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独特のエネルギーがほとばしる大阪映画

Lmaga.jp 8月25日(木)17時0分配信

大阪を舞台にした映画のハナシ

季節はもうすぐ晩夏。このころになると決まって思い出す映画がある。昨年、10年ぶりの作品『FOUJITA』を発表した小栗康平監督のデビュー作で、宮本輝の同名小説を映画化した『泥の河』(1981年)だ。

舞台は、昭和31年の大阪。中之島の西端、安治川の河口付近で大衆食堂を営む夫婦(田村高廣、藤田弓子)の幼い息子・信雄と、川に停泊していた舟で母と姉と暮らす少年との出会いと別れを描いている。天神祭の夜、舟で姉弟たちの母親の見てはいけない姿を見てしまった信雄。母親はそこで春をひさいでいたのだった。翌朝、岸を離れていく舟を信雄は追いかけるのだが…。母親を演じていたのは加賀まりこ。日本がまだ戦争の傷跡を遺していた最後のころの物語。作品全体を透明な悲しみが包み、大阪を舞台にしたすべての映画のベストワンとして挙げる人も多い名作だ。

宮本輝原作で大阪を舞台にした映画には、是枝裕和監督の長編デビュー作『幻の光』(1995年)や森崎東監督の『夢見通りの人々』(1989年)などがあるが、年上の美しい女性と青年の初々しい恋を深作欣二監督が撮った『道頓堀川』(1982年/松坂慶子・真田広之主演)というのがある。そのサイドストーリーに、真田の友人で、ビリヤードで生計をたてることを目指す佐藤浩市と、山﨑努演じる父親との確執を描いたエピソードがある。かつて伝説のハスラーだった山﨑に少女のころに助けられたことがあり、今はビリヤード場のオーナーとなっている女性を加賀が演じていた。大阪というよりミナミのまったりとした空気が主役の映画で、登場人物もみな味が濃かった。そのなかで加賀の若い頃を演じていたのが紗貴めぐみ。日活ロマンポルノで人気のあった女優で、彼女はミナミを舞台にした映画にもう1本出演している。これがわかる人はちょっとした大阪の映画通だと思う。正解は井筒和幸監督の出世作『ガキ帝国』(1981年)だ。

独特のエネルギーがほとばしる大阪映画

『ガキ帝国』は、万博を間近に控えた60年代後半の大阪を舞台に、キタとミナミの不良少年たちの抗争を軸に、差別や貧困の問題もひっくるめて当時の大阪という街の独特のエネルギーを熱い疾走感のなかに描いた青春映画。主演は島田紳助、松本竜介、趙万豪(ちょう・ばんほう)、升毅。35年前だからあたりまえだが、みな若く生きがいい。そこには万博前の、いわば成熟前の大阪の青春そのものが刻まれている。紗貴めぐみは、紳助ら主人公3人の友人だったが、いつの間にか升毅演じるライバルの恋人になる少女を演じていた。この映画は、それまでピンク映画を撮っていた井筒監督の一般映画デビュー作で、実はこの映画がデビューという俳優も多い。例えば、國村隼がそう。趙万豪が演じたケンの友人で、アパッチと呼ばれる集団のリーダー・崔を演じていた。ただ、このときの名前は國村隼ではなく米村嘉洋となっている。また、そのアパッチのメンバーのなかに、いまやイケズ課長を演じたら日本一(現在、NHKドラマ『水族館ガール』に出演中)の木下ほうかもいて、彼もこれがデビュー作だった。

その木下ほうかが、井筒作品で今度はしっかり目立つ役を演じ、彼の初期の代表作となったのが、『ガキ帝国』から15年後に撮られた『岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS』(1996年)。主演はナイナイの矢部浩之と岡村隆史で、木下は主人公の2人と中学生のころから抗争を続けている他校の不良のリーダー役。実年齢31歳で中学生を演じている。舞台となっているのが70年代半ばの大阪岸和田で、『ガキ帝国』と比べると、70年の万博を境に変わった大阪の空気が感じられて面白い。また、35年前と20年前の木下ほうかもね。

さて、今回は大阪を舞台にした映画を書き連ねてみたが、それは8月27日から『後妻業の女』が公開されるから。資産家の高齢男性に近づき、結婚もしくは内縁関係を結んで遺産をがっぽりと手に入れる、そんな「後妻業の女」を大竹しのぶが活き活きと演じる話題作。監督は名匠・鶴橋康夫。中之島の遊覧船での婚活パーティーやら、大正区の千歳橋やらあべのハルカス前やら、関西人にはお馴染みの場所が多数登場するのも楽しいが、出演者に豊川悦司、尾野真千子、水川あさみ・・・と関西出身者が多く、嘘でない、ナチュラルな関西弁が心地良い。特にワンシーンだけだが、我らの笑福亭鶴光先生が登場し、主人公のひとりの豊川悦司とやりとりするシーンは必見だ。あと、大竹と尾野が、水をぶっかけ合い、生肉をぶつけ合う凄まじいバトルをくり広げる焼き肉店のシーン。大阪の人間なら、あれがどこのお店か気になるところ。あの雰囲気はやっぱり鶴橋・・・、と思いきや、実は堺市北区にある民芸焼き肉店だった。さらに気になる人は探してはいかが。晩夏の焼き肉もかなりいいよね。

文/春岡勇二

最終更新:8月25日(木)17時0分

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

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昔は街の広場で、現代はYouTubeで。歴史を通じ、公開処刑には必ず人だかりがつきものでした。人が処刑というものを、恐ろしく不快に感じながらも、つい気になって見てしまうのはなぜか。フランシス・ラーソンが人間と公開処刑の歴史、中でも斬首刑に焦点を当てて解説したこのトークは、気分の良い内容ばかりではありませんが、同時に興味をそそること間違いないでしょう。