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がんの多くは治せる

ITmedia ビジネスオンライン 8月25日(木)10時36分配信

 「がん(癌)」は、悪性腫瘍もしくは悪性新生物とも呼称されます。この「悪性」が意味するところは、「遺伝子の変異によって人体の中に忽然と発生、生理的に制御されない増殖をし続けて、正常組織を破壊しながら最終的には人体を死に至らしめる」、ということにあります。がんは医療界がいまだ完全にコントロールできない極めて厄介な代物であり、皆さんの中でがんを恐れない方はまずいないでしょう。

 英語ではCancer と称されますが、その言葉の歴史は古く、古代ギリシア語のKarkinos(=カニ)に由来しています。無限に細胞分裂して周囲にいびつに広がるがんの振る舞いを、あちこちに爪を伸ばして食い込んでいく様に例えたと考えられます。人類は古代からがんを経験し、苦しまされながら、その対策に尽力してきました。3000年をも超える期間、人類はがんと向き合ってきたわけですが、高度に発展を遂げた現代医療の粋を尽くしてもがんは未だ難治性の疾患として位置付けられています。もちろん、医療技術は日進月歩に発展し続けており、がんの治療技術も言うまでもなく進化を遂げています。

 しかし、社会の高齢化と生活習慣の欧米化により、日本でのがんの罹患数は右肩上がりに増えていることはしばしば指摘されるところです。三大死因の中でも、脳出血や脳梗塞など脳血管疾患は漸減傾向で、心筋梗塞も頭打ちであるのに比べると、がん罹患数の増加は、「がんに対する現代医療が功を奏していない」、と言われてもやむを得ない感があります。

 ただし、あまり強調されないことですが、年々変化する(高齢化する)年齢構成の影響を受けないように、各時代の年齢構成を同一のものに調整した上でがんによる死亡率を算出すると、全てのがんが頭打ちないしは減少しています。すなわち、がんの罹患数や死亡数は絶対的には増えていますが、高齢化社会の影響を統計処理によって取り除くと、がん死は減っており、がんに対する現代医療は効果を示していると見ることができます。

 ここで注意しなければいけないことは、医療においては、治療や診断することのみではなく、予防する意識が極めて大切な要因だということです。医療技術が高度に進化して、診断・治療技術が研ぎ澄まされてきたとしても、医療を受ける主体者である皆さんが、予防を心掛けて早期発見のために健診を励行するなど、医療を享受する行動を起こさなければがん治療の成績は改善していかないでしょう。その点にも留意しながら、昨今のがん治療の現状について考察します。

 2016年になって、日本におけるがん征圧の中核拠点である国立がんセンターから、がんに対する情報提供が盛んに行われています。その中の一つに、全てのがんの全病期の10年生存率があります。

 これを見ると、まず、約60%のがん患者が、治療後10年間はがんで死亡していません。がんが発見され治療をしてから10年死なずに生き延びていれば、がんによる死は免れたと言えます。また、全てのがんで、発見する時期が早ければ早いほど10年生存率は高くなり、例えば、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、喉頭がんなどは、早期発見できれば(これらは実際に早期発見が十分可能な「がん種」です)10年生存率はほぼ100%と言えるほどです。

 また、前立腺がんや甲状腺がんは、比較的おとなしい「がん種」で、多少病期が進行してしまっていても、遠隔臓器に転移さえしていなければ(ステージ4でなければ)10年生存率は90%を切りません。

 一方で、膵臓がんや、胆管がんは、早期発見が難しいばかりか、たとえ発見が早くても、それ以上に進行が速いために生存率が極めて不良な「がん種」です。ただし、膵臓がんや胆管がんは全てのがんの中で発症率は5%程度です。

 因みに胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、喉頭がんを合計すると全体の54%、それに前立腺がんや甲状腺がんを加えると60%に及びます。他に、早期発見が可能で治療成績が比較的良い腎臓がんや膀胱がんを加えると、7割に及ぶがんは、早期治療により治癒が可能ながんと言えます。

 このように全体の7割のがんは、積極的に定期検診を受けて早期発見ができれば、確立された現代医療により治癒させることができます。そして、治癒が可能になるばかりか早く見つければ見つけるほど負担の小さな治療で根治できるようになってきました。

 例えば、大腸がんは注目に値します。大腸がんは、近年増加傾向にあることがしばしば指摘されますが、がんの中では比較的緩徐に発育するタイプで、検査法や治療法が確立されています。すなわち、検査を受けることを忌避せず早期発見できれば確実に根治することができる代表的ながんです。

 大腸がんが早期で粘膜内にとどまっているレベルであれば開腹手術を受けずに内視鏡検査の時に同時に切除することができるのです。検査を受けるだけの負担で同時に根治的治療も受けられるということになります。

 一方で、多くのがんがそうですが、大腸がんは、発生直後は無症状です。自分は大丈夫だと、何年も検査をせずに放置しているうちに、知らぬ間に発育したがんが腸管の内腔を塞いでしまい、腸閉塞の症状を来して治療を余儀なくされることがあります。こうなってから発見された大腸がんは多くは進行がんで、その時点で既に肝臓や肺に転移していることもしばしばあります。

 このレベルではどんなに大きな手術を行っても根治的治療を実現するのは極めて困難になります。一時的には治癒手術ができたように見えても、数年後に再発してコントロール不能になるという悲劇が発生することが少なくありません。

 定期的に内視鏡検査を受けて、たとえがんが発生しても検査と同時に根治的な治療を済ませられるか、何年も検査を受けずに進行がんとなり自覚症状に悩まされてから初めて医療機関の門戸を叩いて手遅れになるかは、治療を受ける主体者である皆さんにかかってきます。

 胃がんや乳がんなど発症数は多いが早期発見、早期治療が可能ながんも同様です。このように早期発見、根治的治療が現実的ながんは、がんを治すということだけではなく、できるだけ体に負担を掛けない治療、大きくメスを入れない治療の開拓に目が向けられています。

 例えば、胃がんも内視鏡で切除する方法が開拓されていますし、乳がんは乳房温存治療や乳房再建治療がほぼ標準化されるなど、がんを治すことにとどまらず、身体の負担や精神的負担を減らす質の高い治療が選択できるようになってきています。しかし、これら高品質の治療が享受できるのは早期に発見できた時のみです。

 一方、膵臓がんや胆管がんは早期発見や根治的治療が困難ながん(難治がん)の代表です。スキルス胃がんも一般の胃がんとは異なり、膵臓がんや胆管がんと同様に難治がんに含まれます。このような早期で発見できないがん、治療をしても間もなく再発して最終的には死に至るがんに対する根治的治療は、残念ながら確立されていません。

 前述のように、根治できるがんは7割を占めるようになってきましたが、これら比較的少数派の難治がんに対してどのように与していくかは、現代医療において喫緊の課題と言えます。人生を大切に捉えて、生活の質をできるだけ落とさない治療の立案に励む必要がわれわれにはあります。

 化学療法は分子標的薬、免疫療法薬など新しい治療薬が開拓されていますが、軽減されたとはいっても副作用が相応にあることや高額の薬価負担などの問題があります。副作用がなく、生活の質をさげない、効果的な治療、薬価負担も大きくない治療の開拓が望まれます。ウイルス療法、核酸医療、遺伝子治療など今後の新しい治療に期待するところ大です。

(阿保 義久)

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:8月25日(木)10時36分

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