2つがそろって、保守的な連邦政府もしぶしぶガンダムの重要性を認めざるを得なかった――というのが本当のところかもしれない。

●機密情報の認定と管理の難しさ

 機密情報の漏えい事件は、もちろん現実にも数多く発生している。例えば、多くの研究費と研究者たちの努力の結晶である研究開発によって生まれた特許情報や特許以上に、極秘の情報として管理されている情報などだ。

 しかし実は、このような情報を機密情報として管理することは比較的やりやすい。なぜなら、その情報の発生が研究室などに確定されており、新発見などの機密情報が発生する瞬間やそれ以前からコントロールしやすいからだ。それを的確に管理されているのであれば、その情報の原本以外の複製は特別なバックアップ情報など以外には発生しにくい。そこへのアクセス権の付与や履歴なども運用ルールに従ってすべてが管理できる。

 それに対して、何らかの要因で意図しない形で機密情報になってしまった場合は、その情報の原本がどこにあるか、複製が幾つ作成されているかも分からないという状況下で管理せざるを得ない状態になる。しかし、一度野放しにしてしまった情報を後からいくら厳重に管理しようとしても、その管理されている情報が全てかどうかを判別することは、不可能になる。全く意図しない形で複製が既に作成されていて、そこからどのように漏えいしているかもわからない。

 さらに、現在のどんどん進歩を続けるインターネットという仕組みは、巨大な情報漏えいの加速装置になりうる。もし、重要な機密情報がTwitterやInstagramのようなSNSに投稿されれば、動画であればYouTubeやニコニコ動画を経由して、瞬時に世界中にその情報は広まってしまうのだ。

 これは、英国などでプライバシー保護の観点から法的に規定されている「忘れられる権利」でも論じられる課題と同じ課題を抱えている。法律などでいくら規定して、削除することが決まっても、それは検索エンジンの検索結果からの削除だけしかできず、実際に情報がどこに拡散しているかはわからない。後からでは、その情報を完全に消去することや消去が完全に行われたことを証明するは不可能なのだ。

 そして、このことはガンダムの第一話の状況にもあてはまるのだ。ガンダムのようなモビルスーツは、情報ではなく形のある物体なので複製することは難しいが、第一話でアムロがいとも簡単に使用できたことを考えると、敵に奪われなかったこと自体が非常に幸運だったといえる。敵は、既にモビルスーツの在りかを把握しており、アムロがガンダムに乗り込むという偶然が起きなければ、圧倒的な性能を持つ秘密兵器の情報と秘密兵器そのものをセットで盗んでいただろう。

 さらに言えば、重要機密であるガンダムを盗んだ敵はその構造や弱点を把握して、構造を模倣したジオン版ガンダムを開発し、連邦政府を追い詰める図式になったことだろう。連邦政府は機密の固まりであるガンダムを放置しておいて、後で非常に重要な機密だと気付いた時点で対策を施しても、その時には既に機密情報は制御不能に陥っている。

 だからこそ組織は、発生時点で将来の機密情報になる可能性があるものは、可能な限り全てリストアップし、少なくともその所在がどこで、どのような管理がされているかは把握しておくべきだ。その機密が電子化された情報であれば、誰がアクセスしたかの履歴などの管理も必要だろう。

 モノも情報も重要機密を守るためにはなんらかの対策が必要だ。その際にはどうしてもコストがかかるため、全てを守ることは難しい。守るためのリソースも無限ではないのだ。だからといって、放置しておいて後から機密と定義して管理しようとしても、既に制御不能の状況に陥ってしまう。連邦政府はガンダムという戦局を左右する可能性のある重要機密に気が付かずに放置した。しかし、(パイロットの教育も受けておらず一切コストをかけていない)アムロという存在がそれを守り、しかも「ニュータイプ」と呼ばれる能力の覚醒によって、当初想定していなかったガンダムの活用方法まで示してくれた。そして、このいくつもの奇跡のおかげでジオン公国との戦争に勝利できた。

 しかし、われわれの現実世界の組織や企業において、このような奇跡が起こるとは、考えない方がよい。なぜなら、満足なセキュリティ対策と運用をしていなければ、ニュータイプどころか“新しいタイプの攻撃”などによって大きな被害を受けてしまう可能性の方が大きいからだ。

●本当の過ちは重要機密に気づけないこと

 アムロのライバルであり、最強の敵である赤い彗星シャアは、第一話の最後に「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを……」というファンの間では有名なセリフを話している。これは、戦功を焦ったシャア自身が自分を戒めた言葉である。

 しかしこの言葉は、戦争という非常な環境下での最大の重要機密を守るどころか認識すらできなかった連邦政府の機密管理プロセスの甘さに対して、むしろ用いた方が良いだろう。ガンダムの重要性に気づき、あと一歩まで迫ったシャアは、部下の暴走でその入手に失敗してしまったが、実際はそれほどのミスを犯してはいない。むしろ早期にリスク(ガンダムの活躍)の所在を確認したことは、称賛されてもよいだろう。シャアの若さゆえの過ちよりも、連邦の組織の意思決定の過ちの方がはるかに深いのだ。

 そして、連邦政府は奇跡的な幸運で何の対策もせずに戦争に勝利してしまった。たからこそ、第一話でアムロに“盗まれてしまった”という事実が全く教訓にならず、その後のガンダムシリーズでも機密兵器が盗まれ続けてしまう。最も酷いのは、続編にあたる「Zガンダム」(1985年~1986年放映)での「ガンダムMk-II」だ。何と一度だけでなく何度も盗まれ、挙句の果てには全機が盗難されてしまった。

 そういうエピソードがないとアニメとして成立しないという大人の事情をさておき、少なくとも現実にガンダムのような高額の開発費をかけた重要機密(しかも兵器)をずさんに管理していたのでは、戦争での勝利はとても望めないだろう。

 現実世界では、ガンダムのようなモノよりも電子化された情報の方がはるかに守りにくい。電子化によって目には見えない状態となり、しかも複製が無限に繰り返される可能性によって、その情報の所在自体を管理できなくなる。それらの困難を乗り越えて守るには、守りたい情報を明確に定義し、できるだけ早く情報のラベリングとランク付けを実施することである。

 サイバー空間での戦いは、IoTが本格普及すれば物理攻撃も考慮に入れなければならないだろうが、基本は「情報戦」になる。だから情報を定義することが重要で、その上で初めて機密かどうかを認定できるようになる。そして、認定したことによってようやく守るべき対象になるのだ。

 企業や組織は、サイバー空間での情報戦で敗れれば、ビジネスなどの現実の世界でも勝つことはできない。そうならないために、まず重要な機密情報が定義もされずに埋もれていないかを確認してみるべきだろう。そして、その重要な情報の棚卸を定期的に実施する。それができなければ、ガンダムのように簡単に何度も重要機密が盗まれてしまう状況にならないとも限らないのだ。

 この状況は、機密情報のだだ漏れが常態化してしまっていることを示している。もし、あなたの所属する企業や組織が研究開発をいくら実施しても、なぜかすぐ他社に追随されてしまう――ということが常態化しているとしたら、実は気がつかないうちに、あなたの所属する組織にある(ガンダムのような)重要機密がだだ漏れになっているのかもしれない。

※出典:「機動戦士ガンダム」は株式会社サンライズ制作のアニメーションです。

最終更新:8月25日(木)8時27分

ITmedia エンタープライズ

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